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第一部 『人刺し人形』編 無感傷少女 埜逆崎櫻 2

昨日何か書き忘れていたんですが思い出しました、

もしよかったら僕のなろうでのデビュー作、クールガールズモノデッドもぜひぜひご覧になってくださいね!!!

僕の目標はクールガールズモノデッド1000PV、クールガールズモノデッド以降の投稿はそのための宣伝みたいなものなのです

「それでは今回の戦の大勝利を祝い…乾杯!!」

 みながグラスを高々と掲げる中、櫻だけはじっと目の前のグラスを見つめた。

 黄褐色の液体は酒だ。それはわかる。櫻はそれが嫌いだ。特に軍に支給される酒は強くて喉が焼けるようだし視界がぐるぐるする。足元も定まらなくなる。そしてそれは生きる上では命取りだ。

 だから飲まない。飲まないのならグラスを掴む必要もない。

 他の魔族たちが盗み見るように櫻を睨みつけているのも知っている。それもわからない。

 飲みたいなら飲めばいい。私は飲まない。それだけなのだ。

 目の前に並んだ料理もこれでもかというぐらいに分厚く切られた肉でただ焼いただけのそれからは油がべたべたと滴っている。そして添えつけられた野菜。他にも魚や果実等もあったがやはりメインは肉だ。

 あちらこちらで大きな声が響き渡る。笑い声、怒声、そんなもの。

 櫻は野菜と肉を一切れつまむと立ち上がった。

 歓声がサァッとひいた。今ここにあるすべての目が櫻を見つめている。

 まだ宴会は始まって20分も経っていない。

 だけど櫻は食事が終わってしまったしもはやここにいる理由もない。

「…」

 ただそのまま背を向けてテントから出る。

 そうするとすぐにまた騒ぎ出す。

「なんだ、あいつ、ホントむかつくな」

「しょうがないぜ、あれは感傷無しだから。ほっとけほっとけ、思い出すと酒がまずくなる」

 櫻はそれを背中で聞きながら宿営地からどんどんとはなれていった。

 もはや日は沈み、夜だ。月が昇り始めている。

 やっとで魔族どもの声が届かなくなった。櫻はひときわ大きな木の根元に座り込むとぼんやりと月を見上げた。静かだ。静かな方がいい。いちいち自分がどうとか考えなくていいから。


『魔王様…非常に申し上げにくいですが…ご息女はノーウェスト、です。

 殺した方がよろしいでしょう…いずれ、我々に大きな災いを招きかねません』

『ノーウェスト…?』

『ええ、すべてから見放されている『無価値』です。私も文献でしか知りませんでした。

 本物を見るのは初めてです』

『見放されている…?』

『そうです。この世界を支配する、精霊、その全てがご息女を見放しています。

 この世界、どんな生き物でも程度の差はあれ魔力を持つものです。

 しかしご息女は完全に魔力を持ちません』

『…なんだ?魔法を使えないものなら仮名眼だってそうだろう?』

『それは魔法を扱えるほどの魔力を持ち合わせていなかった、というだけのことです。

 それとご息女は完全に違います。まったく魔力がないのだから』

 そういうとローブをかぶった老婆はベッドの中、ぼんやりと天井を眺めている赤ん坊に真っ白い石を握らせる。

『この通り、どんな微弱な魔力にも反応する発光石に変化が見られません…

 もはやノーウェストは疑いの余地もない事実です』

『…そうか』


 それが埜逆崎櫻の最初の記憶だ。埜逆崎櫻は魔王とその王妃『月』の間に生まれた最初で最後の子供だ。生まれたときに産声一つ上げず、不思議そうに周りを見渡したらしい。その異常さに何かを感じた立会いの占い師が調べた結果、『埜逆崎櫻』は『価値無し』だとわかったのだ。それでも魔王はそんなものは迷信、と笑い飛ばし櫻は殺されることはなかった。誰も魔王には逆らえぬ。だからといって誰もが納得したわけでもなかった。

 『価値無し』が忌み子で疎まれる存在ということには変わらない。それどころか憎悪さえ抱いている。魔族の寿命は長い。とくに権力を持った老人の中には『価値無し』を実際にみてきたものもいる。そしてそれらが行った鬼畜行為も。彼らの多くが王国に刃向かい幾つもの命を奪ってきた。時としてそれは人間との間に引き起こされる戦争以上の被害であったともいう。

