91. 毛玉のいる道中
ログハウスに戻ってまず目に入ったのは、テーブルに伏せるぐったりとしたムラマサとユイナだった。ムラマサまでこんなになるなんて、スラミのパワーはそこまでだったんだね。ひとまずそこは触れずにおいて、燻製とジョンを師匠に引き渡そう。酒の力で立ち直らせてあげてください。
そしたら次はルーナとリンクを解除、サクラもテルンとチルンを解除すると、直ぐに二人が消えていった。多分マルンが転移させたんだろう。さて、遂にぐったりな二人の話だ。
「此処にいるって事はスライムの村は見つけたんだよね」
「見つけるのは楽だったけどさ、その分大変ってどう言うことなのさ。あぁ癒させてぇ」
そう言って私の尻尾を手繰り寄せて頬ずりするムラマサは相当疲れたようだ。そもそもスライムの村へ行く方法は他と違うんだよね。条件はテイムしているスライムが主人に懐いていれば、村まで案内してくれると言うもの、きっと運営にも熱狂的なスライムファンが居るんだろう。ユイナが伏せたままで今も盛り上がってると思いますよ、なんて呟いたことからも分かる。
そしてこんなに二人が疲れている原因、それはスラミが道中テンションが上がりまくって浮かれていたお陰で、面白いように即死マスに引っかかってしまったんだそう。今度スラミと精霊をセットで高天原に放り込んでおこう、遅いかもしれないけど。
少し遅いけど昼食に行くと言う二人を見送ってヨーナに連絡を取ると、村へ着くのはまだまだ時間が掛かるみたい。まぁ、それは仕方ないかな。獣人の村へは山に囲まれた盆地の森の中にある。空から行けば直ぐだろうけど、それでは村には辿り着かない。周りの山と、そこにある迷路のような洞窟を案内板を頼りに進まないと村を見ることすら出来ないみたいなんだよね。社長も現状最難関と言っていたし。隠れ里なのに案内板はありなのかな?
「二人が戻ってきたらツキミヤに行きませんこと?」
「おお! いいね、行こ行こ!」
ツキミヤに行くならアトラクションは外せないよね。時間はあっても機会が無くてまだやったこと無いから楽しみだ。やるならやっぱり宝探しかな? 宝探しなら戦闘は無かった筈だし、折角だから宇宙でのんびりしたいからね。私は無駄な戦闘を避ける立派な戦士なのです。
ムラマサとユイナを待つ間も、私のテンションは下がることは無かった。時間つぶしにサクラと対戦した落ちゲーで負けることが無かったからね。流石の私も途中から接待じゃないかと感づいたけど、サクラも満面の笑みだったから深くは突っ込まない。きっとこれがウィンウィンな関係なんだろう。なんかウィンウィンって響きが可愛い気がする。
二人も戻り、事情を話すと初めてだから是非いきたいと快諾。玄関でツキミヤを選択し、ドアを開けてツキミヤの大通りへ出るとムラマサとユイナから歓声が上がった。空の黒と、此処から見える青い星を見たら思わず声が出ちゃうよね、ユイナなんて少し涙が出てるし。そんな上ばかり見る二人をサクラと共に引っ張って冒険者ギルドに向かう。
大通りを見て、そして冒険者ギルドに入って思うけど此処には私達以外のプレイヤーが居ない。千里眼なんかを使えば此処の存在は分かるし、転移が使えば来ることが出来る。やっぱり転移はハードルが高いのかな? そう思い、アトラクションに入る前に受付のお姉さんに転移以外で此処に来る方法を聞いてみた。
「満月の晩に、竹を切って覗き込めば此処に来れますよ」
なんかネタっぽい答えが返ってきた。満月の晩にわざわざ竹を切って覗き込む人なんて居るのかな? 残念ながらお姉さんも見たことが無いらしい。サクラが掲示板に書き込むって言うけど、そんな話信じる人居るのかな? ちょっと疑問だけど、そこは安心。掲示板住人はノリが良いらしい。一時期、トットリ領の砂丘に飛ぶ込むのがブームになる程だそう。いい加減忘れさせて欲しいよ。
