89. 男の友情
遂に姿を現した巨大なイカ。タコだと思っていただけに残念さはあるけど、サクラとヨーナが見たその情報に頭を悩ませながらも、もう一度椰子の実をぶつけてみる。姿を見せたと同時に復活した八本の足は、椰子の実のお陰で一度は消える。直ぐに復活したけどね。もしかしたら本体が無事だと何回でも復活するのかも、肝心の本体には椰子の実が効かないみたいだけどね。
「駄目みたいだな」
「そうみたいですわね。特殊装甲、厄介ですわ」
椰子の実攻撃でマイーカもその気になったのか、八本の触手を振り回し辺りを攻撃し始めた。それを防ぐためにヤマト全体にバリアを張って、どんな攻撃ならダメージを与えれるか皆で試してみることに。
未だに名乗っていなかった中性的な男の人、メニドと自己紹介しながらもビームを始め、太極図の力をフル活用して斬撃や打撃、弓など様々な攻撃を繰り返していく。
他の皆も衝撃や斬撃を飛ばしたり、魔法を繰り出したりと普通のボスならもう倒れているであろう物量攻撃にも物ともせず、元気に触手を振り回すマイーカにちょっと嫌気がさしてきた。こうなると助っ人を呼ぶしか無いね。
「あらあら、見てたわよ。まさか此処へ扉を開くだなんて、ふふっ、ラッキーね」
皆から誰を呼ぶのか、と期待の目を向けられながら転移させたのは大人の魅力たっぷりの天女のような格好をしたイザナミ。彼女の姿を見てお兄ちゃんが苦悶の表情を見せるけど、手を出さないあたりムラマサへの想いは一途みたい。
イザナミはこのダンジョンがとても良いものみたいに言うけど、詳しくは倒してからと大魔王マイーカの特殊装甲について教えてくれた。特殊装甲とはどんな攻撃でも一定のダメージにしてしまう物で、プレイヤーで言う装備の様な扱いみたい。だから【コスモパワー】の効果も機能しないらしく、嫌がらせみたいなモンスターだ。マイーカの場合はダメージが八になってしまうそう。どこまでも八に拘るあいつには痺れもしないけどね。
「なら物量で攻め続けるしかないって事か?」
「ええ、状態異常も無効だもの。毒が使えなくて残念ね」
図星をさされたらしいヨーナは必死に顔を背けているけど、そんな行動だとやろうとしていたのはバレバレだ。なんだかんだ毒攻撃が気に入ってるのかな?
かと言って毒が効けば便利だったのも事実みたいで、マイーカのHPはそれなりに高く設定されているみたい。詳しい数値を言わないあたり徹底されてるなぁと若干呆れてしまう。さて、そうなってくると私以外の皆はMPが不安かもしれない。なのでなるべく楽な方法を取りたいと思う。
先ずはイザナミを憑依。イザナミの力は平たく言えば太極図だけど、その効力は太極図を大きく上回っている。簡単に言えばMPの制限を受けないって事と、何かを生み出す事に特化していることかな。その代わり憑依中は敵を即死させる事が出来なく成っちゃうけど。そもそも太極図でも即死させることは出来ていなかったし、称号の効果が受けれないだけと思えばいいか。もう一つ大事な事はイザナミを憑依させた際、私の手に現れた一本の矛。強制的に武器が矛になっちゃうんだよね。扱えるように練習しとかないと。
そしてイザナミを憑依させて作り出すのは衛星兵器。それは特製の弾丸を無限に打ち出すマスドライバーの様なもので、弾丸と言っても打ち出すのはクラスター爆弾だ。早速打ち出され、マイーカに着弾したそれは幾つもの爆発を繰り返し、瞬く間にマイーカを包み込んだ。これなら後はのんびりお茶でも飲みながら、なんて思っていたら、数発で直ぐに光となって消えていくマイーカ。若干やりすぎたかもしれない。
「ガトリングとか造ることも考えねーとな」
「これ現実だったらきっと音とか凄いだろうね」
「どうだ! 俺の愛しの妹は凄いだろう!」
男三人衆と子分達はあの超兵器に夢中みたいだけど、とりあえず何となく恥ずかしいからお兄ちゃんにはたらいを落としておく。甲板に出した白いテーブルがすこし空しいかも。
「テーブルは片付けなくていいわ。これからがメインイベントだもの」
マイーカを倒したことで出てきたイザナミがそう告げるけど、メインイベントとテーブルがどう繋がるのだろう? そのままイザナミに言われるがままに椅子を配置し、女性だけで集まりどんなケーキを出すか盛り上がっていると、海を見ながら兵器について語り合っていた男三人衆が海が動いたと声を上げた。
「その海流を行けばゴールよ」
その声を聞いたジョンがヤマトに命じ、思いの他速い流れに乗りって何処かへ進んでいく。イザナミにイベントと言っていたことやゴールについて聞いても、着けば分かると言うだけで早々席についてケーキを食べ始めてしまった。
海を見ているという男性陣をよそに、テーブルを囲み色とりどりなケーキに舌鼓を打つ。ウミとミウは好みも似ているみたいで、共にモンブランを食べ続けている。栗ってウニみたいだよね、なんて笑い合っている所を見ると、栗が好きなんじゃなく海が好きみたい。
