5.クレイモア
「ではジンくんの冒険者ランクの更新は完了しました。5階級特進です。 こちらが【H】の冒険者証です、本当であればもっと上げたいところなんですが、【H】の上からは特定の種類の依頼を受けてもらう必要があるので残念ですが今回は【H】級とさせて頂きました、けど【H】級であれば一人前として認めてもらえます」
「大丈夫ですよ、むしろあんまり目立ちたくないので……もう遅そうですが」
「ですよねぇ、壁の上から見てる人がたくさんいましたからねぇ、かくいう私も何が起きたのかわからないようなうちにあのペルーダ討伐ですからね、意味が分かりませんよ、だって【S】級の魔物ですよ? あれの買い取りなんてとてもじゃないですけどこの街ではできないですよ、魔魂値10000を超えた素材の取引なんて10年以上ないのに10000どころか20000の後半ですよ?……それでなんですが、といっても話とは関係ないですが、領主様の次男のミジル様がジンくんにお会いしたいと、ついでじゃないですが領主様ご本人もジンくんにお会いしたいとか……」
「目の前でやっちゃいましたからねぇ分かりましたいつ行けばいいですか?」
「いつでもいいからなるべく早く、だそうです」
「領主がそれでいいんですか、まぁまだアイアンゴーレムの解体も終わってないですしやることないからいいんですけど……じゃ、今から行きます」
◇ ◇
「何用だ、ここは領主邸であるぞ」
「冒険者ギルドから言伝を受けて来た冒険者のジンなんですが、聞いてませんか?」
「む? そうか、念のためギルドカードを見せてもらっていいか」
冒険者ギルドカードを取り出し衛兵に見せる。
ジン:Hランク
魂階:21
階位:41
魔魂値:481
冒GP:0
「問題ありません、ではお入り下さい」
衛兵のあとは従者に促されるまま、広い部屋に通されると、そこには領主とその息子がいた。
「えっと、ジンです」
「あぁとりあえずそこに座ってくれ」
二人が座っているソファーとテーブルを挟み反対側に促され、座ると同時に領主さんは左手を上げるとメイドさんや執事さんは部屋を出ていった。
「よく来てくれた、私はこのクレイモア領の領主、グラム・アール・クレイモアだ、そしてこの子はリジル・アール・クレイモア、家の次男だ、さて……君はジンくんだったね、昨日の氾濫では本当に助かった、家のリジルも君の事に興味津々になってしまってね、お礼もかねて一度会っておきたかったのだ」
「俺はリジル、リジル・アール・クレイモアだ、あ……え……えぇと、あの」
「……ジンくん、リジルは昨日の君を見てからずっとこうでな、簡単に言うと同世代で敵なしだったリジルにとって初めてまともに渡り合えるというか敵わない相手を見つけてな、ぜひ会って見たいと言っていたのだ」
「はぁ、別にいいですが、それだけですか?」
「……もちろんそんなことだけで人掃いしたりはしないさ、今回の君への報酬だが金だけでなくこの8本のスクロールの中から好きなものを1本与えようと思う、好きなものを選んでくれ」
「スクロールですか?はぁ、【鼓舞】【種火】【結実】【硬化】【瞬足】【月光】【共栄】【宿り木】か……う~ん、じゃあこの宿り木を貰っておきます」
……グラムさんとリジルが謎の沈黙。
「リジル、見たな?」
「はい、お父様」
「さてジンくん、なんでそのスクロールが宿り木だと分ったのかな?」
「へ?」
その問いの真意がわからずに硬直しているとグラムの合図によって白いローブを纏った人が部屋に入って来た……どこか見覚えが。
「あ! 露店の人!」
「おい、失礼なことを言うなよこのお方はバステト族の第一王女殿下だぞ」
「今はそんなことはどうでいい……ニャ、さて昨日買ったスクロールは役に立ったかニャ? あの時もスクロールの種類を言い当ててたからニャ、判別する方法はないはずニャ、どういうことニャ、白状するニャ」
ん? そうなのか? スクロールの束に普通に書いてあるように見えてたんだけど、違うのか?
