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第一部 『人刺し人形』編 無感傷少女 埜逆崎櫻 4

おはこんばんちは キングとキングのドッキングで更なる高みを目指しています。

ゼロイチキングマンドットコムアンダーグラウンドかけごはんです

私事ですが週末はアイドルマスターシンデレラガールズを見るためにメットライフドームを目指して北上します。

週末分の更新は初めての自動更新チャレンジします 失敗したら笑ってください…

見てくださっている方、今後も引き続きお楽しみいただけたら幸いです。

あとよかったら僕のなろうデビュー作クールガールズモノデッドもよろしくお願いします。

「で、赫紗、本当にこの辺にいるの?」

 3人は校舎やグラウンドとはかなりかけ離れた第2訓練場にきていた。いまいるのはその森の入り口だ。第2訓練場は森等の地形での戦術の実習を行う。しかし訓練場での実習など年で数えるほどしかなく、今日ももちろん人気はどこにもありはしない。戦闘訓練という言葉の物々しさとは反対に鳥のさえずりまで聞こえてくるちょっとしたのどかさすら感じてしまう。

「えーと…素行調査によるとこの辺りでーうん、情報がでてるよー」

 赫紗は手帳から顔を上げるとあくびを噛み殺しながら答えた。『紫』に属する以上やる気ないように見えてもやはり赫紗も優秀。どういうわけか学園内の情報はほとんど把握している諜報のプロだ。

「うぉぉぉ、覚悟するッスよっ!!埜逆崎櫻っ!!やりたい放題もここまでっス!!

 いまに破戒の住人、ルカ先輩が引導を渡すっ!!殺害、殺害っスよ!!」

 戒音は拳を握り締め震わせるとどこかに向かって叫んだ。

「戒音、うるさい、人聞きの悪いこといわない」

 びしゃりと琉架は釘を刺した。ほっとくとこのこは琉架のあることないこと、主にないことを連呼しすぎるのだ。

「そ、そんなっ、ルカセンパァイっ!!いつだってぶっ殺すか死ぬかどっちかしかねぇなら迷わずぶった切るのがわたしのルールって豪語してたじゃないですかぁ!!」

 すがり付こうとする戒音を無視して琉架はすたすた歩き始めた。

「戦場で下手に敵に情けをかけて身の危険に晒されるぐらいなら殺すことをためらうなっていう戦術書の最初の方の言葉をどうしてそこまで人聞き悪く改変するかなぁ。

 それより…その『価値無し』探しますよ」

 とりあえず琉架たちは森の中に入っていく。日の光がさえぎられ、一気に薄暗くなる。それと同時に森の中の独特の湿っぽい空気や静けさが広がる。かすかに虫の声が聞こえてきたり。

 訓練場とはいうものの魔族と人間の人口の差は差ほどないが支配地には圧倒的な差がある。そのため訓練場であるこの森もだだっ広く小さな村なら一つすっぽりと入り込んでしまうほどの大きさがあった。

「はぁ…なんでよりによってこんなに探すのに時間がかかる場所でサボるんですかねぇ…

 赫紗、戒音、そっちの方にはいない?」

「いないよーわたしもサボりたくなってきた…」

「くっ、さっさと姿を現せばいいッス、『価値無し』めっ!!いまやお前の命はルカ先輩がファイナルカウントダウン、指折り数えているッスよっ!!」

「…はぁ」

 もはや戒音になにやら言うのもめんどくさい。琉架は琉架で周りを見回した。森に入ってしまえば道はないのでただ闇雲に探すしかないのだが…

 『価値無し』であるが故魔法を使って探すの無理なのだ。通常の探索魔法は目的の持つ生体魔力に反応するのだから。

 なので残る方法は目視、あるいは気配を察するなどという理屈を抜きにした動物的な勘。もしくは立ち寄りそうなところを推理する経験。前者は戒音が後者なら琉架の得意分野だ。地面の様子や木々の重なり具合から踏破しやすいルートを見つけて追いかけるしかない。実践であればあえて隠れやすい歩きにくい場所や草むらの中に突っ込んでいったりもするのだろうが放課後までそんなことをするなんて普通はしない。唯一の不安は『価値無し』は普通じゃないということだがその心配も杞憂で終わった。