サーフィンもよく行くらしく、来年の夏は一緒に海に行こう、なんて現実での話をしていると事態が動いたのか、ジョンの陸が見えた! と叫ぶ声が聞こえた。
陸にヤマトを横付けし、ジョンが子分達に見張りを頼むと声を掛けているのを横目に皆でヤマトから飛び降りる。それに気づいたジョンが待てよ! と叫びながら飛び降りて来るのを待ち、無事に着地したところでマップにも乗っていないこの地で何をすれば良いのかイザナミに問いかけてみた。
「何もしなくて良いのさ!」
「ひゃぁぁぁ!?」
そんな時、後ろから尻尾を鷲掴みにされ思わず変な声が出てしまう。驚きと恥ずかしさで混乱しながらも振り返ると、そこには笑顔の男性が居た。その顔は何処かイザナミに似ていて、その口を開こうとしたところでその顔は拳に歪み吹き飛んでいってしまった。
「最低な人ね。こんな可愛らしい子の尻尾を鷲掴みなんて」
そう言って私を抱き締め、頭を撫でるイザナミの母性が凄い。圧倒的だ、ミスノは負けたかもしれない。そんな圧倒的な存在感に感動していると、周りでも謎の展開が繰り広げられた。
「女性の反応を楽しんで何が悪い! 神聖なその存在に少し乱暴に触ってみてなにが悪い!」
「駄目に決まっているだろ! 神聖な物ほど先ずは優しく触らないと、慣れてきた時に違ったアクションをして反応が楽しめないだろ!」
「「友よ!!」」
そんな会話を繰り広げ、いきなり抱きしめあうお兄ちゃんと謎の男。訳が分からない。いや、いきなり抱き合ったんだから何かが通じ合ったんだろうけど、ジョン達がまたかって顔してるのも分からない。もしかして大学でもこんな事があったの? 流石に妹として恥ずかしすぎるよ。
「そろそろ話しを進めるか。此処まで辿り着いたお前達を認めよう、その力であの悪鬼を打ち倒してくれ」
「嫌だわ、悪鬼だなんて」
あぁ、イザナミを呼ぶんじゃなかった。普通ならイベントっぽく進むような話が修羅場っぽくなってる。いや、イザナミがそんな風になるように喋ってるのか。上にある笑顔を見れば何となく分かる。
それを察したヨーナにヤマトで待ってろと言われ、これ以上ややこしくならないようにイザナミを連れて大人しく甲板へ。その間、ずっと抱き締められている状況はいつ終わるのだろうか。
「さて、アオイには別の説明をしないといけないわね」
そう言って解放された私は、またもや言われるがままお茶会セットをセッティング。どんな説明なのかと期待していると、その説明は単に新しいシナリオはラスボス戦が始まらないと進まないと言う事。そして此処にプレイヤーが辿り着いた事で大陸の追加が早まるかも、というプレイヤーである私に話す必要があるのかとちょっと思う。
「何でその話を私にするの?」
「あの人達が大変そうだから」
イザナミが言うあの人達とは運営の事で、元々一年スパンで考えていたラスボス戦がかなり早まってきていて焦っているらしい。何だろう、この社長との温度差は。つまりあれだね、のんびりプレイしてくれって言うことだ。私はのんびりやってるつもりなんだけどなぁ。
それでも好きに動けば良いと言ってくれるイザナミと、チョコレートは黒と白どっちが美味しいか議論を交わし、どっちも最高と結論を出して実食。同時に食べたりと堪能していれば、あちらの話も終わったみたい。
一つ目的を達成したジョン達は、これから集まって飲みたいらしくお酒を提供してくれないかと頼まれてしまった。それは師匠に聞かなきゃ分からないことだし、代表としてジョンも連れてログアウトする前にログハウスへ帰ろうかな。
サクラとヨーナは疲れた顔をしていて帰ったら直ぐに温泉に浸かりたいとこぼしていたけど、それはきっと熱い握手を交わしているお兄ちゃんとイザナギの所為だろう。説明の時も度々脱線していたらしく、結局テイムして後でたっぷり語り合う事で落ち着いたみたい。
ログハウスに転移すると、そこには師匠が仁王立ちして待ちかまえていた。用があるみたいだから話を聞くと、先生はあおいせ食堂の防衛戦力としてベイを送りたいと言う。でもベイは師匠の買い物の足になることが多いため、それを解決するまでベイは渡さないと対立しているみたい。
どうしようかと思っていたら、ミスノが助け船を出してくれた。それはイザナミの力を借りて、師匠用のアイテムポーチを創ること。ポーチと言ってもそれは見た目だけで、実際はモンスター用のアイテムボックスだ。それなら一度の買い物で大量のお酒を確保出来る。早速イザナミを憑依させ、肩掛けバック型のアイテムボックスを創り出した。
早速買い物に行くと言い出し、ジョンをお供にベイに跨がり走り去っていく師匠を見るに、あちらの飲み会にも参加する気なんじゃないかと心配になってくる。ジョンやお兄ちゃんはお酒に強そうだけど、他の皆は大丈夫かな?




