反撃開始
「なら、次は俺が、切り札を1枚使おうかな」
「へぇ!!見せてごらん!」
「了解した」
今は、俺もミランのも楽しすぎて心が燃え盛っている。
ここは今1度『冷静さ』を取り戻そう。
一昨日に見た大精霊の『精霊魔術』から得られるものは多かった。
それに彼は詠唱なしに、あれほどだった。
今、ミランの水の魔法のおかげで水の精霊たちが集まってきた。
「ハウル!反撃開始だ!!!」
そう言って仮面とローブを外した。
「!いいよ!さっきは待ってもらったからね」
それに合わせ、彼女の銀の髪と、見えないはずの青い瞳が顕になる。
一昨日見た精霊魔術からは得られるものが多かった。
俺は今、魔法使いと精霊というか枠組みで考えている。
なら、俺が『精霊使い』……いや、それよりももっと近くへ歩み寄れ。
それは、きっと精霊魔法と精霊魔術の差だから。
「『水ノ理』『思イハイツモ届カナイ』『苦シムコトハナイ』『ソレハ変ラナイコト』『デモイマハオレガイルヨ』《精霊魔術》《悲哀の水精霊》!」
ははっ!できた、できた!
現れた水は人の形をなし、美しい女性が、驚いた顔で俺を見る。
以前と同じく子なら、さっきの詠唱はきっと驚くものだろう。
「よろしく頼むよ、ウンディーネ……今の君には、俺がいるから……ね?」
手を差し伸べ、握手を求める。
その手を、怯えるように見て、俺の顔を同じぐらい怯えて見る。
……いや、俺の『目』を見ているな。
「大丈夫……それともなんだ?ハグの方がいいかな?
去り際に君にキスされたのを俺は覚えてるよ」
そう言ってオーバーに両手を広げると、顔を真っ赤にして握手する。
冷たい水ではなく、人よりも暖かい……いやっ!?あつっ!?
「ははは……それじゃ、頼んだよ、ウンディーネ!」
仮契約を彼女と果たす。
「お熱いね、お二人さん……さて、私もやるとしましょうか」
そう言って、水の溢れ出る剣を向けると、その水は彼女を襲った。
「へっ!?ちょっ!?解除!……なんで消えないのっ!?」
俺の目にもびっくりの光景だ
『人の魔法を乗っ取る』そんなこと、できるのか?
「う、ウンディーネ?」
そう彼女の方をむくと、顔を赤くしながら『してやったり』と俺の方を向き、自慢げに笑う。
「あ、あぁ!た、助かる!」
そう言って距離を詰め、切りかかる。
「だー!?なにこれ!?じれったいなぁ!
『大地の脈動』『世界の吐息は』『ただそれだけで災厄だ!』《剣魔法》《噴煙火剣》!」
「炎の剣っ!」
目の前にいるだけでこの熱の余波……すごいな、この魔法も。
水をあっという間に蒸発させる。
「ウンディーネ!任せた!」
「何を任せるのかな〜?」
口に出さなくても、ウンディーネクラスの精霊ともなれば心を読めるではずだ。
『大雨を降らせることは出来る!?』
そう問いかけると、清涼な水のように透き通った声が聞こえた。
『……可能ですよ、カルカトス……さん』
モジモジしないでいただくと俺も戦いやすいなぁ……!
『なら、お願い』
魔力をゴッソリ持っていかれたが……つまりそれは魔法発動の合図。
何かが震えるような、濁りすぎて聞こえない……いや、透明すぎて聞こえない程の音が会場にいる人々の耳を通り抜ける。
ウンディーネの詠唱だ。
俺にだけはこう聞こえた。
〈大雨ノ襲来〉
大粒の雨が、俺たちのたっている会場にだけ、強烈な勢いで振り続ける。
「これじゃ、鎮火されないよ!?」
そう言いながら、切りかかるミラン。
テンションが上がっているせいか、その剣に手加減を感じられなくなってきた。
「熱っ!……っう!やっぱり強いな」
切り合えば切り合うほど不利になる。
確かに火は消えていないが収まってはいる。
今俺がいちばん不安な点、それは。
「その剣……何なんだ?傷が癒えない」
「!ご明察、この剣は、切った対象の傷を1時間、そのままにしているんだ。
それのオンオフは私にしかできない」
「へぇ……!それは大変だ」
「余裕そうだね」
「あぁ、相棒が今はいるからな」
「信頼している……っ!?」
「ははははっ!気づいたなぁ?だがもう遅い!ウンディーネ!」
空から振り落ちてきた雨、それら全ては火を消すためではない、その雨水全てを操ることが目的だ。
本来ならこんな大魔法、扱うだけでボロボロになってしまうが……今はウンディーネがいる!
大雨は槍や剣やムチになり、彼女を襲い続ける。
流石だ、その全てを完璧にいなしてしまっている。
むしろ笑ってさえいる、化け物だ。
「だが、言っただろう?『反撃開始だ』と」
「!何をする気かなぁ!?」
「ウンディーネ、アレを」
そういうと、水でてきた弓を作り出す。
「!あぁ!なるほど!君は弓術も扱えるからねぇ!?」
性格無比で無慈悲な矢を打ち込む。
ただひたすらに、彼女を見つめ続ける。
そして、絶対に当たるその瞬間を狙い、撃つ!
『当たる』その瞬間、飛び散るのは水の武器、水の矢、そして、ミランが笑いながらこういった。
「こんなに早く切り札を切る事になるとはね」
 




