終章【ラジアン】
「……という訳です。
その次の日、彼はその手術を受け……固有スキルの暴走……そのまま行方不明。」
思っていたよりも、なかなか壮絶な過去をお持ちのようだなぁ……
「それで、彼が週間冒険者に載っているのを発見したと……?」
「えぇ、そういうことです……マスターも、私も、目的は違えど『奇跡』だと思いました。
だって、あの日消えた『カルカトス』に、もう一度出会えるなんて」
「……兄さんって、呼ばないの?」
少し気になっていた、本当に微妙な取っ掛りに指がかかった。
「……はい、彼が、私のことを『妹』って、そう認知してくれるまで、私は後輩で、彼は先輩……それ以外の何物でもないんですよ」
悲しそうに、だが強い決意の色のあるいい笑みだ。
「なるほど……だから、さっきアンって子に会わせるのは考えなくてもいいって言ってたんだ?」
「はい、アンは……どこにいるのか、そもそも生きているのか、それすらもわかってません……彼女は本当に、かくれんぼで無敗でしたからね」
おどけたように笑いながらそう言った。
「それじゃ、私たちは……彼にその『覚醒』とやらをしてもらいたいな……あれ?そういえばそのアンはどうやって覚醒したの?」
「彼女いわく『負けてたまるか』という気持ちの持ちようが大切だとか」
「……な、なるほどね」
つまり、根性論か。
「……それじゃ、あなたも、その気持ちで……暴走する気?」
「というか、私とカルカトス、一騎打ちで、私が暴走する気です……私が暴走すれば、きっと彼も、同じように固有スキルを使うしかないでしょうね」
「……死ぬ気?」
「……命をかけている、そう言って欲しいですね」
「……私たちにできることは?」
「彼を、なるべく動揺させないこと……例えば封じられた記憶にうっかり触れたり……後は……メンタルに何か影響がなければそれでいいです」
「なるほど……確実に暴走させるため……ね?」
「えぇ、聞こえは悪いですが、間違いなく本気ですから、私は」
「なら、私も手伝うよー!」
「ありがとう……ところでハウル、君は何者なんだ?」
「ミラン ダリン、5000年前の剣聖で……いまは、《四十層の守護者》っていえば分かるかな?」
「……5000年前の……剣聖……?ははっ!?本当っ!?なら!やってみたい!!」
「私、4割程度の力しか出せないんでやめておきます。
下手に私を殺すと……化け物がこの世に生まれますよ?」
へぇー?守護者っていうのは不思議だなぁ。
「ここのメンバーはみんな化け物ですね……」
「あなたもでしょ?」
「ふふふっ……そうね」
「くくくっ」
「っふふっ!」
3人の女性の笑い声が混じる。




