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86. 一人だけのクリアの仕方

 月曜の夜に温泉に浸かってリフレッシュ出来るという幸せ。これで体育でバレーをやっていた時、トスし損ねたボールが顔面に直撃するという恥ずかしい事もきっと洗い流してくれると思う。

 膝に乗って私の胸に頭を預けるクロの体を意味もなく持ち上げ、うにょーんとさせてみる。濡れたおかげでスリムに見えるクロはちょっと面白い。


 今日、フジヤマの温泉に来たのは私とクロだけ。私だけでは少し寂しいので、早速炬燵で丸くなっていたクロを連れだしてきたのだ。クロも温泉は気に入ってるみたいだから良かったよ。


 今日は居ないヨーナとサクラは、人気漫画の連載再開を機に全巻読み直すそうだ。私もあれは好きだけど、ちょっと読むのが大変。そうだ、今度何かしら真似してみようかな、私の尻尾はマシンガンとかちょっと面白そう。そんなちょっとした決意を固めながら、フレンドリストを開いて皆のログイン状況を見てみる。

 ログインしているのはトヤマさんとクイネさん、スラミだけ。私ってもしかして友達少ないのかな? ……、それは置いておこう。ジョンの子分達とフレンドになれば、多分一気に解決出来ることだからね。クイネさんは店でトヤマさんは畑、スラミはスライム探しと皆好きなことをしている。


 ギルドバトルの相手を掲示板で募集しているけど、今の所何処も反応がないし、特にイベントがあるわけでもないからね。そうなると、好きなことをやり始めるのが私達のギルドなのだ。だからこそ私も此処に来たんだけど。

 温泉の下にあった謎の洞窟。前はみるだけだったけど、今回は実際に行ってみたいと思う。そこを探索して、皆にこんなのがあったって自慢するのです。むふっ。


 こんな風に隠されているんだし、ドラゴンの妨害もあることから普通に転移出来ないのはお見通しだ。でもマルンの力でも転移できないのは予想外だった。マルン万能説は私の勘違いだったかな。


『あそこに行くには転移じゃ無理だぞ? 入る方法は三通り、一つはイザナギから許可を貰うこと、もう一つは全ての大陸で条件を達成すること。最後に神を憑依させることだな』


 私の中のマルンはあの洞窟について知っているようで、行き方について教えてくれた。一つ目はイザナギが何処にいるか分からないから無理だし、二つ目もそもそも大陸が全て実装されていないと思うから無理。なら当然三つ目を選ぶ訳だけど。


「最初から神の事だけ教えてくれれば良かったんじゃない?」

『勿体ぶりたかったんだもーん』


 マルンはやっぱり、見た目通りに子供っぽいと思う。だけど答えを貰えたのは良かったとして、早速アマテラスを転移で呼び寄せる。目の前に現れたアマテラスは、微笑みながらも私に憑依。マルンの答えや、アマテラスの反応を見れば私だって薄々は気付いてくる。この洞窟の先には、多分ラスボスが居るんだね。


 マルンともリンクし、流石に水中での行動は無理なクロを一度庭の草原に戻してから、温泉を勢いよく潜って行く。途中、漂っていたドラゴンに頑張れよー、と声を掛けられたのに反応して手を振って答えるけど、このままラスボス戦に続く流れなのかな? 前見たときは洞窟にはモンスターが居なかったと思ったけど、私が見ていないその先には出たりするのかな? 強いモンスターだったら面倒だなぁ、とラスボスを相手にするかもしれないのに少し呑気に考え、面倒だったら大人しく帰ろうと心に誓う。


 光も届かなくなり、真っ暗になったところで潜るスピードを少し弱める。調子に乗った挙げ句地面に激突なんてのは避けたいからね。これはバレーでの教訓だ。けして調子に乗ってはいけない、多分明日には忘れてるかもしれないけどね。

 激突することなく、華麗に着地した洞窟の地面。そこでは少し変な感じがした。妙に体が重く感じ、飛んで進もうと思っても体が浮かび上がることはない。これは面倒臭い予感。ドラゴンが頑張れって言ってたのはきっとこの事だ。


 洞窟に入ってから何も話そうとしない私の中の二人に、少し寂しく思いながらもてくてく歩き続ける。モンスターも何も出ない洞窟をただ歩くのにも飽きてきた為、意味もなくラスボスはどんな姿か予想したりしていたときふと思った。マルンの言ってたことは少し怪しくないか?

