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僕の文字の読み書きの練習は順調に進んでいた。僕の学習意欲が高かったためだろうか、それともろくな娯楽がないため他にすることがなくて読み書きの練習に集中できたことが良かったのだろうか、僕は短期間でも次々に文字をおぼえることができた。そのおかげで既に文字の読み書きの練習は終わり、単語をおぼえるという次の段階へとステップアップしていた。練習の成果が出てることがはっきりとわかるとやる気もグングンと湧いてくる。今日も僕ははりきってアーレフさんに単語を教えてもらいに広場へと向かった。
僕が広場へ着くと、既にアーレフさんとターニャ姉さんがいた。
「おはようございます」
「「おはようアルベルト」」
僕が元気よく挨拶すると、二人からも挨拶が返ってきた。
「早速ですが今日も新しい単語を教えてください」
「あぁ、いいぞ。ただし、明日からしばらくの間教えるのは一旦止めにする」
僕ははりきってお願いしたのに、予想外の返事をもらい動揺した。
「ど、どうして明日からは教えてもらえないのですか?」
「もうじき収穫祭がとり行われるじゃろ。その準備をせねばいかん」
収穫祭とは文字通り村の農作物の収穫を祝い、一年間の農作業を労う祭りである。そして、うちの村の数少ない娯楽イベントの一つである。たくさんのおいしい料理が作られ、大人たちは酒をたらふく飲んで、歌い、踊り、騒ぎので村中おおいに盛り上がる一大行事である。
その収穫祭の準備を取り仕切っているのは当然村長一家になる。村長一家は収穫祭の日まで大忙しで、残念ながら僕の教育にはかかわってはいられないのだろう。
「わかりました、収穫祭の準備なら仕方ないですね。僕にできることがあったら手伝いましょう」
読み書きを教わって世話になっている僕はそう言った。
「ホッホッホ。そうじゃな。それでは収穫祭までいろいろと手伝ってもらうかのう」
アーレフさんは笑いながら僕が手伝うことを承諾してくれた。
「収穫祭の準備ってたいへんなんだから。それを手伝いたいなんてもの好きね」
去年まではただ収穫際に参加しただけで、その準備をしたことのない僕にターニャ姉さんがそう言った。だが、僕には世話になってる分の恩返しのほかにも目的があるのだ。将来ドラゴンレースを開催するときのために、同じ娯楽イベントである収穫祭の準備作業が何か役に立つのではないかと考えたのだ。できるだけいろいろな経験をしておきたい。
「アーレフさんには読み書きを教わってお世話になっているからね。収穫祭の準備頑張るよ。それより今日の勉強を始めようよ」
「アルベルトは熱心ね」
ターニャ姉さんは呆れたようにそう言った。
アーレフさんが地面に書いた単語を僕とターニャ姉さんは競うようにしてそれぞれ地面に書きおぼえていく。一生懸命に単語を書いては消してまた次の単語を書くことを繰り返す。こうして今日もアーレフさんによる単語の読み書きの勉強会が終わった。
翌日からは、収穫祭の準備を手伝った。祭りの舞台を飾る飾り物を設置したり、料理に使う麦や豆の袋を数えては倉庫から運んだりと収穫祭の準備は大忙しだった。村長一家や僕だけではなく大勢の人が準備を手伝っていた。僕はまだ幼くて力仕事はそれなりにしかできなかったけど、できる仕事は一生懸命頑張った。
そして、そんなたいへんな準備のかいあって、無事に収穫祭の日を迎えることになった。