7.ペルーダ・スレイヤー&ツヴァイ・ハンダーなる異名
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マーレンターク王国王都、ここはクレイモアから東へ馬車で5日ほどの距離にあり王国内のすべてが集まってくる場所だ。 そこの学園に入る入学試験を受けるため俺とリジルはこの王都に到着し、また家を借りることにした、リジルはクレイモア家の王都邸もあるらしいのだが、王家に呼ばれたときに父親が使うだけの用途らしく普段は使っていないそうだ、なんでもメイドなどを雇い続けるのはもったいないという庶民的な理由らしい。
「寮でもよかったんだけどやっぱり鍛冶したいだろ? あとギルド近いほうが便利だろうし」
「うん、そうだね、お金ならたくさんあるからね」
「たくさん……金貨これ何枚あるんだ」
「278枚、広い家にしようね」
「冷静だな、平民の年収556年分だぞ……」
「まぁいいじゃん、ある分にはさ」
そんな話をしながら王都の市街地を歩いていると同じ受験生なのかいろんな種族の同い年くらいの子とその親が目に入って来た。
「やっぱり王都の学園は受験生多いみたいだな、いろんな寮にも学園はあるけどやっぱりここが第一志望だよな、騎士団への一番の近道だしな」
「たしか受験はだいたい毎年全体で10000人くらいだったっけ? 合格枠は110人だから凄い倍率だよね」
「そうだけどよ、俺たちはやっぱりAクラスに入りたいぜ希望すれば騎士団隊試験免除だからな」
「6年生のときにAにいられればね」
王都には白狼学園、黒鷲学園、金獅子学園の3個の学園があり、それぞれ110人を定員として受験生を募集している、これらは王都の騎士団の名前を冠してはいるがとくに関係はなく、実技の授業は彼らが持ち回りで指導する形のため、それらに上下は無い。だがやはり各騎士団は自分たちの名前の付いた学園を贔屓するきらいがあるのも事実であり、金獅子騎士団は王都防衛や王を直接護衛する任務が多いため、上級貴族の子をここに入れたがる傾向が強かった。
白狼騎士団は王都の外で魔物を倒したり攻め込む騎士団。
黒鷲騎士団は斥候や諜報として動く情報のスペシャリスト集団。
金獅子騎士団は王都内部の防衛や王族の護衛をする近衛の騎士団。
もちろん才能にあった学園を選ぶ者もたくさんいる、そしてリジルは冒険者志向が強いため白狼と決めていたし、ジンも特に問題ないので一緒に白狼を受験する予定で申し込みは済ませてある。
「さて、ここだな商業ギルドは」
「そうみたいだね、いい物件あるかな」
商業ギルドに入るとやっぱりというか視線を集める、子供二人だしね。
「さて? 何か御用かしら?」
お姉さんが応対してくれるみたいだ。
「うん、家か土地を借りたいんだけど、できれば広めで」
「大丈夫? ここは王都だから他所より高いわよ?」
「たぶん大丈夫だと思います、何個か見繕ってもらえないですか?」
「う~ん……どんなところがいいか希望はある? その中から紹介した方が速いから」
「100平米以上は建築面積が取れそうなところがいいです、建物付きの場合は多少改造して良さそうな広い物件で」
「だいぶ高い希望ね……そうなるとこんなところかな」
・貴族層、安全だが冒険者ギルドも白狼学園も遠い、建物付き
・商業層、大通りから少し入ったところ、白狼学園が近いが冒険者ギルドが遠い、建物付きで改造化
・居住層、大通りから少し入ったところ、白狼学園も冒険者ギルドも近い、土地のみ
「これは一択のようなものだよねリジル」
「だな、居住層のを見せてもらおう」
「わかった、じゃあ案内させるわ」
そういうとお姉さんは別の係の人を呼んでその人に案内を頼んだようだ。
「ふむ、お前らか本当にそんな金あるのか? ったく」
リジルが俺を見て頷く。
「これ、紹介状です、手形みたいに使えるらしいです」
「なに? 見せてみろ」
ひったくるように紹介状を奪い取ると読み始め……顔色が青く……汗がタラリ、その様子に気が付いたさっきのお姉さんが声をかけてきた。
「何?アナタどうかしたの? まだ案内に行ってなかったの?」
「……これを」
ひょいっと受け取り手紙を読む……そしてしばらく何かを考えた後に声を発した。
「わかった、まずは土地を見てきてください、できればその後ここにまた来ていただけますでしょうか?」
「うん、大丈夫です」
「ああ、問題ないな」
「はぁ、では行きましょうこちらです」
突然話し方がよそよそしくなった案内のお所人について5分程歩くとその土地に到着した、冒険者ギルド徒歩10分、商業ギルド徒歩5分、白狼学園徒歩20分、王都正門まで徒歩5分、立地は最高であった、そして土地の使用条件などは商業利用化、3階建てまで可能な横20メートル奥行き15メートルという広い土地、さらに人通りもまばらで閑静だ。
