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時代の守り人  作者: 長野 秋
第一章 
3/10

第三話 「初試合」

 会場が見えてきた。

 普段陸上競技やサッカーなどで使われているらしいが、信は初めて訪れる。その敷地内に入ると、建物に続く道には屋台が軒を連ね、人々で賑わっている。大半が食べ物を売っているが、魔法に関する怪しげな店もある。


(いい匂いだ。後で暇だったら何か買おうかな)


 そう思って人混みを歩いていく。


『混みすぎじゃない?』


 人に当たらないように、神はいつもより高く浮いている。


(さあ、いつもこうなんじゃない? 来たことないけど)


『試合よりこっち目的の人の方が多そう』


(まぁそうだろうね)




 そして、建物の正面入口から中に入ると、大会受付がすぐ見え、参加者が列を成していた。


「うわっ、並んでんなぁ……」


『そりゃそうだろう、この会場だけで数百人参加するんだから。今大会の参加総人数は、三万人越えてるらしいよ』


「多過ぎだろ、凄い規模なのはわかったけど。こんな行列に並びたくないわぁ……」


『すぐ済むって。面倒くさがらないの』


「まあ……ね」




 受付を済ませた信は、試合までの空き時間をどうしようかと考えていた。


「師匠、何したらいいと思う? 瞑想でもする?」


『そんなんは今必要無いよ。とにかくリラックスしていれば平気。信がこの二年でどれだけ強くなったかって、自分でもわかるでしょ。今回の大会は腕試しのつもりで、余裕を持って頑張って!』


 親のような口振りである。


「まあね。じゃあ試合まで寝るわ、時間来たら起こして」


『えっ……まあいっか、寝るのは大事だからね』




 信は、外のベンチで横になって寝ていた。一時間程経ったが、人が減ることはなく、相変わらず賑わっている。


「信、信、信、起きて、起きてよ」


 上半身をゆっくり揺すられている。


「んぅ〜……もう試合?」


「違うよ、信て寝起き良くないのね」


 揺り起こされた信は、ようやくその声が師匠ではないことに気付く。


「あっ!? 賢志かぁ! そういえば、俺も出るとか言ってたっけ」


「うん。信が出るって話は、中学ではほぼ全員知ってるから、どっかにいるだろうなとは思ってたけど、まさか寝てるとはね。他の知り合いは皆、緊張してるか興奮してるかだったのに、信だけだよ、その余裕」


 やや驚嘆の表情を作りながら、そう話す。


「ふーん、皆そうなんだ……って、なんで俺が出るって話が広まってるの!?」


 賢志は自らを左の人差し指で指し示す。


「お前かよォ! それ言う必要ある!?」


「なんとなく」


「なんとなくぅ!?」


『信〜、もうすぐ試合だよー』


 不意に神がそう告げる。


「あっ、はい」


「ん? 何?」


「いやっ、なんでもない。あっ! そろそろ時間だから、行くね」


「んー、またね。頑張ってこいよ」


「そっちこそな!」


 歩き出した信に対して、


『賢志くん、中々やりそうな感じだね』


「あ、やっぱり? 俺もそう思ってた。でも、戦ったら俺が勝つけどね」


 信は悠々とした表情で変わらず歩き続ける。


『自信があるのは良いことだけど、油断しちゃダメよ』


「はいはいわかってますぅ」




「天地信選手ですね。まもなく試合が始まりますので、選手控え室Aにてお待ち下さい。壁の案内に沿って進んでください」


「はい」


 言われた通り、壁の案内を見て進んでいくと、控え室と思われる部屋のドア前に、スタッフらしき人が立っている。


「天地信選手ですね。こちらが選手控え室Aです。どうぞお入りください」


 ドアを開けて、入るように促す。信が部屋に入ると、十人程の選手がその場で試合を待っていた。外の盛り上がりとは打って変わって、張り詰めた空気がただよっている。


(なんで皆そんな緊張する必要あるん?)


『信が緊張しなさ過ぎなんだよ。良いことだけど』


 空いている椅子を見つけ、取り敢えず座る。




 待っている内に他の選手は呼ばれていく。そして新たに入ってくる。

 十五分程待った後、ドアが開き信は呼ばれた。


「天地信選手、試合を行いますので準備をお願いします。準備が済みましたら、コートへご案内致します」


「はい」


(もうバッチリだけどね)


 信は軽快に立ち上がって、控え室を後にする。


『じゃあ、一回消えるね。私いたら邪魔でしょ』


(うん)


 そう思った時には姿は消えていた。




 スタッフに案内されて、通路を歩いていく。出口が近付くにつれて、今まで聞こえていなかった歓声や声援が響いてくる。普段聞かないような轟音も耳に届いてくる。そして出口の階段を登り、場内に立つ。

 今まで見たことがない人の数、様々な魔法の光、より大きくなる歓声や声援。信は、ここにきて初めて自分の身体が僅かに震えているのを感じた。


(こんなに客が入るもんなのかよ。すげぇなぁ……まあわかる気もするけど)