 マルンは接する時間は短くても、何となく素直な子だと思う。本人が勿体ぶったなんて言っていたけど、そこには何となく意味があると思う。


「ラスボスって、マルンが言った三通りをクリアしてないと戦えないんじゃない?」

『まさかバレるとは』


 なんか物凄く無駄足感が高まってきた。きっと二人が黙ってたのも、奥まで行ってがっかりする私を見るためだよ。珍しく考え込んでみて良かった。


『それじゃあ、もう帰る?』

「どうせ暇だからこのまま進むよ。奥がどんな風になってるのか気になるしね」


 二人の思惑が外れたなら少しは喋ってくれるだろうし、それなら楽しく進めそう。試しにラスボスがどんな奴か聞いてみると、あっさり闇落ちしたイザナミだと教えてくれた。

 そんなイザナミは封印されていて、今はその封印が緩んできている為、各地で問題が起きているらしい。そもそも何でイザナミが封印されているのかというと、イザナギの浮気性に激怒したイザナミが闇落ち。それを恐れたイザナギが、イザナミを封印して逃げ出したと言う設定らしい。


「もう少しマシな設定にすれば良かったのに」

『仕方ないわ。だって考えたのはあの二人だもの』


 ちょっと吃驚な発言だけど、それには少し訳がある。それは、このゲームが出来たきっかけだった。運営は元々AIを研究する研究所だったそうで、その研究も上手く行き始め、大量のAIが生まれ少し扱いに困っていたらしい。そこで思いついたのが、AI達が伸び伸び遊べるゲームを作ろうという計画。その為、AIのゲーム内での権利は結構大きいんだそう。運営のぶっ飛び具合が分かる話だね。

 ただし、ゲームという作りにしているお陰で、AI達の暮らしは様々な物になってしまい、そこに不満を持つ物も少なくないんだそう。そんな代表格が私の所に集まってきていると言うわけだね。


『遊ばせてやってるのだから、我らを楽しませて貰わねばな』

「二人は今は満足してる?」

『勿論よ』

『我はもっと機能が強化されれば良いと思う!』


 二人の答えを聞いて少し安心。先生達もそう思ってくれてたら嬉しいな。でもマルンの要求は運営にね、私に言ってもどうにもならないから。


 もっとテレビ番組が見たいとか、あのお店の料理が食べたいと夢を語るマルンの言葉に耳を傾けていると、遂に最奥と思われる所に到着した。そこには壁のような場所に、上半身だけが飛び出している女性が石像のように固まっている。その表情は憤怒の物で、現実にいたらちょっと泣き出しそう。


『さて、テイムしても良いのよ?』


 その言葉に一瞬耳を疑う。仮にもこれはラスボスだ。それをテイムなんて出来るのだろうか? 出来るんだそう。ただし、それはラスボスがこの状態に限り先着一名様限定で、ここでテイムしたプレイヤーは今後このラスボス戦には参加出来なくなるらしい。

 別にラスボスと戦うっていうのは、そこまで興味がある訳じゃないからそれでもいい。でも、ヨーナやサクラが倒せるのかなって不安もある。別に私が居ないと何も出来ないって人達じゃないし、私自身がそんな驕りを持つ訳じゃないけどね。


『大丈夫よ。ラスボス戦はあなたが想像しているような物では無いわ』


 アマテラスのその言葉を聞き、それなら良いかと深く考えるのは止めて、闇堕つイザナミと表示されるそれに向かってゴッドテイム石を投げつける。すると称号【イザナミの依代】取得のアナウンスが聞こえた。

 

 これで私はラスボス戦に参加出来なくなった訳だけど、どうせならそれは私も楽しめそうな物だと良いな。


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[一言] ラスボス召喚で、自分が呼ばれる予感(笑)
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