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80. 目には目を

 泉の水の採取も終わり、昼も近いので一度ログハウスに戻ってレンチを出してからログアウトする事に。破廉恥な格好から名前を付けてしまったけど、レンチと対面したマオがテイムされてやんの! みたいな大笑いしていたから、破廉恥キャラと言うよりいじられキャラみたいだ。何となくあの台詞を言いそうな雰囲気もあるし、ログインしたときにどうなっているかちょっと不安もある。お昼はのんびり食べてみよう。


 ログインしてリビングに下りたときに見たものは、マオとレンチがお揃いの黒いワンピースを着てヨーカンマッサージチェアで癒されているところ。ワンピースブームでも来ているのかな? なんて疑問もあるけど、レンチがぼそぼそといっそ殺せぇ、なんて言ってる所を見るとヨーカンの感触は大層気に入ったみたいだ。


 そんな二人を横目に先生に紅茶を入れてもらい、ログインしていた時に来ていたメールを確認してみる。差出人はお兄ちゃんで、スベガで面白い事が起きている。とだけ書かれていた。お兄ちゃんの事だし、コスプレ会場みたいになってるのかなぁなんて思っていたら、ログインしてきたサクラがスベガに怪盗が出たらしいと教えてくれた。


 お兄ちゃんが言っているのはこの事なのかな? 事の始まりは朝、トーナメント優勝者の装備を頂くという予告状が来たこと。最初はトーナメント出場者しか知らされていなかったけど、お昼頃になって闘技場周辺の屋台で買った商品が盗まれる事件が発生し始めたんだそう。それがきっかけで怪盗の事が広まっていったと言う訳だ。


 怪盗の名前はビリーザ、全身白ずくめのモンスターで闘技場周辺で目撃情報もあるそう。ちょっと面白そうだし、ヨーナの到着を待って行ってみようかな。


 到着したスベガは少し異様な感じだった。怪盗による混乱とかじゃなく、眼鏡を掛けた小さな男の子を連れているプレイヤー達が多い事がだ。迷子の保護でもしてるんだろうか?


「何か、直ぐにでも解決しそうだよな」

「そうですわね。私達は屋台でも回りません事?」


 その光景を見て、二人は怪盗を追うのは止めたみたい。やっぱりあの子達は探偵なのだろうか? どう見ても、将来ニートになりそうな子達が眼鏡を掛けた姿にしか見えないんだけど。なんかおでん食べたくなってきた。


 おでんを求めて闘技場周辺の屋台にさ迷い続けるも、一向におでんが見つからない。ハンバーガーやアイスクリームの有名チェーン店も魅力的で、普段ならいの一番に向かっていると思う。でも、今一番食べたいのはおでんなのだ。何も言わずに着いてきてくれている二人に感謝しつつ歩き続け、もう闘技場の周りを一周してしまうと言ったところで漸くおでんの屋台を見つけた。


「黒くないし、黒はんぺんもない……、あんまりだ」


 絶望した。パシャパシャとなるシャッター音を気にすることなく地面に手を着き、屋台に置かれたおでん鍋の出汁の色と白いあいつの存在に深く絶望した。確かにこのおでんも美味しいよ。でも、こんなにテイクアウトの店が多いんだからちょっと期待しゃったんだよ?


「やっと見つけ、ちょっとどうしたの? 大丈夫?」


 そんな私を心配する声に顔を上げれば、そこにはトヤマさんが立っていた。てっきりクイネさんに合流するんだと思っていたけど、こんな所にどうしたんだろう? 自分のことは後で良いと、何があったか促すトヤマさんに今の気持ちを伝える。すると呆れたように溜め息をつき、自分で作れば良いじゃないと、天啓のような台詞を口にした。


 私の件は解決したし、次はトヤマさんの番。近くのベンチに座り、だし粉の掛かった黒はんぺんのおでんを皆で食べながら話を聞いてみる。


 それはトヤマさんがログインしたときの事、丁度昼食から戻ってきたクイネさんとログハウスでばったり会ったそうだ。式典が面倒で逃げ出したと言うクイネさんの話に笑い合い、息抜きにイルカと泳がないかとトヤマさんが提案した。案外トヤマさんもそう言うの好きなんだねなんて言うと、少し顔を赤くしながらもそこまでは良かったと言葉のトーンを落としながらも話を続けだした。


 お互い水着に着替えフィンの居る水場へ向かうと、既に先客が水の上を漂っていた。その先客はマオとレンチ、勿論その格好はあの破廉恥水着で、それを見たクイネさんは顔を赤くして鼻の下を伸ばしていたんだそう。それを見たトヤマさんは、かっとなってその情けない横っ面をビンタ。直ぐに着替えログハウスに戻り、先生から私達の居場所を聞き出し探しに来たと、うん話の顛末は分かった。とりあえずクイネさんには謝っておこう。


『クイネさん、クイネさん』

『何だ?』

『ごめんなさい』

『……、そうだよな。男なら当然の反応だ。俺は悪くない』


 ちょっと腹が立った。クイネさんには顔面に生クリームたっぷりのパイを投げつけて、ウォーセのペロペロ刑は確定だ。


「トヤマさんは私達を探してどうするんですの?」

「水着には水着で対抗するのよ。あそこを攻略に行くわ」


 てっきりクイネさんにお仕置きでもするのかと思っていたら、何やら謎の対抗心を持ってしまったらしい。教師が危ない格好していいのかと思うけど、そこは恋は盲目。それに此処はゲームの世界だから野暮なことは言いっこなしだ。


 早速フクイ領のダンジョン、チキチキ発掘大作戦に転移。中は相変わらず男性プレイヤーで行列が出来ているけど、此処のダンジョンは未だにクリアされてはいない。だってクエストも来ているからね。


