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エセ心理学者のお仕事  作者: reen
7/11

建前

「すみません。トイレお借りしても宜しいでしょうか?」

病院に入って開口一番、睦月求はトイレに向かうふりをしていた。

どうぞ、という言葉を聞くや否や風見弥生の手を取って奥へ向かっていく。

「アテがあるんですか?」

「ある程度はね。何科にいるかってのはネットで調べられるものだ、私らしくないけどしらみつぶしという戦法さ」




「さあて、この部屋か。呼吸器内科とは、センスいいじゃないか」

「先に詐欺師さんが行くんですよね」

「そうだね。タイミングが良くなったら扉を叩くさ。それまで待機しておくれよ」


ドアを叩く。

「あら?こんちには。申し訳ないのですが…今は」

入ってきた人物は如月沙希には分からない人間だった。看護師や、事務員でもなく、ましてや検診を受けに来た人にも思えない。

「どうも。私は立花探偵事務所所属の立花たちばな とおるです」

如月沙希はふっと目を伏せた後、何かを納得したようにすぐに此方に向き、柔らかな笑みを浮かべた。

「……ええ。どうかしましたか?」

睦月求は恐ろしくこの人物が頭が回ることを理解した。なるほど、確かに手強い。ここまで少ない情報から、咄嗟に風見弥生の案件である事をすぐに理解したのである。

さて、どうするか。すぐに手を打っても構わないが、ここは様子見するべきだ。

「風見弥生さんの件で質問があるのですが、幾つか質問しても?」

「構いませんよ。ただ、私もこの後仕事があるので、程々にして頂けると有難いですね」

「さて、じゃあ1つ目の質問。風見弥生の父親の件だが、どこにいるか知っているかい?」

「弥生ちゃんのお父さんの件…ですか。弥生ちゃんから連絡を受けましたが、申し訳ないのですが存じ上げません」

「風見弥生の父親、風見哲也かざみてつや氏についてですが、最近の様子で変わった事はありましたか?」

「申し訳ありませんが、それも」

「関係性を、お伺いしても?」

「なんの変哲もない、大学の講師と生徒の関係ですよ」


睦月求は黒であると決定づけた。

反応が、知人のいなくなったそれではないからというのが大きな点だ。しかし、質問した事だけでなく、自分からも情報を吐くといった、疑いを避けるにはもってこいの方法を取ってるだけはある。

ついでに、こんな状況だから彼女も気付いているだろう。この状況の不自然さに。風見弥生の依頼で来ましたという大義名分は背負っているものの、肝心の本人が留守なはずはないと踏んでいるはずだ。それに気付いていながらも、お互いに踏み込まないのは、酷い茶番みたいなものだ。


「そろそろ宜しいでしょうか?」

時間だ。後ろのドアを小さな音で小突く。

「ああ、すみません。最後に1つ宜しいでしょうか」


横開きのドア特有の滑るような音、と同時に。

「お久しぶりです。沙希さん」

風見弥生は緊張した面持ちで、如月沙希を見ながら、再開の挨拶をした。


「ええ。こんちには。弥生ちゃん」

「いつから気付いていたんだい?」

如月沙希はふっと柔らかな笑みを浮かべる。最初から…ではなさそうだ。そして、再び会えた事に安心しているという雰囲気もある。

「本当に来てるとは思ってなかったわ。カマかけてるのかとね」

「あの…!沙希さん。教えて下さい!お父さん…お母さんはどこに行ったんですか?」

それは紛れなもなく風見弥生の口から出る、信用と言う名前の悲鳴。貴女だけが頼りなんだと、そう信じて止まないものの、どこか寂しそうな声だった。


「ごめんね。それは教えられない」


「………っ!なん…」

「覚えておくといい、弥生。この世には、善悪が自分の価値基準に伴って行動する奴がいるんだって事をね。分かりやすい様に言おう。如月沙希は君よりも父親や自分の体裁を取ったんだよ」

風見弥生の目が泳いでいる。混乱しているのがわかる。1人で立ってる事すら大変だった少女は、遂に最後に信頼している人にも裏切られた気持ちなのだろう?

「そういうことだろう?如月先生?」

「ええ、貴方の言う通りよ」

「随分と冷たいじゃないか。そんなに弥生よりも自分が大切かい?」

「……会っても、何もいい事がないのはお互い様よ。それに、これ以上弥生ちゃんには教える気はないわ」


「………」


部屋から風見弥生は思わず飛び出していた。目元に僅かな雫を溜めて、それでも声は出さず、顔も見せず。彼女は何も言わずに出て行った。


「いーけないんだ、いけないんだ。せんせー如月さんが弥生ちゃんを泣かせましたー!」

「………何処まで予測してたの?」

「さぁ?少なくとも、君はこうなる事が分かっていて、弥生に嫌われる様な事をしたのはわかるよ」

如月沙希は何かを考えている。彼女自身、弥生の目を見た時に悲しそうな、それでいて泣きそうな目をしていた。

事実、彼女が今こうして訳もなく拳を強く握りしめるなんて行動は取らないだろう。


「ねぇ、探偵さん」

「なんだい?」

「今日の夜、時間を貰えるかしら」

「ほう、構わないよ」

「ありがとう。今日の夜、そうね、診察が終わって、色々とまとめて…うん。20時にここのホテルに来て頂戴」

見せられたスマホの中に映っていたのは、関西でも指折りのホテル。ヨーロッパの方ではとても有名らしいブランドのそのホテルは、個人の力ではすぐには取れないであろう超高級のホテルだった。

「それなら、私からも条件があるんだがいいかい?」

「何?」

「まずひとつ。私達はこのままトンボ帰りの予定だったんだけども、その予定が崩れた…という事で、1泊ほど用意して欲しい。2つ目。レストラン集合になるだろうから、先に君が来ること。君は20時に来ればいいよ。ここは信用性の問題だ。以上2つが君の要望に応える条件だが、いいかい?」


そんなものか、と少し安心した。この探偵を名乗る男が、話し合いに応じる代わりにどんな条件を叩きつけてくるかと思ったら、思った以上に大した事がない条件だったからだ。

「それでいいわ。この後すぐにホテルには連絡を入れておくから、好きな時間にチェックインして頂戴。時間になったら私もホテルのレストランに向かうわ」

「それでは私は行くよ。泣いているお嬢様の相手をしなければならないのでね」

「……ええ。弥生ちゃんを、お願いします」

一人称が誰も彼も「私」のせいで区別が大変な作者です。


このセリフ誰が喋ってるか分からないとかありましたら感想欄にでも書きなぐっていただければ修正します…。


1話1話のの話の長さはどうでしょうか?物足りなかったらすいません…。

電車の中でスマホで執筆しているので遅筆なのは許してください…。


次のお話もよろしくお願いします。


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