「ん…?」

「ルカ先輩っ!!どうかしたッスか!?」

 がっと戒音が琉架に駆け寄ってくる。

「戒音、静かに」

 気付かれて逃げられたりしては琉架には追いつける道理がない。『価値無し』の身体能力の高さは一般のそれとは比にならない。いうなれば子供のかけっこに大人が乱入してくるようなものだ。そして櫻はさらにそれ以上、いうなれば魔都でもまだ試験運用中のアギトレールが乱入してくるようなものだ。

「あ…」

 赫紗も気付いたらしい。あそこの木の根元に一人の少女がいる。

 どうやら眠っているみたいだ。制服が汚れるのも構わず地面に座り込んで木の幹に背中を預ける。胸元のネクタイは戒音と同じ水色、その腰にはあまり見かけることがない形状の武器が二つぶら下がっているがそれが刀という異国の武器であることを、琉架は気づいた。短い髪はボサボサでせっかくきれいな灰色をしているのにもったいない。

「どうするー?普通の生徒ならいざ知らず、相手は『価値無し』だからなー」

「センパイ、戒音なら大丈夫ッス!!戒音はセンパイのためならいつでも一億総玉砕!!玉と砕けよ我が魂っ!!」

 小声でも気合は伝わる、割とそういうところは小器用な戒音だ。

「二人はここで待ってて。私が直接指導してきますから」

「だ、大丈夫?わたしもー」

 赫紗は手を伸ばす。琉架はその手を握り締めて下ろさせる。

「赫紗、震えているでしょ?危険なことはわたし一人で充分だから、赫紗は何かあったら通報を頼みます」

「了解、もしもの時は任せてー」

「セ、センパイっ!!戒音信じてるッスからっ!!センパイは『価値無し』なんかに負けないってっ!!」

 戒音はビシィ、と琉架に向かって敬礼する。

「だから戒音、うざい。それにべつに殺し合いするわけじゃないですから」

 琉架は二人を木陰において一歩、二歩、櫻に向かって足を進める。

 その様子を二人は祈るように、見守る。

 少しずつ、琉架と櫻の距離が近づいていく。あと五メートルほどで櫻のところについてしまう。そこで琉架は足を止めた。そこは櫻の身長と刀の長さから櫻の攻撃が一挙動で届く、と判断した距離だ。

「ちょっと…櫻、さん?」

 ピクリ、と肩を震わせただけで櫻は顔を上げようとしなかった。

「あなたっ、あなた櫻さんですよねっ」

 無視を決め込むとは、琉架の中でイライラが駆け巡った。魔族も普通面識の薄いもの同士が下の名で呼び合うことはない。琉架はあくまで櫻を埜逆崎と呼ばない。櫻をその苗字で呼ぶことは琉架には神以上の存在である魔王様とクソ虫以下の『価値無し』を同じレベルで語ってしまうことで琉架にとってはそれが何よりも魔王様への背信行為なのだ。

 ゆっくり、櫻が動いた。その顔を上げた。

 琉架は初めて櫻の顔を見る。

 ごくりと息を呑んだ。

 切れ長の目。その瞳の奥にはこの世の何よりも暗い宵闇が宿っているように見える。薄く閉じられた唇。生気を感じられないぼんやりした表情でもそこにはうかつに近寄ることをためらう高貴さが、確かに魔王様の血が流れているのだ、という面影を感じる。

 黒い宝石のようなその目が琉架を捉えていた。

「あ…」

 言葉を続けることができなかった。心臓を掴まれたように全ての言葉を失ってしまう。

「…」

 櫻も口を開かない。ただじっと琉架を見つめるだけだ。

 それでも琉架はこの場でなんとかしないといけない。あの瞳に飲まれちゃいけない。いける、いける、私は魔王様に選ばれた『紫』のリーダー。必死で自分に言い聞かせる琉架。足が今にも震えだしそうだが後輩たちに見守られていて破損情けなさは必死で抑え込み前に進む。

「あっ…ひぁぅっ」

 よろろろ、と琉架は体勢を崩す。普段なら絶対損なミスはしない、が今は極度の緊張状態。地面から出ていた木の根に足を引っ掛けたのだ。

 そのまま琉架は櫻に向かって倒れこむ。身をかばおうと思わず琉架は腕を前にやった。

 ドタンッ!!

「あっ」

 初めて櫻が声を上げた。小さい鈴のような声が鳴った。

「うぉぉぉぉっ!!出た、出たッスよっ!!