「このダンジョンをクリアすると、ゲームセンターEXが解禁されるんだって」

「とてつもなく難しいゲーセンだったら嫌だよな」


 そんなのだったら私が怒る。私でも楽しめそうなのが良いけど、どうせ此処と同じ様なアトラクションが増えるだけじゃないかな? もしかしたら、より肉体の強さが必要な物だったりするかもしれないけどね。


 どんなゲームセンターが解禁されるかの話題で盛り上がっていると、ギルド機能解禁のアナウンスが聞こえた。そのアナウンスは勿論全プレイヤーに聞こえていたみたいで、行列に並んでいたプレイヤーも一様にウィンドウと睨めっこした後、直ぐにこの場を立ち去っていった。


「良いタイミングだったわね。詳細を見るのは後回しにして、早くクリアしてしまいましょうか」


 張り切るトヤマさんに連れられ、扉を潜ってダンジョンと言う名のアトラクションへ入る。最初の迷路は以前書いた地図がそのまま使えたため楽に突破し、続くターザンロープも二度目という事もあり難なく突破。トヤマさんが心配だったけど何とかなったみたいだ。次に待ち受けるのは私が悶絶した場所。答えには気を付けないとね。


『チャレンジ! あなた達の箸が進まないものは?』

「パフェ!」


 前回と違い複数人で来たからか、質問のしかたが少し違っていた。私の即答に三人は不安そうだったけど、目の前のテーブルに現れた現物を見てその色がより濃くなったように見える。それは三メートルはある巨大なパフェ。このために確実に天井が高くなった。


『それでは頑張って下さい!』


 説明を端折るあたり、私がここまで来たことがあるって言うのは分かってるんだろう。


「これ無理だろ」

「大丈夫だよ。ピンチヒッター呼ぶから」


 そう言ってまずセリンに連絡を取りリンクする。そして召喚するのは勿論あの子。城まで食べ尽くしそうなもちだ。

 召喚されたもちは状況を分かってない筈なのに文字通りパフェに飛び付き、何故か持参していたスプーンで上から順にパフェを食べ始めた。


『状況は知らせておきましたよ』


 お酒にだらしないだけの精霊じゃなかった。このままもちに任せたままでも楽に終わると思うけど、それだけでは勿体ないので、セリンとのリンクも解除して皆で頂くことにする。


「美味しいですわね」

「出来れば普通のサイズで食べたかったわ」


 もちが凄い勢いで食べ進めていく中、のんびりと手の届く判定で食べていく。味はとても美味しく、ゲーム内のパフェで一番美味しいんじゃないかとさえ思える。掲示板をよく見るサクラも、この大食いゾーンが一番の鬼門になっていると教えてくれた。でも、ここを突破しても次で文字通り落とされてしまうんだそう。


 あっという間に三メートルの巨大なパフェを食べきったもちは、もっと食べたくなったと言い出したため、程々になんて注意しつつも後で補充しなきゃなぁ、と思いながらログハウスへ戻してあげた。きっと触発された人達でログハウスは大食い会場になっている事だろう。


 現れた扉を潜りまず思ったことは、目に入る壁のような傾斜の坂の事よりも、足元に感じる気持ち悪さだ。


「なんか、ヌメヌメする」

「ヌルヌルもするな」

「み、水着ので、出番ですわね!!」


 何かと水着に拘るサクラは放って置いといて、問題はこの壁のような坂だね。傾斜は八十度くらいはあるかな? さっきまでのサクラによると、坂に手を着いてしまうと床が抜けて戻ることが出来なくなってしまうらしいし、ご丁寧に空を飛ぶことも出来ないそうだ。おまけに転移で上に行くことも出来なさそうだから、ここはあの子の出番だろう。


『あぁ、羨ましいですのぉ』


 悲しそうな声を私の中で言わないで欲しい。羨ましいと言っているのは私の尻尾に捕まり、引きずられながら坂を登る四人の事だろう。こんな悲しそうに、切なそうに言うならちょっとくらいやってあげたくなるけど、そもそもルーナの力がないとこの坂は登れないかもだからね。非常に残念だけど諦めて貰おう。次はないと良いな。


「次で最後ね。気合い入れるわよ」


 登りきって見えた扉に貼られた、次で最後と書かれた張り紙。それに気合いを入れるトヤマさんに、頑張る理由を思い出し少し呆れてしまうけど、ここまで来たからにはクリアしたい。意を決して扉を潜ると、そこは無数のドアがある横に伸びた廊下。ドアとドアの間の壁には、どれかが正解とだけ書かれていた。


「運試しですわね。運営らしいですわ」


 この運試し、普通ならイラつくだろうけど私達には勝利の女神が居るからね。再びセリンとリンクして、フィナを召喚。状況が伝えられていた彼女に連れられて一つの扉を潜ると、そこは我らがログハウスのリビングだった。


 どういう事かと呆然としているとアナウンスが聞こえた。その内容はゲームセンターEXの解禁。共に現れたウィンドウにはその詳細。それを見る前にクリアした者へと言うタイトルのメールが届いていたので、先に其方を開いて確認してみる。そこには、冒険者ギルドで年齢確認を行った後水着を受け渡す、と書かれていた。


 それを見たトヤマさんにせっつかされ、転移でスールガの街へ送ってあげた。そして私達には本命だろう、ゲームセンターEXの詳細を見てみるとヨーナが率直な感想を告げた。


「名作RPGやゲームを体感しよう、か。ターン制のバトルをリアルでやって楽しいのか?」


 待ち時間とかが辛そうだよね。


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