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広場に着くと既に何人かの子供たちがいた。
リカルド兄さんは子供たちが全員そろっているか人数を数えはじめた。
「おはよう、アルベルト」
ふいに声をかけられて振り返ると腕を組みながら仁王立ちをしている少女がいた。
村長の娘のターニャだ。勝ち気でお転婆な性格で僕は少々相手にするのは苦手だ。
「おはようございます、ターニャ姉さん」
僕は挨拶を返した。ターニャ姉さんはリカルド兄さんと同い年の12歳だ。村では年上の子供たちが幼い子供たちの面倒みていて、村中で家族みたいなものなので、血のつながりに関係なく年上の名前に兄さん、姉さんをつけて呼ぶことが慣例になっている。
「ターニャ姉さんは家の手伝いはしなくてもいいの?」
「別に良いのよ、家の手伝いくらい。そんなの退屈だわ」
ターニャくらいの年齢になると、家の手伝いをするのが当たり前で、別に良くはないだろうと僕は思うが、村長は娘に対して甘いから多少のわがままは許されているのだろう。
「今日は村の中を散策するぞ」
リカルド兄さんがたち子供の人数を数え終えたらしくみんなに声をかけた。
「私もついて行くわ」
ターニャ姉さんは胸を張って宣言した。
「子守を手伝ってくれるのか。ありがとう」
リカルド兄さんは生真面目に礼を言ったが、ターニャ姉さんは手伝うつもりはなく、自分の家の手伝いをさぼって楽しいことを探しに来ただけだろうと僕は思った。
村の散策は非常につまらないものであった。
あれは○○さんの家だとか、あの畑は××さんの家のもので小麦を植えているとか延々と説明をされた。しかし、小さな農村に面白い場所があるわけもなく、退屈なことこの上なかった。
そんな風に村の散策に僕が飽き飽きしていると、遠くのほうから、ドドドドドと地面に響くような音が近づいてくるのが聞こえてきた。
僕は何が起きたのかと不思議がっていると、
「みんな道を開けなさい、早く」
ターニャ姉さんの叫び声が聞こえた。
みんなが言われたとおりに道の端によるった。すると間もなく何かがすごい速度でこちらのほうへ近づいてくるのが見えた。だんだんと近づいてきてその姿がわかるようになる。それは、緑色の体をした生き物にまたがっている乗っている人間だった。そしてその生き物は、すごい速度で僕らの前を通り過ぎていった。
「あれは何だ?」
思わず疑問が口に出る。
「何って、お代官様でしょう。急ぎの用事でもあったのかしら?」
ターニャ姉さんが答えたが、僕が聞きたかったのはそうではなかった。
「お代官様を乗せてた生き物は何なの?」
「あれはドラゴンよ。見たことなかったの?」
「ドラゴン……初めて見た」
僕は人を乗せて走るドラゴンを初めて見た。その姿は僕が前世で大好きだった人を乗せて走る競走馬の姿を思い出させた。そして僕はこう思った。人を乗せて走るドラゴンがいるのなら、競馬のようにドラゴンでレースができるのではないかと。
何もない農村で退屈な一生を過ごすしかないのかと思っていたが、ドラゴンとの出会いはその考えを変えてくれた。僕はもう見ることができなくなった競馬の代わりに、絶対にドラゴンのレースを開催してみせることを決意した。