6. 金は怖い
日の出を見るために早めにログインして、綺麗なそれに感動した後、もう一つの念願である山小屋で卵の黄身が載ったカレーを食べながら今後の予定を話し合う。
「お前朝飯食ってねーのか?」
「食べたよ。でもゲームの中だもん、いっぱい食べねば」
言ってみれば、ゲームの中で食べるご飯はただ飯だからね。食べねば損損、なのに、二人はコーヒーだけなんてちょっと信じられないよ。
まぁ、こんな朝早くからカレーを食べるのは変って自覚はあるけどね。たしかにちょっと重いし。
「山を下りたら、ひとまずイーズの街に向かいますわ」
「それって、どれくらい掛かるの?」
「下山は四時間ほどですわね。それでイーズまでが一時間半くらいかしら。金鉱ダンジョンまでは三十分ってところですわ」
「それなら、ダンジョン着いたら昼飯って具合か」
ふぅむ、やっぱり馬があると言っても移動時間はそれなりにかかるよね。やはり、カレーでのエネルギー補給は必要であった。
そんな元気の源も食べ終わり、いざ出発!
馬から落ちることはないんだし、もちで駆け下りて一気に下山すればいいんじゃないか。と、思ってやってみたものの怖すぎて断念。
あれはもう、ジェットコースターなんて目じゃないスリルがあったよ。やはり、上下の振動っていうのは怖さを助長するのかもね。
そんな恐怖体験もあって、のんびり安全に下山したら、一路イーズへ。
伊豆と言えば金目鯛。煮付けが食べたいところだけど、売っている店はあるのかな?
そんな期待に胸を膨らませながらも、道中では馬上戦闘に挑戦。
もちが突撃したら、馬上を飛び出し敵を斬って神速通で再び馬上へ。なんていうアクロバティックな事もやってみたの。
そんなことしてたら称号が、なんてヨーナに言われて確認したけど、どうやらこの程度でゲット出来る称号はなかったみたい。
代わりにあったのは【竜の親】である。成り行きで子持ちになるとは思わなかったよ。
他にも道中では、千里眼を使って徘徊型のボスモンスターを見つけたりしたけど、多分あれは鵺なんだろう。
巨大だったけどレッサーパンダっぽかったし、なにより可愛かった。あれはまさにボスクラスの可愛さだよ。
そんな色んな発見もあった旅路も終わり、イーズの街へ到着。
先ずは道具屋に立ち寄り鶴嘴を購入し、神速通があればゴールデンゴーレムを楽にテイム出来るかもしれないと、テイム石も追加で購入。
ついでに煮付けを食べる時間はないからと、金目鯛の干物もね。
そのまま休むこともなく、直ぐにダンジョンへ向かい、着いたところでテントを張りログアウト。
その際周りを見回してみたけど、テントの数も多かったのでやっぱり金鉱ダンジョンと言うのは人気があるみたい。
私達もがっぽり稼ごうと、気合いを入れるためにお昼をがっつり食べて再びログイン。
がっつり食べていたのが拙かったのか、二人はもう来ていたので、気にしていないという二人に謝りながらも早速ダンジョンに入る。
ダンジョンと言うだけあって、迷路の様になった洞窟状ステージみたいだけど、ゴールデンゴーレムは体が大きいらしく、それに合わせているのか、中はとても広かった。
「やっぱり人が多いな。奥まで行くか?」
「そうですわね。奥へ行きながらゴールデンゴーレム探しましょうか」
見渡す限り鶴橋を振るう人々の群れ、このままだと私達の場所を確保する事も難しいので、ある程度時間をかけて採掘出来る場所を求めて、幾つもある分かれ道を適当に進んでいく。
マップもあるし、迷うことはないと思うからその心配はしていなかったけど、心配しなければならないのは別のことだと言うのを、私達はすっかり忘れていた。
しばらく進み、人が少なくなってきたところで早速採掘を始めようと、鶴橋をアイテムボックスから取り出しているタイミングで、ズシンッと言う洞窟中に響くかと思うほどの大きな音が聞こえてきた。
周りにちらほらと居た人が蜘蛛の子を散らす様に逃げていく中現れたのは、金色が眩しい、頭部のない角張った三メートル程の人型ゴーレム。
「んじゃ、アオイ。ゴー!」
「いや、ペットじゃないんですけど!?」
そんな普通なら恐怖の権化であるゴールデンゴーレムも、今の私にはただの実験生物である。
文句を言いつつもゴールデンゴーレムの背後に向けて神速通で移動し、テイム石を当てれば無事にテイム完了。