 みな、口には出さなかったが『価値無し』に対する責任は暗黙のうちに『月』に押し付けられた。庶民上がりで魔王に見初められた『月』は城内での立場も微妙だったし、魔王は正統で祝福された血、そんなものを招くわけがない、と誰もが思っていたのだから。それに今までの『価値無し』は全て虐げられしもの、つまりは『劣等集落』から生まれている。いまではそんなものはなくなってしまっているがそれは形式上、いまだ人の心の中には劣等集落に対する侮蔑の気持ちは残っている。そして月は最低なことにそこの出身でもあった。

 それでそんな忌み子を孕んだ『月』はその一週間後に魔王への謝罪と自らの運命を呪った遺書を残して首を吊った。それは櫻の育てられている部屋の中での出来事だったので櫻は最後に母親が耳元で呟いた呪いの一言一言を全部覚えている。

『あなたなんて生まなければ良かった。私はもうだめだわ。誰かに見つめられるたびにもう、殺されそうな気持ちになる。あの視線、あの視線に含まれる無言の蓄積が怖い。なんで、なんで、あなたは『価値無し』なの?どうしてわたしのおなかの中に入ってきたの?わたしがなにをしたというの?どうして私を通じてこの世に生まれてきたの?どうしてわたしなの?わたしがあなたになにかしたの?』

 そして震える手でナイフを取り出しそれを櫻の首元に突きつける。

『あ、あなたなんて死んでしまえばよかったっ!!まだ肉片のうちに堕ろしてしまえばよかった!!

 なんで生まれてきやがったっ!!』

 ずぶり、とナイフが突き刺さる。

 だけどそれは櫻の顔の真横で。真っ白なシーツに深々とナイフが突き立っていた。櫻は泣きもせず、笑いもせずただ母親の顔を眺めるだけだ。

 それに月は心底背筋が寒くなる。ああ、やっぱりこれは呪われた災いなのだ。

『望様…こんなものでも殺すな、て言われるんですよね…』

 うぅ、と嗚咽が響く。

『でも…こんなものを産んでしまった私はもう生きていけません…

 なんで、なんで…生まれてきたのがあなたなの?一生呪われて死ねばいい…』

 まさかそれが自分に向けられた言葉とはちっとも思っていなかったけれど。

 月が椅子に登り、柱に縄をくくりつけ、首を吊る、その様子も櫻は覚えている。

 そんなときですら泣き声も何もあげない。ただ見ていただけだ。

 この事実はあっという間に魔族中に広がった。最高の醜聞。

『忌み子を産んだ王妃、自らを憂い自殺』

 魔王城に勤める侍女たちも世話をするのを嫌がり、ただ、なんとなく生かされてきた。

 それが埜逆崎櫻だ。

 父である魔王は自分の決断が月を死なせてしまったことを呪いながらもだからといってなおさら櫻を殺すわけにはいかなかった。櫻を殺していれば月は死ななかったのだ。いま櫻を殺しても遅すぎる。無駄なのだ。それでは本当に月の死には意味がない。それに忌み子とはいえ、自分の子供。精一杯の愛情を。などといいつつも魔王も苦悩していた。月が死んだ原因なのだ。そして忌み子は恨んだところで誰も文句一つ言わない。親として、そして月を愛した男としての狭間で苦悩は死ぬまで付きまとう。どこかで振り切ってしまわないかぎりは。

 程なくして魔王は自らの片腕を切り落とした。そしてそれを原料に刀を二振り作らせるとそれを持たせて櫻をすぐに里子に出した。手元に置いてしまっていては到底精神の平穏を得られそうになかったのだ。

 その後櫻はそこからも追い出されるように軍人を養成する学校に送りつけられる。

 そしてそこで多くの『価値無し』がそうであったように類稀な運動能力を見せつけ、学生の身でありながらいまや戦場に送られるようになる。しかしそれも戦闘能力を買われた、というのもあるがそれ以上に、ああ、事故か何かで死んでしまえばいいのに、という目論見のほうが大きかった。

 だから先の戦だって3万の軍勢に一人で立ち向かわされたのだ。

 唯一の誤算は魔王の血のせいか櫻は『価値無し』の中でもさらにずば抜けて身体能力が高かったことだ。

 まさか傷一つ負わないとは誰一人予想できなかった。


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