「天地選手はCコートでの試合ですので、あちらのコート付近で待機していて下さい」


「はい」


 指示されたコートへ行き、待機する。他のコートでは、前の試合が行われている所もあって、盛り上がっている。数分したら、審判らしき人物がコートの中に入った。そして、対戦相手も現れたようだ。


「両者コートに入ってください」


 二人がコートに入ると、近くの客席からの歓声が大きくなる。


「うおっ」


 やや驚く信に対して、対戦相手は全くと言っていいほど驚いていない。細身の体に不釣り合いな気合を溢れさせている。


(なんか強そうだな……一回戦にしては)


「試合時間は最大三十分。どちらかが気絶した時点で終了。武器の使用は一種類までとする」


(あれ? 武器使ってよかったんだっけ……ルールはサッとしか見なかったからなぁ)


「シールド」


 審判がそう言うと、コートを包むように緑色で半透明の壁が現れた。しっかりとしたドーム型のシールドである。


「では、U-15全国魔法選手権大会予選ブロックB3一回戦、天地信対須藤大心すとうひろと、構えて」


 大心は腰を低くして、戦闘態勢に入る。信は少し後ろに下がった。

 審判はシールド外にある審判台に座った。


「始めぇぇっ!!」


 審判の絶叫と共に大心は動き出した。信に向かって迫りながら、腰に差していた剣を鞘から勢いよく即座に引き抜く。


「アイス!」


 大心がそう叫ぶと、剣が氷で覆われていく。信の眼前まで迫った大心は、両手で鋭く斬り掛かる。


(氷魔法かぁ、最近人が使ってるとこ見てなかったな)


 そう思いながら、信は氷の刃を寸前で左に交わす。


「なっ!?」


 完全に届いたと思った一撃が、見事なまでに交わされた。寸前まで自分のことなど気にしていないような態度で。

 信は避けた状態のまま動こうとしない。


「なめてるのかッ!」


 大心は二撃、三撃と攻撃するが、信は同様に交わしていく。その動きには無駄がない、当たらないのが不思議な程に。


「おらァ!」


 大心は第四撃として胸部を突くが、当たらない。それを右に交わした信は、直後突かれた剣の下から内へと潜りんだ。


「早いとこ決めるよ」


 左足で踏み込んだ後、右拳を握り、大心の下腹部に反撃となる一撃を加えようとするが、


「アイス・ブラスト!」


 大心が叫ぶと突如剣を覆っていた氷が、突風と共に増大しながら爆散した。水煙がコート全体に充満する。両者が相手の居場所がわからないほどの濃さで、その後の動きは無い。


「アイス」


 大心は再び剣を氷で覆うと、水煙で見えない中地面に剣を突き立てた。


「アイス・グラウンド!!」


 突き立てた剣から地面に氷が広がっていく。滑らかではない、刺々(とげとげ)しい氷が一気にコート全体の空気を変えた。


「はあ、はあ、はっ、はあ」


(これなら仕留められたはず……)


 水煙は収まってはきたが、相手が見えない状況は続く。


(まだ晴れないか……やり過ぎたかな)


「涼しいねぇ」


「っ!? 何処だ!」


 大心の前方、というよりも上方から声がした。


「ウィンド」


 その言葉と共に、水煙が簡単に晴れていく。大心は動揺しつつも後ろに下がり、三度剣を氷で覆う。水煙が完全に晴れると、信は高さ十五メートルはあるシールドの天井部に触れていた。


「暑いから助かったよ」


「なっ!? 飛んでる!?」


「このシールド結構かたいねぇ」


(ウィンド・フライか? そうだとしたら、この歳であんなに高く飛べるものなのか……? 正確にコントロール出来ないと、すぐにバランスを崩して落ちるのに何だあの余裕……意味わからん)


「くっそ……アイス・ブレット!!」


 人の拳ほどの氷が数十個出現し、信に猛然と迫る。


「ふーん、多いね……よっと!」


 信は瞬時に加速して、氷の弾幕をあっという間に掻い潜り、大心の眼前まで迫った。


「なっ……そんな……」


 全力の魔法すらも通用しない。大心の心には絶望が芽生えかけた。その隙を信は見逃さない。


「ほいっと」


 すかさず大心の背後に回り込み、大心の頭に右手をかざす。


「コンフュージョン」


「えっ……あ……」


 大心は立っていることができずに膝を突いた。剣も持っていられずに落としてしまった。


「なん……え……」


「この魔法は知らなかった? 知ってると思ったんだけどなあ」


「そう……じゃない……まえ……る……こ…ぉ…」


「俺のほうが強かった。それだけ」


「く……そ……いっか…い………せんぇ……」


 大心は崩れるように前に倒れ込んだ。


「勝者、天地信!!」


 審判が高らかに言う。それを受けて、信は右手を突き上げ喜びを表した。


「よっしゃ、勝ったぁー!」




 そんな様子を客席で見ていた、両腕や顔に深い傷がある優れた体躯の男が呟く。


「やはり強かったな、信。近い将来、上で会うだろう。だが、それよりも先に、娘と戦うかもしれんな」


 男は不敵な笑みをうかべながら、会場を後にした。



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