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エセ心理学者のお仕事  作者: reen
3/11

作戦会議

「宝くじねぇ…俄には信じ難いが、君がその年齢でその大金を持ってるのは頷けるかな」

睦月求は風見弥生にそう話し掛ける。

外は暗く、22時を回っただろう。これから向かうのは、風見弥生の家であった。

「でも、両親が私を捨てた事と宝くじは関係ないと思いますよ」

「ほう、明確な根拠があるのかい?」

「はい。だって、私を捨てた理由が宝くじにあるとしたら十中八九お金ですよね。わざわざ置いていく理由にならないと思うんです。それに…」

風見弥生は続けない。何か思う事があるのだろう。睦月求は黙って2歩分の距離をとり、歩く。


「着きました。ここが私の家です」

閑静な住宅街にぽつんと建つ一軒家、それが風見弥生の家であった。

「随分と、『何も無い家』なんだね」

「詐欺師さんもそう思いますかね」

睦月求は家の中を見た感想はそれだけだった。

「生活の痕跡があまりにも無さすぎるんだけども、君はここで寝泊まりしてるんだよね?」

「一応私の家ですから。そりゃあ寝泊まりくらいはしてます。でも、ここ数日はずっと外で歩き詰めてました」

半ば自棄になっていたのだろう。風見弥生は、女子高生のハズだが、目の隈はひどく、かなりやせ細っている。

「失礼だが、学校は?」

「行ってないです。行く必要性を感じませんし」

「ほう、必要性の問題を説くか。いいじゃないか。特に高校なんて義務教育の範疇を超えているからね、君が行く必要性を感じないなら行かなくてもいいんじゃないかな」

少しだけ風見弥生はビックリしたように睦月求を見る。

「さて、さて、これより私達は共犯者だ。何、共犯者なんて便宜上のものさ。間違えたら捕まるのは私だけ、責任を負うのも私だけだ」

「犯罪はダメです」

「勿論だとも。犯罪だと疑われた時点でこの法治国家じゃ負けなんだ。…さて、1つ質問いいかな?」

「どうぞ」

「君は何故自分が捨てられた…いや、両親の失踪を知った?」

睦月求がそう問うと、風見弥生は奥の部屋…寝室だろうか。そこに向かい、帰ってくるなり鍵を持ってきた。

「両親の寝室に父が管理していた鍵がありました。それと、私の通帳に宝くじの当選金額の3分の1である1億円が入っていたんです。それに、父や母の知人に連絡しました。親戚にも連絡しました。皆、答えてくれなかったんです」

「具体的になんて言われたか覚えているかい?」

「もう大きいんだからしっかりするようにとか、そういうのですかね。兎に角、当たり障りのない言葉だった気がします」

考える。なるほど。確かに合点はいく。ただそれでは警察案件になるだけだ。どれだけ家族ぐるみや職場のぐるみで隠しても、司法は騙せない。

「警察は?」

「何度も話しても、『いずれ帰ってくるでしょう?事件性がない為、私達は動けない』って」

「ふむ、思った以上に司法機関もポンコツになっているもんだね。立場上後手後手に回る仕事というのを理解は出来るけども」

「それに、何度か家に怖い人たちが訪ねてきて、脅されました。『両親の件はひっこんでろ』って」

睦月求はこの任務が、金額通りのかなり難易度が高いものである事を理解していた。

相手は親族、弥生の両親の職場、暴力団か何かと軒並みめんどくさいメンツが揃っている。

「ふむ、概ね理解したよ。さて、これからの身の振り方だが、まずはーーー」

「父の知り合いに当たってみようと思います」


意外だ。もう少し別の角度から切り口を持ってくると思っていたが、案外まだ、風見弥生は父の知り合いを信じているらしい雰囲気だった。

「君がそう決めたらなら初手はそれでいいだろう。空振りに終わったらまたそこから考えれば良いしね。そんな事よりガリガリじゃないか。思春期の女子高生がそんなボロボロで父の知人に会うつもりかい?」

「……ご飯、いらないです」

「拒食症かい?両親が急にいなくなった事でストレスが過多にかかった感じかな」

「何言ってるのか分かりません」

風見弥生の喋り方は淡々としている事が多い。少し、自己紹介の時に彼女らしさ、言わばアイデンティティが見えた気がした。彼女はエリクソンの発達段階でいえば青年中期、アイデンティティの確立の時期にある。この時に然るべきアイデンティティを確立出来ないと、後々の人生に響いてくる事になる。主に、自己肯定感という形でだ。

「両親がいなくなったショックで食べる気が失せているのかい?」

「随分とストレートな物言いですね。…わからないです。高校生になる前からずっと、ご飯食べる気はしませんでした」

「なるほどね。とりあえず事情は分かった。それじゃあ、少しくらいは食べれるかい?」

「さっきの話聞いてました?私ーーー」

「聞いていたさ。それで、私に何を期待したんだい?私は似非心理学者。カウンセラーじゃないんだ。けども、君がその父の知り合いの所に行く時に倒れられても困る。……うん。そうだ、何より君が食べなければ君が最後の希望として縋り付いた私が困るんだ」

「…………」

「食べ過ぎる必要はないよ、たまには2人で食を囲むというもの悪いもんでもないさ。ささ、こんな時間だ。コンビニでなんか買ってくるけど欲しいものはあるかい?今夜は君の奢りだ」

「よくもまぁ…はぁ………。…えっと、ちょっとしたスープをください。それだったら入るかもしれません」

了解したよと言葉を残し、睦月求は悠々と出かける。本当に他人のお金を容赦なく使う気なんだと少し軽蔑する風見弥生だったが、久々に誰かと食事をするという事に、少しだけ期待していた所もあるのだった。

まだまだ続きます。

拒食症はなかなか難しい症状で、酷ければ入院レベルの症状もあります。

痩せすぎというもの良くないですね。



ここまで読んで頂いて、ありがとうございます。

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