84. 仲がいいのは良いことです
ギルドバトルを終え、ジョンにどんな作戦だったか聞いてみると、最初キングのオブジェクトは北側の隅に配置していたそう。それを南側の私達とは反対側に移動させ、作戦会議時間に張っておいたステルスで隠すようにヤマトを出してタイミングを計る。そんな作戦だった。てか、作戦会議時間にそんな事出来たんだね。
このバトルを経て私の防御を抜けるくらいにヤマトの強化を望むジョンに、王威の刀の事を教えてみたけど、刀じゃなぁと武器は斧に拘っているらしいジョンは入手に乗り気じゃなかった。
それならヤマトに乗せてくれたお礼と言うことで、お疲れ様会も兼ねて社長の喫茶店に行って情報を集めることに。航海もさぼることは出来ないと言うジョンとお兄ちゃんと別れ、喫茶店へ向かうと入店早々社長から私に声が掛かった。
「フィールド壊すの禁止になったぞ」
「あんまりだ」
そんな一言にアイデンティティが崩壊したような気もしながら、空いていたカウンター席にずらっと並んで座りその理由を聞いてみる。フィールドとは言っていたものの、禁止となるのはギルドバトル用のフィールドだけだそう。
何故そんな事になったかと聞けば、それはランキングと言う他のプレイヤーにも影響が出る要素があったからだ。
詳しく聞くと、【コスモパワー】の相手の特性に左右されないという効果と太極図、これらを組み合わせると破壊不可のオブジェクトも破壊できるのは元々の仕様で、フィールドの破壊も想定されていたことだそうだ。でも改めて私の戦い方を見た時、やっぱり駄目じゃないかと思ったらしい。
なるべくプレイヤーの自由にさせるのが運営のモットーなんだけど、今回は仕方がない事。私も運営も同様に、バランスと言う名の調整に泣かされる羽目になった訳だ。
「それだと街も破壊できちゃうんじゃない?」
「まぁ、出来るな。やってみるか? とんでもない称号が出るぞ」
そこで私を見られても私はそんな事やらないよ、そこまで破壊魔じゃないもん。これ以上この話が続くとなんか唆されそうだし、話しを変えるために先ずは注文。新商品のアイスコーヒーパフェなるものを頼んでみる。
「凄いですわね、それ」
激しい戦いを経て私の隣の席を獲得していたサクラが、私の前に運ばれたアイスコーヒーパフェを見て呟いた。確かに凄い。アイスコーヒーの上にバニラアイスと生クリーム、小さなチョコケーキが乗ってその上からキャラメルソースが掛かっている。
アイスコーヒーのグラスも特別製で、時間が経っても中身がキンキンに冷えてる状態を保てるようになっているらしい。何だろう、こういう些細なことで気温の導入を示唆しているような気がする。突っ込んで聞いてみたい気もするけど、先ずはジョンの件を済まさないとね。
「あれは開けた奴の装備で中身が変わる筈だ」
これはジョンに朗報だ。それに、王威シリーズが入手出来るダンジョンについても教えてもらう事が出来た。私達がランダムダンジョンで入ったあのダンジョンは、アイチ領の何処かに特定の時刻にだけ出現するものだそう。その話を聞いてサクラがそう言えば掲示板にあった、と言っていたので場所なんかは知られているようだ。ただゴブリンドの数が多く敬遠されているらしい。
直ぐにジョンにメールを送り、目の前のパフェを両脇に座るサクラ、ユイナとシェアしながら食べてみると、下の方がコーヒーと合わさってなかなか美味しい。今度もちに作ってあげよう。
お疲れ様会の意味で集まったけど、スラミは私の質問が終わってから、ずっと社長にスライムの事を聞き続けているし、トヤマさんとクイネさんは甘い雰囲気を出し始めている。ムラマサはヨーナから何やら聞き出そうとしているしで、結構自由な感じになってしまった。トヤマさん辺りはバトルの内容を振り返ったりするかと思ったけど、やっぱり恋は無敵らしいね。
「ユイナって、タヌキ以外にモンスターをテイムしてるの?」
「ジュカスネークが一匹です。今も服の中に居るんですよ」
修行の時以来接点が余りなかったユイナに話を振ってみると、ユイナの呼び声に答えたのか胸元から一匹のジュカスネークがひょっこり顔を出した。オロチという名が付けられたらこの子は、樹海の側で歌を歌っていた時にに近づいてきた子で、その際にテイムしたんだとか。この子は本当に正体を隠す気があるのか、益々心配になってくるね。
「普段からそこに居るんですの?」
「はい、ちょっとくすぐったいですけどね。出てくるのはログアウトする時位です。その時だけは、普段寝てばっかりな田子作と一緒に遊ぶんですよ」
そう楽しそうに言う姿は、モンスター同士の仲の良さも伺えるようだ。でも、普段隠れてるなら恥ずかしがり屋なのかな? そう思い指を近付けてみると、チロチロと舌で指を舐め始めた。人見知りとは違うみたいだね。くすぐったいけどその仕草はどこか可愛らしい。太郎もこんな事してくれるかな?
