神獣と精霊とキメラ【シルフィール】
「キメラ?いやそれより……なんだ……それは?」
雰囲気の変わったカルに私がそう問いかける。
「……アァ……アガアァ!!」
「カル……!?」
弾けるような速度で私に剣を振りかぶる。
私のスキルである『神速』のおかげで速度なら私に軍配があがる。
「……シルフィールさん……手伝います!みんなは逃げておいて!」
シガネ達にそう指示をかける。
「分かりました!行こ!皆!」
こういう時に、素直に聞いてくれるのは本当に助かる。
「……アァ『森ノ理』」
精霊魔法の詠唱……?使い方を知っていたのか!?
なんて言う疑念を浮かばせていると、さらに私たちを驚かせる。
「『闇ノ理』」
同じ方向で、2つの音が重なって聞こえた。
「……『共鳴魔法』……!?」
「1人でですか!?」
だが、答えを聞くまでもない、私も同じ結論に至っている。
対策は、ただ、発動前に叩くだけ。
神速から猛攻を仕掛ける。
「アガっ!?」
中断成功だ……にしたって、なんという再生能力。
「『ディル』私に力を貸してくれ」
よき好敵手であった、古来より生きている竜の力を……借りる。
今のカルの再生能力はディルレベルだ。
「〈風竜葬〉!!」
口にくわえたその大剣を振り、切り裂く。
手応えはあった、胴を切り裂いた……間違いなく。
その時、横を通った時、微かに聞こえた
「……『風ハ緩ヤカニ吹ク』」「『闇ハ緩ヤカニ沈メル』」
まずいっ!?詠唱は止められていない……!?
「アルトリート様!ガード!」
「!?《精霊魔術》〈緑ノ壁〉!!」
「《共鳴精霊魔法》《夜帝ノ黒風刃》ァ!!」
彼を中心に巻き起こるおぞましい魔力の渦。
黒い風は森を簡単に切り裂き、私の身も切り裂く。
アルトリート様は防げただろうか?
あの人の精霊魔術なら、そこまで不安がることも無い。
いまは、私の身を案じろ!
左前足はプラプラと、皮1枚でくっついている。
左後ろ足に関してはもう切り離されている。
胴体だってズタボロだ。
白の毛並みはもう真っ赤っかだ。
「シルフィールさん!!??〈ヒール〉」
よかった、無傷だ。
彼が私に回復魔法をかける……がそれよりも先に、まだ、クールタイムなんて無しに、私たちに牙を剥く。
「マテ……精霊ィ!」
「……あぁ、原理はそういう事ですか
もうひとつ、口を作る……そんな芸当、確かに我々の知ってるカルにはできないはず……」
アルトリート様は、彼の共鳴魔法の謎の答えを教えてくれる。
私の傷は今も、ゆっくりと癒えていく。
「シルフィールさん、気を確かに!!」
「アアァァアア!!アゲロォォ!!」
「開けるわけないでしょ!?」
この調子で行けば、シガネ達の逃げる時間は稼げる。
「アァ……砕けろ……『砕けよ』『我が大剣を捧げよ』『壁はない』『故に破壊者』《方舟の破壊法》」
大剣を捨てた……!?いや、それよりもまずいのは
「んなっ!?魔法をっ!?」
こっち側に、カルが来てしまったことだ。
「クラエッ!」
拳を振り、アルトリート様を殴り飛ばす。
重い一撃だ、嫌に鈍い音と、骨の折れる音が耳がいいから聞こえてしまった。
ここからではよく見えない位置まで吹き飛ばされている……まずいな、私の愛弟子に……こうもボロボロにやられ……死に追いやらなければ、私が死ぬような状況を作られりとは……不甲斐ない……!!
「カル!私は!まだ負けていないぞ!」
「アァ!?ナンダオオカミ!オマエカラ!ヤッテヤル!」
微妙に言葉は通じている……が、それよりもこの猛攻を切り抜け……生け捕りにする。
私もまだまだ甘い……友を超えても、愛弟子に……我が子のようなカルに手をかけるのは……できない。
そのせいだろう、決着はすぐに着いた……当たり前だ、心の持ちようが違うのだから。
「……ハァ……ハァ……テコズラセ……ヤガッテ……コレデオワリダ」
腕を剣のように硬質で鋭利なものへ変貌させ、私の心臓を、確実に潰した。
もう、足は残っていない……こっぴどくやられた。
カルにも、噛み傷や切り傷はあるが……時期に治るだろう。
「……カル……すまない……本当にすまない」
救えなかったことじゃない……次に、カルが自分を取り戻した時、きっとこの子は自分を責めるだろう。
悔やんでも悔やみきれない……無念だ……!
なら!私ができる最後の!カルの為にできること!
「スキル『譲渡』……!」
私の持つスキルを、相手に渡すスキル。
私のステータスから『神速』『譲渡』『獣の五感』のスキルを渡す。
このスキルのせいで、恐らく逃げるシガネ達には迷惑をかけるが……渡すのなら、また別の渡し方をしたかった……
「……お前はもう……1人前なんだ、カル……そう気に病むな」
「ナニを……イッテイル?……どういウ……」
お前が今何を言ってるのか、私にもよく聞こえやしないさ……すみません、アルトリート様。
「バイバイ」
目を瞑り、意識が遠のく。
 




