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 「おはよう、ある。朝だぞ、早く起きろ。今日は収穫祭だぞ」

 リカルド兄さんが今日も僕を起こしてくれた。

 「おはよう、リカルド兄さん。収穫祭が始まるのは午後からでしょう」

 「午後から収穫祭が始まるから、午前のうちにいろいろ用事を済ませておく必要があるんだ」

 「ふーん。そうなんだ」

 「それより、朝の水汲みに行くぞ」

 「わかったよ」

 僕はリカルド兄さんと水汲みに行くためにモゾモゾとベッドから這い出た。


 いつものように水を汲みに川へ向かう。僕らと同じように水汲みに来た近所の人達と出会うが、みんな収穫祭が楽しみなのか上機嫌であった。やはり娯楽の少ない田舎村では収穫祭はとても楽しみなイベントであるらしい。今年は僕も収穫祭の準備を手伝ったのだ。その分いつもの収穫祭よりも楽しみだ。


 水汲みも終わり、朝食を食べ終え、僕は収穫祭の会場となる広場に向かった。特に用事があるわけでもなかったが、広場へ行くのは最近の習慣だった。広場につくと、まだ収穫祭が始まっていないにもかかわらず、結構な数の人がいた。何かあるのだろうか?僕はそばにいた近所のおじさんに尋ねてみた。

 「収穫祭はまだ始まってないのに人が集まっているみたいだけど何かあったのですか?」

 「収穫祭に合わせて行商人が来ているんだよ。それでみんな面白いものはないか見にあつまってるんだ」

 「行商人ですか。それは珍しいですね」


 前にこの村に行商人が来たのはいつになるだろうか。僕の記憶にはないので大分前のことになるんではなかろうか。行商人がどんなものを売っているのか興味がある。売り物を買うお小遣いはもってないが、見るだけでも見てみようかと僕は考えて、人が群がっている行商人のほうへと歩いて行った。しかし、あまりに人が集まってうまく近づけない。どうしようかと考えていると、人込みの中からターニャ姉さんが出てきた。

 「アルベルトじゃない。あなたも何か買いに来たの?」

 「何か買うお金なんて僕は持ってないよ。それよりターニャ姉さんは何か買ったの?」

 ターニャ姉さんは答えずに手で髪をいじった。その髪はには髪飾りが留められていた。

 「その髪飾りを買ったの?似合ってるね」

 「フン」

 褒められたターニャ姉さんは満更でもなさそうに鼻を鳴らした。

 「それにしても、行商人が来るなんて珍しいよね」

 僕がそう言うと、ターニャ姉さんは胸を張って答えた。

 「今日の収穫祭を盛り上げるためにお父さんがシルバスタッドの都に行って行商人がこの村に来てくれるように交渉してきたのよ」

 「シルバスタッドの都?それってどこにあるの?」

 「シルバスタッドはこの村から南東のほうにあるのよ。ジルバーン公爵様が住んでいて公爵領でも最も栄えている大きな町よ。たくさんの人が住んでいて、お店もいっぱいあるんだから。お父さんはそこからこの村に行商に来てくれる人を探してきたのよ」

 

 ターニャ姉さんの言葉に僕はとても興奮していた。この村は客人もあまり来ない田舎村だ。村の外の話を聞くチャンスなんてまずないのである。まして行商人はジルバーン公爵様が住んでいる公爵領の中心地からきているのだ。どうにかして行商人と話ができないものか。相変わらず行商人の周りには人だかりができている。僕はどうにか近づけないものかとチャンスを窺った。しかし、行商人を珍しいと思っているのは僕だけではない。だから行人の周りの人だかりは減る様子はなかった。


 「そういえばターニャ姉さん。収穫祭の準備を手伝わなくてもいいの?」

 僕はふと疑問を口にした。収穫祭でふるまわれる沢山のごちそうを作るのは村の女の人の役目だ。村長の娘であるターニャ姉さんも手伝わないわけにはいかないと思う。

 「こ、これから手伝うのよ」

 ターニャ姉さんは慌てた様子でこの場から離れていった。

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