黒竜見参
あの日、ミリアから勝利をもぎとった日から少したち、4試合目……4度目の私の戦いが始まる。
「……さぁ!お次はまたもや四天王と当たるカルカトス選手……運がいいのか悪いのか!」
「うーん……ミリアちゃんはともかく、ナルヴァーと当たるのは限りなく運が悪いね……あなた達もさっきまでの彼を見たでしょう?」
「えぇ!ラジアンさんのおっしゃる通り!竜というその規格外のパワースケール!それをあやつるフィジカルモンスター!確かに運が悪い!」
「まぁ、そこら辺は彼を眺めながら運が悪いのがどっちか見ましょうか」
「うーん!いいですね!それでは!次はその魔王軍四天王が一人!黒竜『幻奏のナルヴァー』
対するは!またもや四天王クラスを相手するアンラッキーボーイ、カルカトス選手だ!」
「……初めまして、カルカトス」
「あ、はい……初めまして、ナルヴァーさん」
「さんはやめてくれ、僕と君は対等なのだから」
「あ、はい」
「ルールはデスマッチ……本気で殴り会おう」
人の姿で恐ろしいことを言いながら握手を求める手。
「えぇ……本気で行きますよ」
握手に応じ、その手を握る。
「賭けは……そうだな……いらないだろう?」
「そうだね、私は何も賭ける気は無いね」
「僕もだ……さぁ始めよう」
「お!話は着いたようですそれでは試合開始!!」
「……そうそう、僕は、人の姿をしている方が戦いやすいんだ」
そう言うと、1つ、綺麗な声で詠唱が始まった。
「『幻のような世界』『音はどこまでも響く』『奏でられたそのままに』『操る』《幻音奏操》」
「……やっぱり固有スキル」
トントンと、リズムを刻むように体を動かす。
そのリズムに合わせて、音符が生まれる。
「んー、んんーんー」
鼻歌交じりに生まれる音符。
穏やかな顔だが……その生み出される音符が纏う雰囲気は凶悪そのものだ。
「『世界連なるその音』『音は世界共通言語』〈惑う幻音〉」
音が……増える。
ハンドクラップ、鼻歌、足踏み、たったそれだけなはず……なのに、その音が重なり、音符はかたちを変える。
パチンパチンと指を鳴らし、音をまとめる。
破裂音、暴風、体を揺らす振動、その全てが音速で、文字通り飛んでくる。
デスマッチ……なら、そのルール通り、叩き潰して見せようか?
「……うん、やはり、ラジアン様の言っていた通り……僕たちの先輩なだけはある」
「先輩?」
「僕たち、四天王……あ、これは言っちゃダメなんだったな
しかし、あなた、精霊魔法は?」
「……なんの事だ」
なぜ、知っている……?
「リョクだったか……ライだったかな?君の友達さ」
「リョク……ライ……?」
聞き覚えのある名前……その名前が今『忘れている』という事実を認めてくれない。
誰だ?……どれだ?……それは……
《安定した思考》が発動しました。
頭の中は冷めていく……忘れたものは仕方ない……それよりも、この地にいる精霊に力を借りよう……もう隠すことも無い。
「まぁ、手の内がバレているのなら仕方ない……精霊達……私に力を貸してください」
今、力を借りられるのは……この炎の精霊たちだ。
この熱狂した雰囲気に興味を示し、ここには沢山いる。
手を差し伸べ『仮契約』を果たす。
「……ありがとう……君も……ありがとうね」
「……精霊……がいるのだろうな?」
詠唱だ……炎の詠唱。
心を燃やし、その想いが、その薪が上物であればあるほど、力は増す
「《精霊魔法》『炎ノ理』『炎天下ニ響ク産声』『モエロモエロ』『ヒタスラニ』《炎蛇ノ目》!!」
生まれた魔法は、余りに歪だ。
黒い炎が、蛇の目のように……私の目のような、目だけが顕現した。
「目?……これがサラマンダー……?」
疑問符を浮かべる彼を後目に、燃え上がる心は詠唱を辞めない。
「《精霊魔法》!『炎ノ理』!『炎ノ悪魔ヲ地ヘ堕トス』!『悪魔ハ煙モ焼キ尽クス』!!『コノココロガタトヘ』!!『タキギトナリテモ』!!《炎ノ悪魔》!」
筋骨隆々なその身をむき出しに、炎の悪魔が堕ちる。
その黒い炎は……私の負の感情をひたすらに燃やし続けたからだ。
負けたくない、勝ちたい、ただ貪欲に、ただひたすらに相手のことを考えないその思いを焼く。
「……まずい……これは」
確かにまずいだろう。
目だけしか顕現しえなかったサラマンダーとは違い、イフリートにかけた詠唱は並ではない。
それ故に、反則級のモンスターを2匹用意したも同義だ。
だが、この燃える心を、どう収めるか。
「《精霊魔法》『水ノ理』『思イハイツモ届カナイ』『苦シムコトハナイ』『ソレハ変ラナイコト』《非愛ノ水精霊》」
それは簡単だ。消化すればいい。
美しい水色の水の精霊が、私に力を貸してくれる。
「……ありがとう、手伝ってもらえるかな?君たち」
サラマンダーは目だけでも、好意を表してくれる。
イフリートは頷く。
ウンディーネは恍惚の眼差しで私にすり寄る。
サラマンダーのその瞳から溢れる膨大な熱。
イフリートの巨大な炎槌
ウンディーネの巨大な水球
全てがぶつかり、世界から音は消える。
「……す、すごい爆発が……起きましたね」
「……えぇ、生きてるかな……彼は」
「……すごい魔法だなあ、魔法の才能……」
「……あ、あれって!」
人の姿で地に伏せるナルヴァーが煙の向こうで見つかる。
「……カルカトス選手は……ピンピンしています……すごい……あ、勝者!カルカトス選手!!」
サラマンダーは限界を迎え、空気中に帰っていく。
イフリートも、もうどこかへ行った。
ウンディーネは私の頬に1つキスをして、その姿を消した。
彼女の熱い思いと裏腹に冷めた心は何も感じない。
【仮契約】
精霊魔法を使う際には、力を借りる精霊との【契約】がなくては魔法は成り立たない。
魔力をあげる代わりに、力を貸してくれ……などだ。
仮契約は一度に何度でも複数と契約可能だが、本物の契約には及ばない。