 あれはルカ先輩の48の生徒指導技!!惨殺クロスギロチンアタックだぁっ!!

 スゲェ、スゲェッスよっ!!ルカ先輩!!さすがだぁっ!!」

 ギャー!!と戒音は握り締めた拳をブルンブルン振り回す。

「え…あ…琉架さん、まさか本当に」

 まさか『価値無し』に自ら攻撃を仕掛けるなんてあまりにも無謀すぎる…でも、かっこよすぎるっ!!

「え、あ、あれ、あれれ」

 琉架は戒音の声にはっとして自らの腕をまじまじと見た。今やその交差した腕が櫻の細い首に食い込んでいる。

「え、あ…、す、すいませんっ!!別にそんなつもりじゃっ」

 琉架は慌ててばっと腕を広げる。ガツッ!!そのひょうしにちょうど両手の交点にあった櫻の顎に両拳が打ち込まれた。

「え、あ、ちょ、違う、違うんですこれは!!」

 琉架はおろおろと櫻を見つめる。

 一方外野では。

「うぉぉっぉぉっ!!今日のルカ先輩は一味違うぜっ!!スゴイ、スゴスぎるっ!!ギロチンアタックからまさか地獄の怨塞パンチを繰り出すとは!!

 ひゃっほー!!さっすがルカ先輩ッスよっ!!

 センパイ、いまがチャンスっす!!マウントポジション、そのまま畳み掛けるッスよっ!!」

 ばしばしと興奮した戒音は木をぶん殴ってた。

「だ、だ、大丈夫ですかっ!!その、そんなつもりはなかったんですが」

 櫻はやっぱり琉架をじっと見つめた。睨んでいるのとは違う。そこに感情なんて読み取れない。

「…敵、なの?」

 櫻は上に乗っかっている琉架でも聞き取るのがやっと、というほどに小声で呟いた。

「い、いえそうじゃなくてですねっ!!私は、私はあなたを指導しに来ただけというかっ…」

 琉架はやっとで櫻を解放した両手をぶんぶん振って何とか説明しようとする。

「敵じゃないならどいて、なの。重たい、なの」

「はっ…すいません、乗っかったままで…って、誰が重たいんですかっ!!これでも食べ物とかに気を使ってるんですっ!!失礼ですよっ、あなたっ!!」

「…重いものは重い、なの」

「くっ…懲りずによくもまぁ…いいですよっそこまで言うならどいてあげますけどねっ!!今度重いとか言ったら承知しませんからねっ!!私、クラスでも上から数えた方が早いぐらい軽いんですからっ」

 琉架がどくと櫻は立ち上がってぱしぱしと泥を払った。

「…で、なに、なの」

「え…あ…、その…」

「べつに何もないならほっておいて、なの。私もほっておくから」

「だ、誰がほっておくものですかっ!!わたしはあなたを連れ戻しに来たんですっ!!」

「なんで、なの」

「なんでって、あなた、授業休みすぎじゃないですかっ!!このままじゃ進級もままならない…その前にですねっ、わたしたちは魔王様のために努力する義務があるんですよっ!!いいですかっ、私たちは魔王様の忠実な下僕なんですっ!!犬なんですっ!!

 だから魔王様の命令に逆らってはいけないんですっ!!あなたも入学のときに宣誓したでしょう!!魔王様のために全身全霊自らの練磨に励みますとっ!!サボリなんてもっての他じゃないですかっ」

 ギャイーンと琉架は櫻に指を突きつけた。

「でも、戦術の授業、私には必要ない、なの」

「必要ないってそんなわけないですよっ!!魔王様が必要ないカリキュラムを許可するわけないじゃないですかっ」

「でも戦術は軍隊を操って敵を倒す勉強、なの」

「そりゃそうですよっ!!なに当たり前のこといってるんですかっ」

「だったらわたしにはいらない、なの。たとえ敵が3万人でも一人で戦えっていわれるから」

「はっ、誰がそんな馬鹿な作戦をっ!?そんな負けが見え見えの作戦一体誰がするんですか!?」

「九翠将軍…、だったかな、なの」

「それこそありえませんよっ!!九翠将軍といえば魔王軍でも白式に属する最も知略に長けた将軍ですよっ!!それがそんなアホみたいな作戦っ!!」

「でもこの前はそうだった、なの」

「この前?なんですか、まるで戦争にいってきたみたいな言い方をされてっ!!学生が戦争に参加するわけないじゃないですか。嘘つくならもうちょっとまともな嘘ついたほうがいいですよっ!!いまどき子供だってそんな嘘つきませんからっ」

