30層のその先へ
「……私はコレにてこずっていたのですかね?」
体を伸縮させ、大剣を振り回しながら進み続ける。
「……あぁ、着いた着いた」
30層、マイン ウェイパーと戦ったあの場所だ。
その先へ、階段をくだり、そして、目を見張る。
「…………?」
わからん、なんでだ?
とてつもなく、広いフロア、そして、とてつもなく優しい。
もはや太陽が存在することになんの疑問も抱かない。
ここにいる生き物たちは皆、こちらから手を出さなければただの1度も襲いかからない可愛らしい生き物たち。
つまり、無視を続け、40層まで進めばいいだけだ。
ただ、ここにいる生き物たちは、およそここのレベルとは大きく外れた恐ろしい力を持つ生き物だ。
戦えば、相当力を使うことになるだろう。
固有スキルも使って、総動員で逃げなければならない。
〈守護者〉達ほどではないが、数が多いのがあまりにも厄介すぎる。
だって私は1人なのだから。
「……おー、よしよし……ひえー、こっわ」
愛らしい瞳を向け、擦り寄ってくる可愛い馬も、恐らくキック一つで私の命を簡単に奪い取る。
つまり、ただのひとつ、害意を向けることは許されない……だって、死ぬ。
「……怖いわ、走ろっと」
両腕を振り上げ、走り続ける。
32、33、34、35、36、37、38、39、そして、40層。
本当に、あんなに優しい生物で全てを構成されていた。
容易に到達した40層は……どこかで既視感のある……デジャブ?というのだろうか?どこか懐かしく、そして、すぐに何か、合点がいった。
これは、間違いない、夢だ。
何も、非現実的なものを見たから、夢だと押し込めているわけじゃない……ただ、これは人の見る夢だ。
夢で見た、あの何かだ。
どういうことか?私にもよく分からない、ただ、この不思議な気持ちになる世界を『夢』と言わずになんと言う?
「よく分からないよね!私にもよくわかんない!」
「そうだよね、私にもよくわからなくて困って……ます……?」
「……ん?何?」
「……いや、誰!?」
「……いやぁ、初めまして初めまして、私の名前は『ミラン ダリン』ご存知?」
「……み、ミラン……ダリン……」
「あら?知らない……悲しいn……」
「剣聖か!?」
「お!知ってるんだー!」
まず知らない奴はいないだろう。
剣を扱うものなら、尚更だ。
歴史上、剣聖は3人しかいない。
1人目の剣聖『グラマ スレイブ』
勇者ココアと飲みあい、そして、恐ろしい酒豪だと、彼が仲間にそう言っていた。
「……2人目の剣聖……盲目の剣聖」
「うーん、その強そうな名前嫌なんだよね……こうさ、もっと可愛いあだ名が良かったな」
「……え?」
どういうことだろう?強さを求めていないのか?剣聖に生まれたというのに。
「だからさー、私さ、そんなにいかつい名前は嫌なの!」
「……も、もしかして、あなたが守護者になった理由って……」
「うん、そんなおっそろしい名前が残っているからだねー、もっと私の夢は別のものなのに」
「夢?」
「『かっこいい王子様に守られたい』んだ」
私とそう年の差はない彼女の夢は、私と同じぐらい幼稚で、私と同じぐらい分不相応な夢だった。




