94. 癒しスポット
ログインすると私のベッドの布団の中にシンラが潜り込んでいた。布団からちょこんと出ている尻尾が可愛い。
ベッドに腰掛け、シンラの尻尾を撫でながら届いていたメールを確認してみると、皆無事に試練を突破出来たみたい。今は夕飯に行ってるみたいだね。
どうせ皆が戻ってきたらヨーナがまた何かやりたいなんて言い出しそうだし、今は好きなことでもしていよう。
先ずはツリーハウスかな。ポプラの木に作ろうと考えてたけど、あの細長い感じじゃどうしても私のイメージとはちょっと違うかも。どうせ作るなら拘りたいよね。
理想は中心から四つに枝分かれした所にドンって家を置く感じかな。それには大木であるのが絶対条件。そんな事を考えながらリビングへ下りていくと、何時もより人が少ないことに気付いた。
今居るのはお酒を飲んでいる師匠とセリン、マオ、レンチの四人とひたすらパフェを食べ続けているもちだけ。アマテラスもログハウスに戻した筈だけど、他の家に行ったのかな?
「先生とミスノは花火を見に祭り村へ行ったぞ」
私に気付いた師匠が皆の行き先を教えてくれるけど、私の目は師匠達が囲む座卓に釘付けだ。私はアジフライの誘惑には勝てそうもないや。畳を踏まないよう膝立ちで近付き、師匠におねだり。
「メイリルとルーナはマルン達の所に遊びに行ってますよ」
「アマテラスとイザナミはフィナと共にクジとジラの所だ。フィナは大分あいつらが気に入ったのだな」
セリンとマオの話しを聞きながら貰ったアジフライにかぶりつくと、作りたてだったのかあまりの熱さに尻尾の毛が逆立つのを感じる。熱すぎない? 何でこの飲兵衛達は平然と食べてるの?
「熱ければビールで流し込めば良いのさ!」
そう言ってアジフライを頬張り、すぐさまビールで流し込む師匠は最早あの頃の戦闘狂とは思えない。あの凛々しい顔つきがゆるゆるだ。
「小豆はどこ行ったの? カジノ?」
「あの子は空飛ぶ島のゲームセンターです。ジーヌと勝負するんですって。メイリルが遊びに行く前に送っていきましたよ」
あの二人って事はダンスゲームでもしてるのかな? ジーヌは足が生えてから何かと足を使いたがるし、最近だと蹴り技も練習したりしてるからね。
冷めるかと思いアジフライにソースをかけていると、今まで一言も喋っていないレンチの事が気になった。黙々と日本酒を飲んでるけど、大丈夫なのかな?
「こいつは酒を飲むと急に恥ずかしがり屋になるんだ。面白いだろう?」
そう言ってレンチの肩を叩くマオは楽しそうだけど、叩かれているレンチは注目を浴びて恥ずかしそう。その羞恥心を普段から持ってくれれば良いんだけど。
熱さは厄介だけど、油の乗ったジューシーなアジフライはとても美味しくておかわりしてしまった。でも、決して目的を忘れたりはしない。でももっと食べたいから後で目一杯創っておこう。
そう心に決めて外に向かい、ドアを開けたらウォンを抱えたタツノが立っていた。ピンッと硬直しているウォンがまた可愛いこと。
「シンラとぬーちゃんを見なんだか?」
「シンラなら私のベッドに居るよ」
そうか、と嬉しそうにログハウスの中に入っていくタツノの背中を見ていると、言わなきゃ良かったと後悔してくる。ごめんね、頑張ってねシンラ。
心の中でシンラに謝り、先ずは大木を創る場所を探そうかな。最有力候補は水場の側、飛び込めたり出来たら楽しいかもだしね。
そうして歩き出そうとすると、ログハウスのドアが勢いよく音を上げながら開けられ、思わず尻尾が逆立つほど驚いた。なんか尻尾の感情表現が豊かになった気がする。いや、前からビタンビタン動いてたんだけどさ。
「アオイちゃん! 見て見て!」
そう言って飛び出してきたのは、もふもふな狸の尻尾を生やしたユイナだった。ちょこんと生えた耳もなんだか可愛い。