まさかこんな簡単に出来るとは思っていなかっただけに、なんだかちょっと呆気ないや。
とりあえず名前はフィナンシェにして、早速外に出し金をくれないかと聞いてみるも、大きな体を横に振るだけで出してくれる様子はない。
でも、無理というわけではないみたい。横に振るというダイナミックを止めた後は、私を指差しその指を自分の方へ持って行くという行動。
それはさながら何かを伝えようとしている様。
「ボディランゲージかな?」
「何かを渡せって事なのかしら?」
「こいつ頭いいのか?」
そんな疑問だらけの私達に対し、何かを渡すって事で良かったのか、前後に体を揺する仕草を見せるフィナンシェ。
逸れでもってまだ何を渡せば良いのか分からないでいると、流石にしびれを切らしたのか、胸のところに文字が浮き出てきた。
《モンスターの入ったテイム石を渡してもらえれば私が取り込んで融合進化するよ! 強くなるからオススメ! あっ! べ、べつにあんたたちのために言ってるんじゃないだから! だから勘違いしないでよね!》
「こいつ馬鹿だ!」
「あら、賢くてかわいいじゃないですの」
「もちのでいいかな? はい、どーぞ」
強くなるんだったら、ツンデレだろうと馬鹿だろうと何でも良いよ。それに、どうせ馬鹿ならもちを与えるのは丁度良いかもしれないしね。
なんせ馬だし。
そんな駄洒落に内心笑いながらも、もちの入ったテイム石をフィナンシェの手に乗せる。
すると、お辞儀をしてから胸に押し当て取り込んでいく。モンスターはAIなんだよね? なんか反応が凄い気がする。
そして暫くどんな風になるのか観察していると、ぐにぐにと波打ちながら姿を変えていき、もちと同じサイズで、ドリルみたいな角が生えた馬型ゴーレムへと変化した。
いや、融合進化か。でも、金ピカなボディはなんだか眩しいんだけど。
「あっ、名前変えれるって。なんにしようかな?」
「きなこもちか、ずんだもちってところかしら」
「いや、流石にそれはねーだろ」
「じゃあ、きなんだもちにする」
「合体させんな!」
どうせ融合したんだから、名前の候補を融合させないとね。
そんな変な名前を付けられたにも関わらず、頬にすり寄ってくるきなんだもちのなんと可愛らしいことか。
可愛いなぁと、スベスベの顔を撫でると、何故か顔を上げそっぽを向くのは解せぬのですが?
「あら、ツンデレですの?」
「こいつちゃんと言うこと聞くのか?」
そんな二人の感想にに対する返事なのか、きなんだもちは心外だとばかりに鳴き声をあげ、奥へと軽快に走っていく。
取りあえずそれについて行ってみると、其処にはゴールデンゴーレムが立っており、それを見たきなんだもちは角を猛烈な勢いで回転させながら、これまた猛烈な勢いで突撃し、ゴールデンゴーレムを粉砕した。
物理無効とは何だったのか。いや、ドリルだからなの?
そんな突っ込みを心の中でしながら、破片が消えていったのでもしかしたらとアイテムボックスを確認してみると、そこには金の延べ棒が入っていた。
十キロの物が五本も。
因みに、事前にサクラから聞いていた話だと、現実と同じ相場で買い取ってくれる為、この一瞬で大金持ちなのは確定だね。
おまけに【成金】の称号もゲットしたけど、これはいらないです。
「やっふぅーっ! 億万長者だ! あははっ! 遊んで暮らせる!」
「落ち着けよサクラ。ここはゲームなんだから遊んで暮らしてるだろ」
そんな一攫千金が現実となった事でハイテンションになったサクラと、それに落ち着いて突っ込みを入れるヨーナ。
それを横目に褒めて褒めてとすり寄るきなんだもちを撫でていると、漸く大金を入手した実感が湧いてきた。
いやいやサクラさん、これは私のお金であってサクラの物ではないからね? ガキ大将的な思考はしちゃ駄目だからね?
「もう、さっさと出ましょうか。早く街に行きますわよ。あ、きなんだもちちゃん! また、ゴールデンゴーレムでたらよろしくね!」
そんな事など気にしていないのか、じっとしていられないとばかりに早足で戻るサクラを、ヨーナと二人で追いかける。
きなんだもちが、背中をコックピットみたいに変形させてくれたから移動は楽だし、二人乗りも何とか出来る。
それに乗り心地がい良いのはとても最高だ。でもね、このまま突撃だけは絶対にしないでね?
