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第一部 『人刺し人形』編 無感傷少女 埜逆崎櫻 5

「今日もごくろうさまッスー!!」

 右目に赤い流炎模様が入った生徒、戒音がうるさく『紫』の教室に入ってくるのにも目を向けず琉架は今日も物憂げに肩肘を付いて窓の向うを眺めていた。

「うぁ…なんか、あれからルカ先輩変じゃないッスか?」

 戒音はちょんちょんとすでに来ていた赫紗の肩をつついた。

「そうなんだよねー…あんなふうに考え込んでばっかりで…面倒な仕事は全部琉架さんがやるっていうから『紫』に入ったのに今はすごい忙しいんだよーつらい」

「それは困るッスね、破戒の住人たるルカ先輩の威圧がないと戒音達じゃぁ指導はできないッスよ」

「ほんとだよ…『価値無し』になにかされたのかなー」

 琉架の机の上には当時の新聞記事や価値無しについて記述された本が積まれていた。

「ねぇ…戒音」

「は、はいっ、なんッスか!!ルカ先輩」

 突然呼ばれた戒音はビクン、と肩を震わせながら返事をした。

「生まれただけで死ね、って言われるのはどんな気持ちだと思う?」

「あ、ルカ先輩、それって『価値無し』のこと言ってるッスか?だったら何にも気にすることないッスよ!!『価値無し』なんて感情がないんスから。そんなの気にするだけムダッスよ、ムダ。

 だいたい、少しでも気持ちっていうものがあれば例え人間であれ3万人も虐殺できないッス。

 それにあれは同族だって12人殺してるッスよ。死んで当然ッスっ!!

 なんで魔王様があれを死刑にしないかわからないッス」

「戒音、それ、質問に答えてません」

「ルカ先輩、あれから変ッスよ、変!!ひょっとしてあれで『価値無し』に同情かなにかでもしたッスか?

 それもムダッスよ。なんにもならないッス。『価値無し』はそんなのもわかりやしないッスから」

「そうだよ、琉架さん。あれから『紫』の仕事まったくしていないです。どんどんと仕事がたまってます。

 仕事は琉架さんの役割、そういう約束だったのにあまり働かせないでよー」

「戒音、赫紗、わたしがやらなくても仕事ぐらいしてくださいよ…」

 あきれたように琉架はため息を漏らした。

「な、なにいってるッスか!!『紫』の顔といえばルカ先輩ッスよっ!!ルカ先輩にしかできないこと満載ッス!!戒音達だって書類まとめたりとかはするけれどやっぱり直接指導するのはルカ先輩じゃないとっ」

「そうそう、戒音の言うとおりー。わたしが言ったって誰も聞きやしないからなー。

 やっぱり琉架さんに前線に立って指導してもらったほうがいいよ。琉架さんは学園中のあこがれだからねー」

「…ですね。思い出しました。私は『紫』執行部長、日向琉架、仕事をこなさないことは魔王様への裏切り行為ですからっ!!

 赫紗、戒音、早速仕事をやりますよっ」

「ひゃっほうっ!!それでこそルカ先輩ッスよっ!!さぁて、今日はどんなルカ先輩の地獄の生活指導が見れるか楽しみッスー!!どんな荒くれ者だってルカ先輩の前では借りてきた猫のように縮こまるッスよっ!!」

