表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/31

第三部 『歪み歪歯車編』  暴力少女 埜逆崎櫻 4

そのニュースはすぐに魔国中に知れ渡った。そして外から置いていかれがちになる学園内もそのニュースは飲み込んでいく。


『価値無し』による魔王暗殺計画。


 かつてないほどセンセーショナルな、スキャンダル。ありとあらゆる情報通信社がすぐに櫻の過去を調べ上げ、火の着いたような報道を続ける。


 母親を死に追い詰めた『価値無し』。同族十三人殺し。戦場での完膚なきまでの殺戮。


 全てが櫻を槍玉に挙げ、あっという間に櫻は国を挙げての極悪人へと仕立て上げられた。今や街中を歩く小さな子供ですら櫻の写し絵を見れば石を投げ込むのを躊躇わない。


 それと同時にまったく風向きが変わったのが戒音だ。そんな極悪人を捕らえ、二度と剣を握れぬように懲らしめた。櫻と同様、ありとあらゆる情報通信社は彼女の行動の一つ一つを褒め称え祀り上げ一躍時の人となってしまった。これぞ理想的で模範的な魔王の忠実な女騎士。『帰郷人』でありながらなんとも魔族らしい。魔王暗殺、なによりも父親殺しを謀った櫻との対比も手伝い賞賛に続き憧れる者たちも出始め、子供たちは絵具で右目の周りの炎の入れ墨を真似た。まったくもって圧倒的でステキに優れたグランギニョルの手練手管だった。この劇はまさに千客万来拍手喝采、踊りに踊らされてしまっている。




「……信じられねー」


 赫紗はばさ、と手にした雑誌を伏せて机に置いた。先日外出して買ってきた、いわゆる写真週刊誌だ。学園内ではその手のものは手に入らないので外で購入しないといけない。


「信じられないも何もないですよ…『価値無し』、最低です…


 ずっと、ずっとわたしたちを裏切っていたんですから」


 櫻も広げていた新聞の号外をぐしゃり、と握りつぶした。これは教官から貰ったものだ。


 今まで重ねてきた時間というのは驚くほど脆い。何しろその記事の中で紹介されていたのは櫻に与えられた暗殺計画の内容。


『戦闘訓練場での出会い、それは実は櫻に琉架が近づいたのではなく琉架は櫻におびき寄せられたのだ。櫻は落第生を装って『紫』としての琉架が動かざるを得ない状況を作って待っていた。そして琉架との交流を深め、琉架を通じた『紫』とのコネクションを利用し直接の魔王との接見を狙っていた。それこそが暗殺計画のクライマックスであったと。』


 実際は琉架の名前こそ出されていなかったがその記事の内容は大雑把にまとめるとそういうことだ。その記事一つで琉架と櫻の間で積み重ねてきた砂の城は一撃の元に打ち砕かれた。いまや琉架もその他と同じ、ただただ櫻を蔑む、それだけのものだ。


 『紫』の教室は驚くほど静かだ。いまは琉架と赫紗しかいない。戒音がいなくなり、そして櫻がいなくなった室内には空白と静寂の住む領域が広すぎる。


「それにしても戒音…立派ですねっ!!早々に『価値無し』の裏切りに気付いていたのかしら」


「ですよねー…わたしはいまだに戒音がそこまでやるかーって夢見てるみたいだよ、次にあったらサンをつけろよこのミドリ髪野郎って怒られそう」


 そんな話題の当人の戒音はいまは事情聴取やら何やらで魔王城に呼び出され、なかなか帰れるめどが立たないらしい。


「ふふふ…戒音早く帰ってこないかしら…自慢の後輩ですっ!!その身をもって魔王様に歯向かう反乱分子に鉄槌を下したんですからっ」


「さすがに今回だけは琉架さんも褒めちゃいますかー?」


「そうだね、今回だけは本当に褒めてあげないと…ご褒美も準備しなきゃ。そういえば戒音って何か好きなものとかありましたっけ?」


「さぁ…多分本人に聞いてみたら…あ、聞くだけ無駄ですね、聞いても『戒音の好きなものはルカ先輩ッス―』とかで終わりそう」


「うあ、あれさえ無ければ本当にいい子なんですけど…ま、今回だけは特別に怒らないであげときましょう」


 などと二人は顔を見合わせて笑う。そして戒音が早く帰ってくるのを心待ちにする。英雄の戒音を。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