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早速アーレフさんから文字の読み書きを習うことになった。アーレフさんに促されて村長の家から広場へ移動する。どうやら広場で文字の読み書きを教えてくれるようだ。
しかし、それよりも気になることがあった。なぜかターニャ姉さんも一緒に広場にきたからである。
僕は素直に疑問を口にした。
「どうしてターニャ姉さんも一緒に来てるの?」
「仕方ないでしょ。おじいちゃんが一緒に来なさいっていうんだから」
「ターニャは息子のやつが甘やかすからのう。この機会に教育し直そうと思ってのう」
アーレフさんは笑いながら言った。
こうして僕はターニャ姉さんと一緒に勉強することが決まった。アーレフさんが木の棒で地面にいくつか文字を書く。アルベルト、最初は僕の名前からということらしい。僕はそれを発音しながらまねて書く。それを何度も繰り返した。ターニャ姉さんは僕と違い、一通りの文字を書かされていたが既にある程度は文字を書けるらしく僕よりもスラスラと書いていた。
「どうしてアルベルトは文字をならいたいの?」
ターニャ姉さんが文字を書きながら聞いてきた。僕も文字を書きながら答える。
「将来家を出る時のためだよ。いろいろできるようになっておきたいんだ」
そして、僕が何度も自分の名前の書き方を練習していたら、ターニャ姉さんは文字の書き取りに飽きたらしく、面白い話がないかアーレフさんにねだっていた。仕方なさそうにアーレフさんは話し始めた。
「それではこの村の歴史でも話そうかのう。この村は100年ほど前にこのブレウワルド王国の王家直轄領地として開拓が始められた土地でのう。もともとは林があった所を切り開いて農地にしていったのじゃ。最初は20人程の人々が開拓民として集められ長く苦しい開拓の末、次第に数を増やし今は人口100人を超える村となったのじゃ。そして約20年ほど前に現国王の弟君が当時のジルバーン伯爵家に降家し婿入りすることになった時に、他のいくつかの領地にといっしょに転封され、現在はジルバーン公爵家の所領となったのじゃ」
アーレフさんの話は僕にとって初めてで極めて興味深いものだった。まず自分たちが住んでる国の名前がブレウワルド王国だということを初めて知った。それにどうやらこの国が封建制であること、さらにこの村の領主様がジルバーン公爵様であることも初めて知った。こうして今まで知らなかったことを知ることができたのだ。アーレフさんに文字の読み書きを習おうと思ったのは正解だったようだ。
「とても面白かったです」
僕は素直に感想を述べた。ターニャ姉さんはすでにある程度知っていた話なのか、それとも興味がないのかいまいち反応が良くなかった。
「アーレフさんはジルバーン公爵様にお会いしたことがあるのですか?」
「いやいや、そんなことは一度もないのう。この村の統治はお代官様が取り仕切っているからのう」
「そうですか」
僕はその返事に残念がる。公爵様という大貴族ならばドラゴンレースを開催するのも簡単だろうと思ったからだ。ツテがあるなら頼りにしたかったが、やはりそう簡単にはドラゴンレースを開催するための道は開けないようだ。現実は相変わらず厳しい。だが僕はやっぱりドラゴンレースを諦めきれない。何が何でもドラゴンレースを開催するのだ。
「アーレフさん、もっと文字を教えてください」
僕は地道に頑張るつもりでそう言った。
カイル、マリア、リカルドと家族の名前の書き方を教えてもらえた。
そして文字の読み書きの勉強会が終わった。
「また明日もよろしくお願いします」
僕は家に着いてからも今日習った文字を忘れないように書く練習をし続けた。