「リジルここでいいよね?」
「全く問題ないな、まずはアレ置いてから後で工事だろ?」
「もちろん」
そのアレとはクレイモアで冒険をしていたころに森に作った秘密基地、最初は賃貸の家に住むつもりだったけど冒険に夢中になり街の門が閉門してしまったことが何度も重なったので、基礎のない高床式住居という形で小屋を作っていて今はストレージの中だ、賃貸と半分半分の使用率だったかな、賃貸は鍛冶をしに戻るだけだったからな。
「ここに決めます」
「分かりました、手続きもあるのでギルドの方に戻りましょう」
ギルドに戻り手続きだ。
「では居住層のB等級エリアで土地のみですので10平米が月に銀貨5枚です、なので300平米で月に金貨1枚と小金貨5枚になります」
「じゃ、1年更新でとりあえず金貨18枚でいいですか?」
さすがに高い、クレイモアの建物付きで月に銀貨4枚……たぶん30平米くらいだったかな、そう思いながらお金を渡す、これ貴族層だとどうなるんだろう。
「……ほ、本当に払えるのね」
「……紹介状は本物みたいですね」
「では手続きをします……と言いたいところですがこちらについて来ていただけますか?」
そうお姉さんに促されるままついていくとギルド2階にある立派な部屋に入り二人でソファに座った、ぼふんと包み込まれるような柔らかいソファだ。
「よく来たな、カシア紹介状を」
「こちらです」
受付してくれたお姉さんはカシアっていうらしい、スラっとして大きな猫人である、そしてこの人はたぶん人族、立派な顎鬚を耳までふさっふさに生やしていた。
「なるほどな……リジル様とペルーダ・スレイヤー、それなら広めの土地を買えても不思議はないな」
ペルーダ・スレイヤー……なんだそりゃ? 思わず首をひねる。
「ふ……ペルーダ・スレイヤーのジン君、冒険者の呼び方にはクラン名と名前を繋げる呼び方もあるが、そうでない個人で呼ぶ場合は得意なスキルからとった異名か、過去に倒したことのある最高位の魔物の名前から通り名を付ける慣習があるんだ、君はタイラントコアトルとかいろんな魔物を狩っていた、本来ならタイラントに値する魔物を倒しただけでも十分なのだが魔魂値が10000を超える魔物を前回の赤月で討伐したからな、必然的にペルーダ・スレイヤーに二つ名が決まったんだ、より上位の魔物を討伐した時には二つ名が上書きされるがな……あのレベルの魔物なんて前回の赤月でも出なかったからな、通り名だけならすでに王都に知れ渡っているぞ」
そんなことになってたのか……。
「それだけじゃないぞ? クレイモアでは兵士よりも強い双剣の使い手がいるっていう噂もあるからな、あなたの事ですよリジル様
「俺もか?」
「当たり前です、赤月の際に中級冒険者よりも活躍する剣術、さらにその後の期間、いろいろとやっていたみたいですからね」
「俺も常識外の仲間入りなのか……悪い気はしないけど」
「今更です、あなたはツヴァイ・ハンダーと呼ばれています、一般的な意味ではないですが……ツヴァイの本来の意味である2をかけてあなたの双剣はツヴァイ・ハンダーという二つ名、つまりツヴァイ・ハンダーのリジルと既にうわさ程度ですが王都にも名前は届いています」
「まじか……」
「はい、マジです、それでですが魔物の素材は冒険者ギルドに卸されると思いますが、その他の薬草類や魔石、あるいは魔晶石、鉱石などですが、商業ギルドに直接卸して頂けないでしょうか」
「う~ん、魔晶石ならともかく魔石は魔物の素材な気がするからむずかしいかなぁ、後のは冒険者ギルドの依頼じゃなくて別件で採集したやつなら大丈夫そうかな、リジルはどう?」
「問題は無い、だけど俺の取り分の2割くらいはクレイモアの父上のところに送ってもらっていいか?」
「はい、問題ありません」
「ならそれで頼む」
ちょいちょいリジルは貴族っぽい様子になるよな。
「はい……承知しました、では今回の土地は当面卒業までは無償で提供させていただきます、素材の提供をしていただけるのであれば簡単に土地代など比較にならない利益を生みそうですからね、冒険者ギルドに売る素材からでも商業ギルドの利益になりますのでね」
「え? いいんですか?」
「ジン、いいんだよそれでAランク上位かSランクの魔物の素材を卸せばそれだけでペイできるんだ」
「その通りです、冒険者ギルドともども宜しくお願い致します」
学園クラス別人数は以下の通り
A:10人
B:20人
C:20人
D:30人
E:30人
8歳で入学する6年制、小学校中学校程度の教育だが、所謂基礎教育レベルは低く帝王学や歴史、武術・魔術などに重きが置かれる
15歳で成人、ただし卒業時の14歳から働くことが出来る、その1年は”見習い”の扱いになる