87. のんびりな時間
月明かりに照らされるフジヤマはとても良いものだ。最近は空飛ぶ島を上空に置いたままだったからずっと陰ってたからね、他のプレイヤーには悪いことをしていたかもしれない。ただ、雪が被ってないのがちょっと残念かな。何故そんなフジヤマを眺めているのかと言うと、この度草原の隅に露天風呂を造ったからだ。
ヨーナとサクラに挟まれるように浸かり、フィナを前に抱えての裸の付き合い。ムラマサも言ってたから試してみたけど、部屋じゃなくても個人所有の土地でも裸になれるみたいだね。うん、この方がより温泉を楽しめる気がする。
だけど、此処は草原。そんな所にに露天風呂とか誰かに覗かれそうなものだけど、そこはちゃんと対策がされている。何でも外からはマッチョがボディビルをしている風景が見えるらしく、確認したヨーナが大笑いをしていた。きっとボディビルをやっていた社員が仕組んだんだろう。勿論、中からは外に誰が居るか分かるみたいだから一応生垣は植えてあるんだけどね。
それに施設の中に入れば、水着の選択画面に裸が追加されるから脱衣場は作っていない。ただ生垣と扉に囲まれただけの簡素な作りで、これで生垣がなければ秘境の温泉みたいな雰囲気だけど、流石に羞恥心には逆らえないから仕方がない。
それにしても三人で裸になって温泉に浸かるなんて、最近だと中学を卒業した記念で三人だけで旅行に出掛けた時以来かな。旅行と言ってもそんな大層なものじゃなく、お兄ちゃんに車を出して貰って近くの温泉地に行っただけなんだけどね。
「それで、その条件ってのは何なんだ?」
そんな温泉でのんびりと洞窟、後から聞けば根の国の入り口だという所での話を二人にしたみたら、やっぱり気になるのは条件の事。ラスボス戦の事は意外と反応が薄かったけど、二人は先ずソロで挑戦したいみたい。それなら私は関係ないね。
「隠れ里に行けば良いみたい。例えば第三大陸だとエルフの村だね」
フィナに膨らませたタオルを見せながらヨーナの疑問に答えると、里なのに村なんだなってポツリと呟いた。突っ込みどころがそこなんだね。スライムの村はありますの、って恐る恐る聞いてくるサクラを見習って欲しい。
こんな状況だけどサクラはいたって平静。昔から裸では興奮せず、何かを纏うからこそ興奮するんだそう。私がレンチ達の水着を着たらどんな反応をするんだろう、怖くなってきた。
「スライムの村は第四大陸にあるみたいだよ」
「スラミ大歓喜だな」
真っ先に行きそうだよね。最近原初の澱みをテイム石でテイムする事が出来たみたいだし、戦力的には十分やっていけるんじゃないかな。
何故私がこんな事を知っているかというと、昨日洞窟から戻って直ぐに社長に色々と聞きに行ったのだ。そこで大陸の条件についても聞いたため、第四大陸までの村の事なら知っている。今話したものの他に、第一大陸にはリザードマンの村、第二大陸には獣人の村があるらしい。
「それぞれ名物があるんだって」
リザードマンの村では燻製、獣人の村ではジャム、スライムの村では漬け物とそのラインナップはちょっと謎だけど、エルフの村のチーズの美味しさから、どの村もきっとその味には自信がある物だと思う。特に燻製は酒飲み達には喜ばれるだろうね。
「もう一つはイザナギですわね、何処にいるか聞いたんですの?」
「海を進んで行けば良いんだって。そこはジョンに期待かな」
大陸が全て実装されていないから、急いで会いに行っても仕方ないしね。イベントも次は文化祭だろうし、新しい大陸が追加されるまではのんびりしていれば良いと思う。だから、あの事に手を着けようかなって考えているんだけど。
膨らんだタオルをぺちぺちと叩くフィナに癒されながら、二人に鰯を穫りに行ったときの事を話す。あのダイナミックなダンスは皆にも見て貰いたいから、どうしてもテイムしたい。だけど問題は場所。此処を広くするのは良いけど、社長に聞いたあの鯨の全長は二キロにも及ぶと言う。二頭を自由に泳がせようと思えば、相当な広さが必要になってくるよね。
「あの島の海を改造すりゃいいんじゃね?」
「そうですわね。海なら広さは十分ですし、後は水深を下げれば良いだけですわ」
確かに良い案だけどそんな事して良いのかな? そもそも何処までが敷地なのかも分からないし、とりあえず社長に聞いてみてからだね。
