試練
「……やぁ、おかえり、待っていたよ王子様」
宿へ帰ると、ベットの上で座って待っていた様子だ……仮面とローブをつけている……?外出するのだろうか?
「待たせてたか……それは済まない、なにか私に用があるということかな?姫様」
「これ持って、おいで」
1本の鉄の直剣を投げ渡す。
彼女も一振持っている。
「ど、どこへ?」
「普通に裏にだよ、私の剣を……見せてあげよう」
剣聖の太刀筋……そう、何故ハウルがギルドで1番強くなかったのか、それは……剣術を使っていなかったからだ。
ポテンシャルと対裁きと力で全てをねじふせてのあの好成績……己の手札を1枚だって見せまいという強い意志を感じた。
そんな彼女が私に手札を晒してくれている……楽しみだ。
「よぉく見ておいてね、私は今から、この上から下へ切り下ろす」
そう宣言し、構えた……いや、構えたのか?
なんとも取れない不思議な体制で、ただ剣を持っているだけ。
簡単に剣を払えそうにも見えるが?
「行くよ?」
そう言って剣を振り下ろした……その動作に鳥肌がたった。
「……はい、どう?」
「……!………」
言葉が出ない。
どう言い表せばいいか?ひとつ言えるのは……完璧だということ。
才能とはここまで恐ろしいものか、剣聖とは、剣の境地とはここまで……『次元が違う』のか。
「ははっ、言葉にできないって顔だね、そりゃあ私の渾身の一振だからね、そう安くないよ」
また、前の構えに戻る。
「打ち込んでみて、王子様」
「え?でも私は直剣なんて使ったことがないよ?」
「?いや、使えるよ?君のスキルには確かに『剣術』がある」
「???」
とりあえず……体に任せ構えをとる。
柄を顎の辺りまで寄せ、剣先は限りなく下へ。
「……へぇ?なんか……雰囲気が変わったね」
それは私も同感だ。
しっくりくる、方にはまる、なんでもいい、何せこれが一番心地がいい。
左手に篭手をはめると尚、心は踊るだろう。
「いくよ」
「えぇ、剣聖の胸をかしましょうとも」
贅沢な話だ、切り上げる……やはり避けられた。
だが、ここから先も体が動く。
即座に『剣を手放し』拳や足で格闘する。
「ん!?面白い戦い方だねぇ!」
空中で直剣が来そうな所に手をやると、ドンピシャだ。
気持ち悪いほどに完璧に手元に帰ってきた。
それをなぎ払い、隙は作らない、手首を返し、彼女の背後に剣を投げる。
「ヒュウ、面白いね……はっ!」
口笛を吹いたその瞬間、冷や汗が命の危機を知らせ、一歩後退した。
剣は同じ剣なのに私の直剣だけ真っ二つ。
そして、正面の私の服もかすった……?
勘が上手く働いてくれた。
「やっぱり勘がいいね、よく避けられたと思うよ」
今、背後の剣を切って、更に私を斬ろうとした?
「速すぎる……!」
「へぇ!?見えてたの!?」
「いや……でも、太刀筋はわかる……多分」
「ふぅん?……やってみてよ」
「あ、あぁ……遅くてもいいかな?」
「むしろ早くできるならやってみて欲しいけどね……」
背後まで剣を回したあと、肩から腕へまた力を込め、前まで戻し、その勢いで切り上げる。
「うん、凄いね、よくわかったね、見えてないって言うのに」
「まぁ、掠ったからその傷が教えてくれたんだけどね……」
「なら、もう少し早く剣を振ろうかな?」
「え?」
今のが全力じゃないのか……!?
「へ?まぁ全盛期の4割程度しか最高でも出せそうにないけど……それでも全力はまだまだ早いよ」
まだまだ?……本当に彼女の言っていた通り、まだ私では勝てない。
30層の守護者を弱いというのではない、英雄は皆私では遠く及ばない世界の住人なのだ。
そんな人達が以前ギリギリで勝利を収めた相手よりも強く、どんどんと強くなっていく。
比例して願いを叶えるのはとても難しくなるが……
「……ふふっ……!」
『笑った』なぜだか、私の口は『笑顔』を選択した。
「楽しそうだねぇ!なんで、そんなに楽しそうなの?」
「……憧れの、英雄の、剣聖の、お姫様の、その夢を叶えるということの難易度の高さ、そして……楽しいから笑って今を楽しんでいるんだよ」
「ふふっ、そういう事なら私も楽しくなってくるよ。
君に剣を教え、そんな君に負けるのもまた一興」
「教える?」
「えぇ、剣聖のその剣術を教えてあげよう、君にはその資格があるからね」
「……なら、是非」
楽しみだ、どんなアドバイスが貰えるのか。
「ま、とは言っても私は何も大それた魔法や、大それた技を使っている訳じゃないんだよね
ただただ、正確無比、超合理的に、最低限の体力で最高の一撃を繰り出し続ける、それが私の剣だよ」
ど、どんな……アドバイス……が、貰えるの……?
「つ、つまり?」
「経験の差だね、ただひたすらに剣に没頭すればこうなるよ」
「……?強くなりたくなかったのに、剣を振り続けたのか?」
「うん、私は剣聖だからね、強くなりたくても強くなれない、守りたくても守れない、そんな人たちのささやかな幸せと、純粋でいじらしい恋を守るそんな存在になりたかったから」
自己犠牲?英雄の鏡とでも言うべきか。
叶えたい夢よりも、誰かの助けになることを第1に動くその姿はかっこいい。
「ま、おいおい出来ればいいよ、私だってそう簡単にできたわけじゃないよ、剣聖だって難しいものは難しいからね」
剣聖が手こずるようなことを私はやるのか……楽しみだ。
「では、これが私が君に科す『40層の試練』とでも言おうか」
両手を広げ、満足気な声でそういったのだった
 




