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「おはよう、アル。朝だぞ」
いつも通りリカルド兄さんが僕を起こしてくれた。
「おはよう、リカルド兄さん」
今日は前村長のアーレフさんに文字の読み書きを教えてもらいに行くと昨日の夜に決めたのだった。
僕は気合を入れてベッドから飛び起きた。
朝の日課の水汲みを今日もする。相変わらずの重労働だ。そして、朝食の時間になり、いつも通り家族みんなで食卓につく。そしてまたいつも通りに今日の予定を話し合ってる父たちに僕は言った。
「父さん、僕は今日から文字の読み書きをアーレフさんに習おうと思うんだ」
「なぜ文字の読み書きなんか習うんだ?」
「長男のリカルド兄さんがうちの畑を継いだら、次男の僕はうちの畑を継げない。いつか家を出なければならないのだから、その時のためにいろいろなことを身につけておきたいんだ」
「畑仕事をおぼえて、娘しかいない家に婿に行けばいいだろう?」
「確実に婿にいける保証なんかないでしょう。それに、僕にはやりたいことがあるんだ。それは農家だとできないことなんだ」
「やりたいこととは何だ?」
父さんが聞いてきたが、僕はこの質問に正直に答えるか迷った。ドラゴンでレースをしたいと言って、果たして周囲の協力が得られるのか疑問である。頭がおかしいとさえ思われるかもしれない。僕は本当の目的であるドラゴンレースの開催のことは秘密にしようと考えた。そして無難だと思われる返事をした。
「商人になりたいんだ。そのために文字や計算をおぼえたい」
「商人か……。まぁ、いいだろう」
何とか父さんの理解は得られたようだ。僕は安堵する。
「父さんからもアーレフさんに文字や計算を教えてもらえるよう頼んでおこう」
思いがけず、父さんから予想以上に協力的な言葉が出てきて僕はうれしくなった。
朝食を食べ終わると、早速父さんといっしょに村長の家に行くことになった。手土産にうちで採れたリンゴを持って行く。僕は父さんから遅れないよう気を付けながら村長の家に向かった。
村長さんの家に着くとパーゼル兄さんが出迎えてくれた。
「おはよう、カイルさんとアルベルト。今日はどんなご用ですか?」
「おはよう、パーゼル。アーレフさんはご在宅ですか?」
「ええ、いますよ。ちょっと待っていてください」
そう答えるとパーゼル兄さんはアーレフさんを呼びに行った。しばしの間待ってると、アーレフさんが出てきた。
「おはようカイル、アルベルト。何の御用ですかな。」
「実はお願いがあって参ったのですが……」
父さんが手土産のリンゴを渡しながら僕に読み書きや計算を教えてほしいことを告げる。
アーレフさんは少しの間考えてから引き受けてくれた。
「いいだろう。ただし、子守の時には今まで通り参加すること。あれには村の風習を伝えるという意味がある。それ以外の時に教えてやろう」
「ありがとうございます。では早速今日から教えてください」
こうして僕は目論見通りに読み書きを教えてもらえることになった。念願のドラゴンレースに一歩近づけたことが非常に嬉しかった。