第一話 『その名は怪人 美女男』
目が覚めた時、その違和感に思考が固まった。
本来無いはずの『それ』は、確かに自分の体の一部と分かる感触を脳に伝えている。
男として生まれて二十年以上になるが『目が覚めたら女の体になっていた』などという経験は無いが、事実として目の前にある。
そして、手近にあった鏡で自分の顔を確認した時、それまで溜まっていた感情がとうとう口から叫びとなった。
「なんですかこれはー!!」
鏡に映った顔は見慣れた自分の顔とは思えない絶世の美女の顔だった。
「あ、あら?」
そして、言葉使いもなにやらおかしい。
自分は鏡で顔を見た時『某有名刑事ドラマの名台詞』と同じ内容を叫んだつもりだった。
しかし、それは女言葉に改変されて口から出たのだ。
「・・・どうなって」
そう思って周りを見た時、またも違和感に気づいた。
見慣れた自分の部屋だと思っていた『そこ』は本来の自分の部屋の倍はある空間に再現された部屋だった。
「え~っと・・・」
女の体の動かし方を確かめるように、ゆっくりと立ち上がると自分の服装が入院中に着るような簡素な格好だと気づいた。
部屋の中を確認するために一周し、窓も無く出入口であろう鉄製の自動ドアが動かないのを確認し、壁に付けられた姿見で改めて自身の全身を確認した。
黒髪でストレートのロング。
ほとんどの人間が『美人』と答えるであろう整った顔立ち。
豊満な胸。女性のバストサイズに詳しくなくとも100は超えていると予想できた。
そして、胸に反比例するような腰のくびれ。
そこから繋がる胸のボリュームに負けない臀部。
その尻肉からスラリと伸びた脚。
身長は170センチくらいだろう。
おそらく多くの男性が想像するであろう『美女』の姿がそこにあった。
「これ、・・・本当に私?」
あまりに現実離れした状況に途方にくれる。
「夢、じゃあないわよね」
意識せずに出る女言葉に疑問を感じつつ『服を脱いで裸を確認したら』と考え、恐る恐る脱ごうとした時。
ピンポーン
自動ドア横のインターホンと思われる部分からチャイムが鳴った。
確認するとインターホンの液晶画面にスーツ姿の中年男性が映っている。
「お目覚めに、なられましたかぁ?」
低めで渋い声だが嫌みな感じは無い。
「お目覚めでしたら、画面下の赤いボタンを押していただけますか」
その言葉に、赤いボタンを押そうとして。迷った。
迷ったが自分では状況把握もできない以上は押すしかない。
意を決してボタンを押すと、小さな作動音と共に扉が開いた。
「ああ、お目覚めでしたか。どうですか、体の調子の悪い所はありませんか?」
「はい、大丈夫・・・です」
人当たりの良さそうな笑顔を浮かべた、身長150センチくらいの男性は懐から名刺入れを出すと一枚抜いて差し出した。
「申し遅れました。私、こういう者です」
その名刺には、こう肩書きが記されていた。
『秘密結社 メテオ・ダスト 日本支部 支部長 営業男 若竹 建雄』
と。