 うわぁい、と戒音は両手をあげて喜んだ。

「はい、それでは琉架さん、この辺が最近の悪い子だよーどれいく?」

 赫紗もにっこり笑って要注意生徒ファイルを琉架に差し出した。

 だけどそれを琉架は片手で押しとどめる。

「それはいりません。誰を指導するかは決まってます。櫻さん、あの人をきちんと授業に出させます」

「へ、ルカ先輩っ!!まだ『価値無し』のことを引きずってるッスか!!いい加減諦めましょうよ、関わるだけムダッスよ」

「そうだよー…琉架さん。『価値無し』に関わってからずっとおかしかったのに、まだ『価値無し』を諦めないのー?」

「赫紗、戒音。『価値無し』なんて二度と口にしないこと。わかりましたか?」

 琉架はピン、と指を立てて二人に言いつけた。

「え、なんで…?」

「そうッスよ…『価値無し』は『価値無し』じゃないッスか」

 二人は困惑の表情を隠せない。

「誰であろうと、なんであろうと、『紫』の前ではただの生徒です。

『価値無し』であろうと『紫』の前では出席が足りない問題を抱えた生徒、それだけです。

『価値無し』だから、ただの生徒と区別する、それこそ価値の無いことです。

『紫』はただ、指導するだけです。わかります?」

「つ、つまり、ルカ先輩の前では『価値無し』なんてどうでもいい、眼中にないぜっ!!きっちり指導してやる、覚悟しろってことッスねっ!?」

「え、まぁ…平たくいうとそういうことになりますね?」

 琉架はちょっと戸惑いながら言う。

 どうも戒音は暴力的な方向で解釈したがる。この前だって廊下ですれ違ったとき戒音が連れていた友達は琉架を見るなりぶるぶる震えだして戒音の後ろに隠れてしまったのだ。戒音は一体どんな風に琉架の話をしているのやら。

「んーたしかに『価値無し』だからって放置しちゃったら結局『紫』だってそんなものかーってなめられちゃうかもだねー。せっかくこの腕章でいろいろ楽させてもらってるからあまりそういうのは困るかも…でも直接わたしが行くのは怖いから琉架さん頼むよー」

 赫紗も頷いた。

「はぁ、赫紗さん…じゃあ書類は任せますよ」

「赫紗さん、こっちは戒音たちに任せるっスよ!」

「胸たたいて気合い入れてるところ悪いけど戒音もついてこなくていいですよ」

「どうして!?相手を考えるといくらルカ先輩でも危険極まりないっすよ!

 …は、もしかして戒音たちを危険に巻き込まないため…?

 く、この戒音、ルカ先輩の雄姿をこの目に収めて歴史の生き証人になることを使命と思ってたっスけどだからといってルカ先輩の意思に背くわけにはいかないっス!!く、この戒音にもっと力があれば…。

 それに引き換えさすがルカ先輩っ!!惚れちゃいそうッスよっ!!もしルカ先輩が男だったら戒音は結婚して欲しかったッスっ!!

 いえ、このさい女でも構わないッスっ!!あ、ルカ先輩っ!!

 か、戒音を嫁にしてーっ!!」

 そういうところがめんどくさいので連れて行きたくないのだ、と琉架は大きなため息を吐く。

「赫紗…そこの馬鹿は吊るしておいてください。書類の整理もできない馬鹿でしょ、それ」

「はい、琉架さん、その通りです」

 にやーと赫紗はメガネの位置を直しながら笑った。

「ちょ、はわわっ!!なにしようとするっすか、赫紗っ!!ちょ、イタイイタイ、赫紗、それ本当に痛いッスっ!!な、縄ッスか!?な、なぜにそこの縄をっ!!つ、吊るす気ッスかっ!!ほんとに吊るす気ッスかっ!!

 ギャー!!首首、首はよすッスよっ!!つ、吊るすなら他の場所、場所をっ!!ちょ、赫紗、その縛り方マニアックっす!!えろいッスよ!!ひぃっ!!あうあううっ!!あ、琉架センパァイッ!!あなたの、あなたの嫁の貞操が大ピンチッスよっっ!!チョーピンチッスよ!!チョー!!赫紗、やめるッス!!ルカ先輩の嫁に行けなくなるッスー!!」

「琉架さんは最初から貰う気ないから大丈夫ですよー」

 赫紗はニコニコしながら言う。

「そ、そんな、ルカ先輩、ルカ先輩、そんなことないッスよね!?ないッスよねー!?」

 赫紗に押さえ込まれていろいろされてる戒音は琉架に向かって救いを求めるように手を伸ばす。が、琉架はその手をちらり、と一瞥するとドアの方へすぐに向き直った。

「いや、本当に貰う気ありませんから」

「ギャー!!そんなー!!」

 教室に戒音の悲鳴が響き渡った。無情にも琉架は無視して教室を出た。

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