「もふもふだね! 触っても良い?」
「うん! 私も触って良いですか?」
お互い向き合って尻尾前に出してお互いの尻尾の触り合い。シンラの物よりボリュームがあって触り心地が全然違うかも。でも甲乙付けがたい。
「「もふもふー」」
和みすぎて目的忘れそう。
そんな私達にウォーセが混ざり、暫く二人と一頭で触り合いをしているとパシャリとカメラのシャッター音が聞こえた。
音の方を見てみると、ドアの横にある窓から此方を覗くよだれを垂らした変態二人。思わずユイナと共にウォーセに跨がり、とりあえず最有力候補の場所へ行くことに。
「此処で何するんですか?」
「ツリーハウスを作ろうと思ってるの」
私達を追いかけてきたしーちゃんを撫でながら、ユイナの疑問に答えるとその顔が期待の色に染まった。うん、ちょっとプレッシャー。
場所は敷地全体の真ん中、水場の角の所に決めて早速理想の大木を作り出す。直径二メートル程で、三メートル程上に伸びた後四本に別れて直角に近い形で曲がって、ある程度のスペースを作った後にまた上に伸びている形。全体の形としてはモンキーポッドをイメージしてみた。
「このスペースに作るんですね?」
「うん、雨は気にしないでいいだろうから、先ずは板を置くだけでも様になるかな」
一面は飛び込みやすい向きにしたし、此処でフィンの芸を見るのも楽しそうかな。そんな事を考えていたからか、水場からひょっこりフィンが顔を出した。でも、どこか何時もと違う。何時もならもっと飛び跳ねたりすると思うんだけど。
それもその筈、このフィンはぬーちゃんが変化したものだった。一瞬で元のレッサーパンダに戻ったぬーちゃんが私の胸に飛び込んで来なかったら、絶対に気づかなかったと思う。こうやってタツノをやり過ごしたんだね。
苦労してるだろうぬーちゃんを撫でながら、大木に板を置いてひとまず完成。ハウス感は無いけど、癒やしスポットにはなったと思う。上りやすいように階段もつけてっと、早速寛いでみようかな。
「凄いの出来たな」
「あ、ヨーナ」
ぬーちゃんをユイナに預け、階段に足を乗せたところで掛けられた声に振り返ってみると、ヨーナがクロを抱いて立っていた。
「どうしたの? また祭り村行く?」
「いや、気になったからさ」
「やっぱり気になりますよね」
やっぱりこの木の外観は気になっちゃうか。そんなヨーナも引き連れて階段を上がってみる。しーちゃんとウォーセは直接飛び上がって来たけど、クロとぬーちゃんは階段をのんびり上ってきてる。この子達は可愛さを振りまくのが上手いね。
「景色が見えないのは誤算だったかな」
「そりゃこの木じゃそうだろ」
「でも日がある内にくれば、木漏れ日あっていい感じだと思いますよ」
光の球を浮かべて周りを見てもすっぽり枝や葉で隠れていて、ちょっぴり秘密基地みたい。ユイナが言うとおり日がある時なら、癒し効果はもっと上がるかな。
「テレビとソファーは欲しいな」
「スライム呼ぼうか?」
「そこはウォーセだろ」
その話しを聞いて、ウォーセが三人分は寄りかかれるサイズになってくれた。お礼を言って三人揃って寄りかかると、これはこれで良いけど今度は敷物が欲しくなってくる。
「なぁ、今から皆でゲーセン行かないか? 空飛ぶ島の方の」
「いいよ、今ならジーヌと小豆も居るみたいだし」
「リズムゲームなら負けませんよ!」
張り切るユイナだけど、流石にプロには適わないよ。でも、ヨーナがやりたいのは普通のゲームではないみたいで、ユイナに申し訳なさそうに首を振っていた。
「リアル双六ってやつをやってみたいんだよ」
勢いで作ってしまった物に目を付けてしまったみたいだ。あれは運営が作った自身のアバターを駒にする双六をアトラクションみたいにした物。作れるみたいだから作ったけど、やっぱり触手も再現されてるのかな? かなり不安なんだけど。