サクラが書き込んでいるのを待っている間、ムラマサとユイナと共にアトラクションについての話しをしているとムラマサは戦闘機によるシューティングゲームが気になるみたい。熱唱しながら戦闘機を操りたいみたいだけど、宇宙生物は出たりするのかな? 仲良く出来るなら出てきて欲しいけど。
そんな話しをしている内にサクラも掲示板の書き込みは終わったみたい。少し時間が掛かったように思うけど、それは掲示板住人の反応の所為だったみたい。何でも、やってみると言う人達が十二単を着て集まるらしい。そんな集団が竹藪に入っていくとか、怪しすぎる。
見てみたい気もするけど、巻き込まれるのは嫌なので気にしないようにしよう。それより今は宇宙で宝探しだ。早速受付のお姉さんに宝探しをやりたいと伝えると、直ぐにスマホのような道具を差し出され受付カウンターの横にある扉へ入るよう返答が来た。お姉さんにも私達の話が聞こえていたみたいで準備しておいてくれたそう、出来る女って格好いい。尊敬しそう。
扉の先はもう宇宙。煌めく星が綺麗だけど、この黒さは少し不安にもなるね。早速お姉さんに渡されたスマホみたいな道具を起動してみる。これはレーダーで、これを使ってこの宇宙のどこかにある光る石を探し出すのが、宝探しのルールだ。
「石が七つあったら面白いのになぁ」
「ムラマサは何か願い事があるの?」
ムラマサの呟きを拾い、聞いてみたのが地雷だったことにその光る目を見て気付いた。本人はニヤニヤするだけでその願望は言わないけど、それだけでも相当なダメージだよ。七夕イベントなんてあったら要注意だね。
ムラマサの視線を避けるようにレーダーに目を向け、その画面に石の存在が映っていない事を確認。このレーダーは石がある場所を点で表示してくれるから、この近くには無いんだろう。宇宙に入ってからユイナが無重力の感覚を楽しんでいるから、先ずはのんびり漂っていようかな。制限時間はあるけど、今回はクリア目的じゃないからね。
「海と違った感覚で楽しいですね。こんな所で歌いたいなぁ」
ユイナが言うといずれ宇宙ライブも実現しそうだよね、まぁゲームでだけどさ。そんなのんびり会話をしながら漂い、たまに何処かへ飛んでいこうとするサクラとムラマサを回収しながら宇宙を進んでいくと、デブリが多い所へと流されていた。
「こういう所にありそうですわね」
「うん、レーダーも反応しているからここら辺だと思う」
「また面倒くさそうな所にあるね、具体的な場所は分かるの?」
ムラマサの問い掛けに進行方向を考えてレーダーを見ていると、私の頭に柔らかい何かがぶつかってきた。吃驚してそのぶつかってきた物を見ると、ふわふわの毛に包まれたつぶらな二つの瞳が可愛い毛玉だった。両目の上には五本の触覚が並び、それをぐるぐると回転させて此方の様子を伺っている様。
「ぴんぱんぷ!」
「え、何?」
「この子可愛いですね!」
よく分からない声を発した毛玉をユイナは気に入ったみたい。確かに可愛いかな、触手に指で触れるとプルプル震えるのもなんか愛くるしい。
「ぷるぽぺぴんぺ!」
「ぴん!」
「ぷんぷー!」
そんな姿が可愛らしくて、適当に返事をしたら嬉しそうに目を細めて何処かへ飛んでいってしまった。もう少し触れ合いたかったね、とユイナと話しているとサクラは何処か不審そう。聞いてみると、プロフの魔法を使ってもあの毛玉の情報は見れなかったみたい。
「それならさっさと終わらせて受付の人に聞いてみよっか」
そう言うムラマサに同意してレーダーに映る石の下へ。岩に埋まっている意地悪い仕様だったけど、破壊してそのまま回収。自動で冒険者ギルドへ戻されたとき、受付のお姉さんに毛玉の事を聞いても知らないとしか答えてくれなかった。その際妙に頑なな感じがあったからちょっと怪しい。やっぱりこういう時は社長かな?