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無題  作者: ねろ
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第零話 きみとプロローグ、ぼくとオープニング

第零話は読まなくても特に支障はないので面倒な方は飛ばしてオッケーです

「生と死は表裏一体じゃないよな」

僕は何ともなしに訊ねてみる。


「そりゃそうさ。生の否定が死であって、死の否定は生じゃねえよ。意味とか価値とか目的とか、そういうモンを見出してないと、«生きている»とは言えねえんじゃねえの?」

一般論だけど、なんて言って洞木(うつろぎ) 唯一(ゆいつ)は軽やかに笑う。人を心の底から嘲るような、そんな笑みだった。

僕も笑う──いや、嗤う。

その笑みは随分と自虐的に、あるいは自嘲的に思えた。


どうやら彼曰く、死の否定は«正»らしい。

生ではなく正。

所詮は掛詞に過ぎないが、しかし言わんとすることは分からなくもないだろう。

正しさを追い求める。

口喧しく。

その窮屈さこそが、息苦しさこそが人生だと。


そんな会話を交わしたのは、いつの事だかもう覚えていないけれど・・・・・・とにかく、以前にそんなやり取りがあったことを、僕は思い出した。


しかしそれが僕であれど、彼であれど、或いは全く別の誰かであったとしても、皆それぞれそんなことを考えたことがあるはずで、皆それぞれ幼い頃に神様とか生死とか命とか、そんな曖昧模糊とした、途轍もなく途方もないことを考えたことがあるはずで────その度に、世界に裏切られたような虚脱感を味わったことが、もちろん。


あるはずで。


アルハズデ?


いや──どうだろう。

あるのかな?


まあ何にせよ、そんなくだらない哲学を互いに問うていた僕と洞木は、単にそういう関係だった。友人という関係だっただけなのだろう。それだけに過ぎない、そう言えばそれまでだ。


「お前は僕の裏なのか?」

まさか、と洞木は首を横に振った。


「だったら、僕の否定か?」

彼は「ふん」と軽く笑って、わざとらしく肩を(すく)める。言うのも、否定するのも馬鹿馬鹿しいくらいの愚問であることは僕も充分に承知していた。


「いや──強いて言うなら、『対偶』だろ。お前であって、お前ではない。」


「«正反対»だけど、«同一»だよ。」

ふむ。

変に数学で喩える理由もこれといってないのだけれど、合同というか、相似なのだろうか。仮定も結論もないけれど、だからこそ証明するまでもない。証明するべくもない。

とにかく、僕らはそういう関係だった。«表裏一体»だった。



鏡面の向こう側というべきなのか。

たとえば水面に映る自分の顔を覗き込んだとして、それを自分だと思えないと言うべきだろうか。



いや。

なんだっていいし、どうでもいい。

僕の知ったことではないし、彼の知ったことでもない。


僕らに対して意味を見出すことの方が無意味。価値を見出すことの方が無価値。

決して絶えることのない矛盾を孕んだ関係にだって。


理屈も理論も存在しない。

現実味も真実味も存在しない。

因果も因縁も存在しない。

奇遇も奇縁も存在しない。

悲鳴も悲哀も存在しない。

永遠も永久も存在しない。

必然も偶然も存在しない。


けれど、そこには«何か»があった。

はずなのだ。

何かが。


「僕は多分、あと少し手を伸ばしたら君に届くんだろうな──ところで君、自分のことは好きかい?」

虚空を切るように。僕は訊ねる。


「俺は多分、あと一歩踏み出せばお前に届くんだろうぜ──いいや、大嫌いだ。お前が俺を嫌い、俺がお前を嫌うくらいにはな。」

虚実を踏むように。洞木は答える。


この上ないくらいにくだらない。

僕は飽きて、洞木は呆れた。


今思えば、僕と洞木の会話はこんなものだった。

こんな取るに足らない、有り触れたものだった。

瑣末なものだった。


そんな彼との会話の一部品、記憶の彼方に埋もれた断片を拾い集め、ジグソーパズルのように合わせてみる。

回想してみる。

しかし、多分それが完成することなどないのだろう。

ある少女の笑顔が、そこには足りないのだ。



欠落している。

欠陥している。

欠損している。

欠乏している。



それはまるで、僕のように────とは、言わないけれど。


あろうことか無辜なる彼女はその鏡面の向こう側を見てしまった。

その波紋が広がる水面の向こう側を覗いてしまった。


だから壊れてしまった。

だから崩れてしまった。

だから狂ってしまった。


自分の裏を知ってしまったから。

自分を否定してしまったから。






────つまりこれは、表裏一体、鏡合わせの物語だ。


人間誰しも表裏なんて持っているものですよ、とか。


少なからず皆嘘を吐いて日々を生きているんですよ、とか。


人を疑うことは大切ですよ、とか。


人を信じることは大変ですよ、とか。


そんなごく当たり前のことを、当然のようなことを、平気な顔をして躊躇も遠慮も臆面もなくただ一方的に説き散らす物語だ。


語らずとも騙りはする。

思うこと無しに想いを馳せる。

真実を観ずに現実を視る。


鏡の奥底を、水面の裏側を覗く物語だ。

自分の本性を──言うなれば裏側、黒い部分と出逢ってしまう物語だ。

本心とは全く異である、«化物(ジブン)»と対峙する物語だ。


善と悪、白と黒、正と負、生と死、罪と罰、嘘と誠、真と偽。その全てが一つに混ざり合う、渾然一体の物語だ。


言ってしまえば、真っ赤な嘘。

言わずもがな、真っ黒な嘘。


白々しい語り部とか、腹黒い大嘘『突』きとか、全てを破壊する暴虐兵とか、世界の模範解答とか、流離の放浪人とか、猛毒の式神遣いとか、純真無垢な少女とか、造られた終焉とか、地獄の番人とか、終焉の世捨て人とか、禍中とか。

いろんな登場人物(キャラクター)がいた。


この喰えない物語には、元から始まりも終わりもない。全ては零に。

収束する──そして、収斂(しゅうれん)する。


それでは。

始めよう。


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