リミッター
「……さてさて……どうしようかな」
私が思案していると、彼女は
「……さて、リミッター……外しますね」
そういった。意味もわかる。
「?リミッター……?あぁ、アレね」
彼女も私とのおなじキメラなんだ、なにか力を抑えられているわけか。
「なら、拙者らは、その時のために、足止めをさせてもらう」
「……そうね、やりましょう」
「そんなに堂々と言われて足止めされるほど私は優しくないさ」
長い太刀、特殊な妖術。
力強い一撃、竜の膂力。
その全てを私は知っている。
その全て、彼らが知らない奥底まで知っている。
が、捨て身の特攻のせいか、時間はしっかり稼がれた。
「……っ!!??」
「嘘……!?」
「……君たちのことはよく知ってるさ」
にやりと仮面の奥で笑った。
代わりに持ってきておいた直剣の柄で殴り、意識を奪う。
2人は気絶させられた。
さぁ、次は……グリムだ。
グリムだけは私もよく知らない。
だからこそ楽しみだ。
「……準備完了……ありがとうね、2人とも」
意識無き仲間に労いの言葉をかけ、私に向き直る。
「……行きますよ、カルカトス」
『さん』を付けずに呼び捨てにされた……
「……あぁ、こい」
ピリッと空気が揺れた気がした。
「『世界は大きな大きな檻の中』『檻の中で再正論を私は綴る』『その淡い希望は』『現世でまことしやかに輝く』《限界抑制》」
「……ははっ、そっくりだね」
私の固有スキルの……真逆。
さすがは私の逆として作られただけはある。
「……まだ、まだぁ!!『抑制された力!』『限界はここではない!』『私はまだ!前へすすめる!』『あの日の背中を追い越すのだ!』《白昼夢》!」
姿が変わっていく。
グリムだと思っていたものは、異形の姿へと変貌を遂げる。
鹿のような立派な角、彼女の背後には様々な色の本が飛ぶ。
何より、仮面のような何かが彼女の顔を覆い、真ん中に空いた穴からは緑色の光が灯る。
全長は優に2mを超えている。
何よりも、彼女の持っていた直剣も、彼女の体の一部かのように巨大になった。
昨日見た狼の剣みたいだ。
「……『私は摘み取るもの』『終末論を綴るもの』『悪夢となり呑み込む』《限界突破》」
「ダメだって!」
またあの声が聞こえた……気がする……が、もう遅い。
『不安定な状態のままでの固有スキルの行使を確認
神体の操作件を放棄します』
「……無理するなら!渡さないでね!?」
また声が聞こえた。
『当たり前だろう』
心の中でつぶやくと、1つ、引っかかった。
もしかして、もしかすると、試合前にハウルが言っていたのは、このことだろうか?
彼女なら知っていてもおかしくは無い。剣聖だからな。
「……嫌だね……絶対に」
今度は口に出す
『不安定な状態のままでの固有スキルの行使を確認
神体の操作件を放棄します』
くどい!渡さん!絶対に嫌だね!
不安定な状態で扱えないなら!その『ルール』を超えてやる!
そういうものだろ?『俺』の固有スキルは!
『抑制の克服を確認神体の一部を返却します』
よし!進めた!
「『開放された力!』『限界はここでは無い!』『俺はまだ!前へすすめる!』『あの日から追い越されないように!』《悪夢》」
また、意識が1つ遠ざかる……プツリプツリとぶつ切りの記憶が送られる。
「……ああぁあ!!」
「っつ!んんん!!」
声と呼べるものは存在しない。
擦り切れた何かが、何かを叫び続ける。
何度もぶつかった。
力の使い方は分からないから力任せに振り続けた。
何度も続いた闘いのなか、最後の一撃をお互い振るったその瞬間……ズレた。
懐かしいこの感じに、また声が聞こえた。
「兄妹喧嘩なら私は許すけど……殺し合いはダメだよ?」
諭すように、怒るように、そして、それら全てを包み込む優しさで、そう声を発した……そして、その瞬間に身体に完全な自由が帰ってきた。
「……カルカトス……さん?」
「グリム……?」
初号機や二号機ではなく……一人としてお互いが名を呼ぶ。
あたりの観客は、最強の冒険者、魔王、国王、王子、剣聖、それら全てに例外なく動揺を生み出させた。
だが、今の『俺達』の中に、そんな物は介入できない。
そんな隙間すら存在しない。
「グリムゥ!!!」
「カルカトスゥ!!!」
2人、咆哮し、地を蹴り肉迫する。
だが、余力の差が出た、俺の勝ちだ。
そう、心の中の勝利宣言と同時に、彼女を吹き飛ばし、壁に衝突、受け身も取れず、意識を失う。
「……げ、激闘に次ぐ激闘!両雄手に汗握る素晴らしい戦い、死力をなげうったその果ての勝者は……!
カルカトス選手……だぁ!!!!!」
マイクを壊れそうなほどの力で握り、今大会最大の声量と、最大の拍手と歓声が俺達の体をうちつける。
両手を上げ……観客を見渡す。
そこには、あの精霊の姿もあったが……まぁ、相変わらず覚えていない……というか知らない。
だけど、彼女が……俺の妹の1人であり、スノウとフウボクの出生も思い出した。
俺が犯した罪も、マスターのことも思いだせた。
今日はとても晴れやかな気持ちだ
一人称『私』って打ちすぎて『俺』を打つ時に何故か少し躊躇ってしまう。
慣れって恐ろしいですよね
 