早速社長の下へ行こうと温泉から上がると、入り口にと作ったドアから師匠とセリンが現れた。どうやら二人はここで日本酒を飲むらしく、桶と肴を出してほしい頼まれた。肴は焼き鳥でいいかな。闇鍋の時に穫ったのが残ってるし、あと鰯のつみれを鍋にし置いておこう。土鍋なら温かいまま置いとけるだろうしね。
喫茶店に着き、風呂上がりと言うことで皆揃ってコーヒー牛乳とアイスを頼んで島について聞いてみると、その答えは海は誰の物でも無いと言うシンプルな物だった。
「開拓も自由にやらせてんだ、そんなの自由にやればいい。駄目なやつなら修正するがな」
なんとも懐が広い社長だ。なら島の周りの水深を思いっきり下げよう。どうせあの島に行くなら、久し振りにランダムダンジョンに入ってみるのも良いかもね。
「で、まだモンスターは創らないのか?」
社長のそんな問いかけに、サクラとヨーナは何の事だ? といった表情。アイスを嬉しそうに食べていたフィナも、少しそわそわしだして新しい仲間が気になる模様。モンスターを創るとはどう言うことか、それはイザナミの力の事で、その力は平たく言えば太極図。でもはっきり違うと言えるのは、一体だけ自分の好きなようなモンスターを創り出せると言うこと。昨日早速ログハウスに出したイザナミから話を聞いたんだけど、悩んでいる内に気が合うらしいアマテラスと二人してあらあらと笑いあって日本酒をお酌し合っていた。
「どんな動物にするかは決まってるんだけどね、どんな能力にするか悩んでるんだ」
「可愛い奴か?」
鋭いヨーナの質問には秘密とだけ答えておく。別に図星を指されたからじゃないんだからね!
フィナがおかわりしたアイスを食べ終わるのを待って島へ転移し、早速海底の工事を進める。砂浜を削るのはちょっと勿体ないので、砂浜の辺りは一キロ程離れたところから水深を低くしていく。そうして、周囲三十キロを水深十キロの深海に浮かぶ島が出来上がった。ランダムダンジョン以外の名物が出来たね!
いざ肝心の鯨をテイムしに行こうとすると、フィナが呼んでくれるみたい。張り切って拳を握る姿は可愛いけど、どこまでも自由なAI達に少し呆れもしてしまう。それでも思ったより早く二人に鯨のダンスを見せてあげれそうで嬉しいけどね。
盛大に波しぶきを立て、潮を噴出しながら遠くの海からやってきた鯨達は早速ダイナミックなダンスを披露し始め、その展開の早さに波に飲まれながらも一足遅くバリアを張ってその動きを堪能。それを見たサクラとヨーナは、呆然としながらも徐々にその動きを楽しめるようになっていた。その表情を見ていると私も嬉しいな。
そんな現実では絶対見られない演目も終わった後、正直テイムしなくても良いんじゃないかとも思うのだけど、ルールはちゃんと守んなきゃ! と看板を掲げるフィナに従いゴッドテイム石を投げつける。それぞれクジ、ジラと名付けて外に出し、改めて称号の効果を使って見てみると、その大きさに相応しい様なグランドホエールと言う名のモンスターだった。
「どんな戦い方をするんだろうな」
「きっと転がるんですわ」
「空を飛んでても危険な技だね」
勢いよく吹き出す潮を見ていると、どっちかって言えば撃ち落とす方かもしれないね。
この後フィナはクジとジラのご飯を取りに行くそうなのだけど、それぐらい太極図を使えば直ぐだし、大量に用意できる。それなのに私がやるの! と看板を出し、やる気に満ち溢れているのは誰の影響だろうか。
本人がやる気なのだし、この子達の事はフィナに任せて私達はランダムダンジョンへ向かおうかな。平日の夜とあまり時間があるわけではないから、簡単な物が良いなぁなんて欲丸出しで入ったのがいけなかったのか、扉の先は数本の椰子の木が生えた小さな孤島だった。
殆ど砂浜で出来た島には椰子の木以外何もなく、何をすれば良いのか分からない私達はとりあえず砂浜に座り、海を眺めながら今後の相談。
「ログアウトは出来るけど、どうする?」
「先ずは海水浴だな。ある程度時間が経てば何か分かるかもしれないし」
「海亀が居れば脱出のチャンスですわね」
この島がどんなダンジョンか分からないけど、遠くの方で見覚えのある戦艦が浮かんでいるのは視界を飛ばして確認できた。いざとなれば手を借りて調べ上げれば良いかな。