そんな淡い期待も、褒められるのが好きらしいきなんだもちが応える事はなかったけどさ。
そんな訳でジェットコースターさながらの道中を終え、イーズの街へ戻ったら休憩も兼ねて、三人で伊勢エビ丼を食べながら乾杯。
ついでにお金にも余裕ができたから、称号の効果を試す為にいなり寿司も食べてみたの。
そしたらもうね、これはやばいよ。
帰りの道中で金の延べ棒が十本に増え、街に戻ったときに二つ残して買い取ってもらった事による懐の暖かさとは違う暖かさが胸に宿る様。
これは、自制して控えないと身を滅ぼす程の幸福感だよ。
「あとは、家をどこにするかですわね。やっぱり海の見えるところがいいかしら。私としては、和風より洋風な豪邸もいいですわ」
「スールガで良くないか? 社長がいるんだしさ、何かあったら色々と教えてくれるかもしれねーじゃん」
「あそこのコーヒー美味しいしね!」
「最初の街にいいとこなんてあるかしら? アオイさん。ちょっと調べてきて貰えませんこと?」
なんか、私を便利アイテムかなんかだと思ってません?
私の扱いについてちょっと話し合いたい気もするけど、やっぱり良い家は欲しいのは私も同じ。
早速神速通でスールガに移動し、ダメもとで社長の所へ行ってみますか。
そう、気軽な感じで向かった喫茶店だけど、予想以上の成果に私も吃驚なのです。
「ただいま!」
「お帰りなさい。良い場所はありましたの?」
「うん。社長に聞いてみたんだけどさ、フジヤマ西麓にある土地付きログハウスが良いんじゃないかって」
流石社長と言ったところか、私がドラゴンの卵を手に入れたことを既に知っていた為、所持金を加味して此処を提案してくれていたの。
どうやらドラゴンが孵った場合、どうしても場所が必要になるみたいだし、テイムモンスターは外に放しておくだけでも親愛度が上がっていくので、広い土地がある方がオススメなんだとか。
おまけにログハウスは中の空間が特殊になっていて、外観に関わらず部屋数も間取りも広さも内装までも自由自在。
「でも、お高いんでしょう?」
「それがなんと、二億ゴトー!」
「高っ!? 安くて十万からの世界だろ!?」
「あら、ならそこにしましょうか」
「即決かよ!? うっわ、金があるってこえぇ」
既に金銭感覚が崩壊したサクラは話が早くて助かるよ。私はもうその家を買う気満々だったからね。
ヨーナももう、流れに身を任せた方が楽しめるってもんだよ?
早速、イーズの街の冒険者ギルドへ行き件のログハウスを購入。
領地内の土地は領地内の街の冒険者ギルドで買えるっていうのは、なかなか便利だよね。
でも、県を領地に変えてるだけなのは流石に安易じゃないかな? 名前もそのままシズオカ領だし。
「家屋メニューから家具に、雑貨、生産設備を選び放題に加えて三万坪の草原か。なんだか二億が安く感じる……のか? 駄目だ、金銭感覚がおかしくなりそう」
「いいんじゃないですの? ゲームなのだし。無くなればゴールデンゴーレム倒せばいいのですわ」
「いややるの私だよ? 私のきなんだもちだよ?」
流されるのは良いと思うけど、堕落するのはいただけません。
そんな堕落し始めて移動すら面倒くさがったサクラをきなんだもちに詰め込み、一路我が家へ。
イーズの街から一時間ほど行った先、フジヤマ西側の高原にある東京ドーム二つ分ほどの草原を有したログハウス。
実物を見ると、より広さを実感しちゃうなぁ。これ現実だったら二億で済むのかな?
「広いなぁ。野球でもするか?」
「ピッチャー、キャッチャー、バッター。せめて内野にもう一人欲しいですわね」
「きなんだもちが取ってきてくれないかな? やっぱりそこは犬かな?」
草原は四角形な形で門と柵で囲ってあるから、境界線がはっきりしていて手を加えるのは少し楽そうかな。
ログハウスはその角の所、門を潜って直ぐ左側にあるから、余計に庭である草原の広さが際立つよ。
こうも広いと動物で埋めたくなってくるなぁ。羊と犬と豚は欲しいかな? 目指せ牧羊豚ってね。
そう何時までも草原を眺めていてもしょうがないので、早速ログハウスの中へ入ってみる。
中は至ってシンプルで、窓が有るだけで家具等は何もないみたい。これは、自分達で好きなように配置しろって事かな。
「何もないな」
「好きなようにやれって事だね。どうする?」
「一応、アオイさんが買ったんだからリビングは好きにして良いですわよ。シャロウインパクト達を草原に放してから、部屋でも作りましょうか」
それは有り難い、自分で作ったリビングはさぞかし落ち着けるだろうしね。
一度外に出て三頭の馬を放つと、それぞれの仲はとても良さそうで、元気に草原を駆け回っている姿はどこかほっこりしてしまう。
輝く金色は眩しいけど。
さて、自分の部屋とリビングを作ったらどうしようか? テイム石買い込んで、モンスターを集めるのも楽しそうかも。土地はあるしね。
うん、そう提案してみようかな。