パフェも食べ終わり、ムラマサとヨーナの話も一区切り着いたと言うことで、甘い雰囲気を醸し出す二人は置いてあおいせ食堂国へ行くことになった。喫茶店を出たら転移の準備。準備と言っても、場所を何処にするか決めるだけなんだけどね。よし、天守の前の広場にしよう。ムラマサとユイナは初めてだから、どんなリアクションをするのか楽しみだ。
「正にファンタジーって感じ」
「夢みたいですねぇ」
楽しみにしていた二人のリアクションは良いものだと思う。だけどそれ以上に気になってしまう事がある。初めて見た二人は気付かないとしても、流石にサクラとヨーナ、そしてスラミは気付いている。
「鯱無くなってんじゃん」
そのヨーナの呟きに、ムラマサとユイナは何の事? と言った表情だけど、確かに昨日まであった鯱が二つとも無くなっている。どうせ犯人はあの子だろう、と縁側で横になっていたタツミに聞いてみると、やっぱり犯人はもちだった。
事の経緯はキングを召喚した事。その際にもちが変わりに防衛に行くと言いだしたらしく、保護者みたいな存在の先生も信じて送り出したまでは良かった。だけどやっぱりと言ったところか、実物を見たもちは先っぽだけ、と我慢できずに鯱を食べてしまったと言う訳だ。今はログハウスで、絶賛怒られ中らしい。
「どうしますの?」
「とりあえず、このままかな。気温の導入で腐ったりするようなら、全部食べちゃわなきゃいけないからね」
だから気温が導入されるまでは保留だ。どうせ運営のことだから、雪が降る頃にイベントを合わせて導入って感じにするだろうし、腐るにしてもまだ猶予はあると思うんだよね。
それなら味見! と、壁の生クリームを指ですくって舐め出すスラミを見てるとちょっと羨ましく思い、私も真似をしてみる。うん、美味しい。
皆は流石にまだ建物と思うと抵抗があるらしく、解体する時があれば手伝って貰うとして、今はタワーマンションの案内をする事に。移動しようとする際、タツミから偵察係がもう少し欲しいかも、という意見を貰ったから後で先生に伝えておこう。
広場からも見えていた近代的なタワーマンション。こんな所に住んでみたい! と興奮するムラマサは、スベガのホテルを参考にしたエントランスでも大興奮。早速ダーツで遊び始めた。
そんなに気に入ったなら好きな部屋をあげると言うと、大いに喜んで部屋を探しに行くムラマサに屋上テラスで待つと伝えて見送り、屋上テラスへ向かう皆とは最上階で別れ、一人マルンの居るであろう部屋へ向かう。タツミから部屋に居るだろうと聞いていたし、皆に紹介するにしても、全員で押し掛けるには迷惑かと思って迎えに行くことにしたのだ。
ドアの前でインターフォンを押してマルンを呼び出すと、入ってこいとの要求。何か用事でもあったのかなと入ってみると、ドアを開けて直ぐの広めの廊下にそっくりな顔をした三人が並んで立っているのが目に入った。
「テルン!」
「マルン!」
「チルン!」
「三人合わせて、手間賃頂戴!!」
そっとドアを開けて外へ出る。三つ子みたいな三人組にも吃驚だけど、なんで手間賃をあげなきゃいけないのか。不自由のない生活は出来るはずだけどなぁ。そんな風にドアの前でちょっぴり黄昏ている風にして佇んでいると、中から冗談だよと声が掛かった。
改めて中に入り二人を紹介して貰うと、テルンとチルンはそれぞれ第四大陸の雪山と火山に住んでいる精霊で、姉妹なんだそう。顔も体型もそっくりで、唯一の違いは髪色。テルンは空色でマルンは黒、チルンは赤。三人部屋を求めたのは三人で一緒に暮らすためらしい。
仲のいい三人を見ているとほっこりするけど、雪山と火山に住む精霊かぁ、嫌な予感しかしないよ。