「わたしは別だから、なの。多分『価値無し』なんて死んだほうがいいってみんな思ってるし、なの」

「え…?」

 琉架は言葉を失ってしまった。そしてギギギ、といまだ木の陰にいる赫紗を見た。

「琉架さん、それは本当。公にはされてないけど櫻さんは戦場へ要請がいくつかあるみたい」

「そ…その、ごめんなさい」

 琉架はうなだれた。

「なんで謝る、なの?」

「だって、わたし、あなたのことをうそつき呼ばわりしましたから。思い込みで決めつけてとても失礼なことを言ってしまった」

「どうせ『価値無し』だから謝る必要ない、なの。魔族扱いなんてされていない。あなたもわたしなんて死ねばいいって思ってる、なの」

「そ、そんなっ…そんな…」

 琉架はすぐに否定の言葉をひねり出せない。そしてそんな自分に愕然とした。

「どうした、なの?」

 櫻は琉架の狼狽というものがわからない。

「わたし…わたし…」

 たしかにここに来るまで何度も櫻のことを侮蔑を込めて『価値無し』と呼んだ。だけどそれはどうして?

 琉架は櫻のことなんて少しも知らなかったのに。なのに櫻が『価値無し』だってだけで見下している。

「苦しい、なの?」

 櫻は琉架の顔を覗き込んだ。

 その目には何もない。生き物じゃなく、ただ物体を見つめるように。

 だけどそれがなおさら琉架は責められているような気がする。普通なら怒って憎んで、当然なのだ。

 意味もなくそんなに侮辱され続けていたら。なのに、なのに。櫻は怒るということも憎むということもしない。正確には知らない。

「ルカ先輩、どうかしたッスか!?」

 心配そうに戒音が声を上げた。それではっと琉架は我に返った。

 そして胸に手を当てて一つ大きく息を吸う。

「櫻さんは、だからこそここで学んで『価値無し』と侮蔑してきた人たちを見返そうと思わないんですか?」

「別に…一人の方が楽、なの。余計なことを考えなくていいから。誰もわたしについてこれないから」

「だ、だから『価値無し』なんていわれるんですよっ!!あなた、ぜんぜん他人に歩み寄ろうとしないじゃないですか!!」

 琉架は無理に櫻の手を握り締めるとぐい、と引っ張った。そうだ、授業に参加させるためにここに来たのだ。櫻はじっと琉架を見つめた。

「…どうせ『価値なし』、なの。ほっといて欲しい、なの」

 櫻は眉一つ動かさず、瞬き一つしなかった。

 でも琉架は櫻の瞳に映った自分の顔を見た。そしてそれと目があった。それだけまっすぐ、櫻は琉架を見つめたのだ。それは焼き付いたように琉架から離れないだろう。

 櫻は琉架の手を振りほどく。琉架なんかの力では逆らうことができるわけがない。すぐに櫻の手は自由になった。そして櫻は踵をかえすと走り出した。

「あ、まっ」

 琉架は手だけ伸ばして追いかけることはしなかった。追いつけるわけがない。

「うぅ…」

 琉架は唇をかみ締めた。それは悔しさと違う。後悔に近い。

 すぐに赫紗と戒音が駆け寄ってくる。

「琉架さん、すごかったー!!あの『価値無し』に一歩も引けを取らないどころかむしろ押してたよー」

「はっ!!『価値無し』めっ!!破戒の住人たるルカ先輩に恐れをなして逃げたッスか!!しょせん『価値無し』といえどその程度!!戒音達のルカ先輩には敵じゃないッスよっ!!」

 二人は琉架を褒めるけれど琉架はちっとも楽しい気分になれない。

 握っていた手の平を開く。そしてじっと見つめた。

 櫻の手は細い作りのくせにあちこちにまめがあるのか、固かった。それだけ長い間刀を振り続けた、ということなのだろう。

「『価値無し』…か」

 琉架は口の中で呟く。自分の吐いた言葉が重くのしかかる。別に誰に迷惑をかけたとかそんなわけじゃないけど、もっと違う言い方もできたはずなのに。

 櫻の目に映っていた琉架の表情は困惑したように歪んでいた。それだけ櫻の目が怖かったのだ。

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