「いや、ここに普通に書いてあるでしょ?」
そう言って撒いてあるスクロール巻き際に指を指すが反応は良くない、領主さんとバステト王女さんとが見合って頷いた。
「ジン君、スクロールを見分ける手段は存在しない……ただ一つのギフトを除いてね」
「それは【看破】だ、昨日の戦闘中にも私の戦い方をじっと解析していただろう、あれは【看破】を持つ人間がよくやるクセだったと伝承にあるぞ、どうせもう君は【剣術】を理解したのだろう? なに、罰するつもりはないが少し事情を聞かせてはくれないかな?」
ため息をつき、遥か西の村で竜族と共に細々と生活してきたこと、学校へ行くために街に出てきたこと、冒険者になるために素材を売ったりしたことを話す、村を出て約半月で早くもギフトの秘密が漏れてしまった。
「ジン君、我々は秘密を広めるつもりはないぞ、むしろ協力したいし協力してほしいのだ、持ちつ持たれつだな」
「私からはできるだけスクロールやを融通しようと思うのニャ、だがこちらが指定したスクロールが見つかった場合は私の方で選定した者に習得できるようにしたいのニャ」
「そしてうちの息子のリジルだがな、同い年では一部の低魂階くらいでないと相手になる者もいないのとどうやら君と同学年で学校へ行くことになりそうだからな、仲良くしてやってほしいのだ、そして力を持っていると言っても君の魔魂値はかなり低い冒険者ギルドで問題にされたりランクアップが正常にしてもらえなかったりする可能性があるのでな、最大限便宜を図るように紹介状を書かせてもらおう」
ふ~ん、特に問題ないし……いいのかな。
「ってことでおれがリジルだ、よろしくな! ジン!」
「あぁそうそう、このネックレスも持っておけ、客人の証だ、これがあれば好きな時にこの館に入ることが出来るぞ」
剣のモチーフの付いたネックレスが渡されたのでストレージに収納し、リジルにも返事をした。
「じゃあ……ニャ! 忘れてたニャ! 私はベンガル・バステトだニャ、何のかは言えニャいが【ギフト】持ちだニャ、とりあえず今はこの1個しかスクロールはあげれないけど、これはなんだかわかるかニャ?」
そう手渡されたスクロールを見ると【結実】と書かれていたのでそう答える
「ニャ~、さっきの宿り木と言いまた成長系だったのかにゃ、植物に関わる名前のスキルは能力の解放や開花、繁栄に関わることが多いのだニャ、そういうスキルは【種】【芽】【花】【実】の段階で成長するんだニャ、【実】を与えると【種】に、【種】が芽吹くと【芽】に、【芽】を成長させると【花】に、そして【花】に集った力が凝縮されて【実】になるのニャ、【実】や【種】をいろんな場所に落として分布を広げる植物の性質がつよいのが【成長系】なのにゃ、たしか巨樹神という神様の影響を受けたスキルらしいニャ」
「ベンガル嬢、そこまで話してもいいのか……?」
「わかってるニャ、これ以上は言わないニャ」
「ふむ……まぁ世界を旅すればいろいろと見えてくるだろう、なにしろ【ギフト】持ちだからな、勝手に面倒ごとが舞い込んでくるだろうしな」
「え? 領主さんもギフトありますよね? リジルも」
「……なんだと?」
「【剣術】……」
「……本当か?」
「はい、領主さんは【花】で、リジルは【種】ですよね」
……これを聞くと天を見上げ両目を覆うように目を抑える領主さん、そしてバステトの……ベンガルさんに視線を向けるがベンガルさんは首を横に振る。
「なるほど、私もギフトを受け継ぐことが出来ていたのだな、さらに息子にもか……そうか良かった……」
「初代様だけでなくその子孫にも受け継がれるのではニャいかという研究もあったのだがニャ……、ちょっとこれについては国に戻って研究してみるニャ」
「ああ承知した、それではジン君、これからリジルよろしく頼むぞ」
「はい分かりました、リジルもよろしくね」
【スキル】には以下の段階があります
【種】【芽】【花】【実】
【成長系】の能力は上記4段階の影響を受けやすいです。
その他のスキルでも上記4段階は存在します。