77. やっぱり可愛い子は愛でたい
休日明けの平日の夜。こんな時間でも校舎内を歩く私は相当優等生じゃないか、なんてゲームの中じゃ格好は付かないけどね。
今居るのは精霊学園。何故此処に居るかと言えば、その理由は昨日ゲームセンターで遊んでいた時まで遡る。簡単に言えばリンクの件だ。
遊びながらも今後のことを考える大人なトヤマさんは、リンクの曖昧さが気になっていたんだそう。ちょっと意味が分からないので詳しく聞いてみると、精霊は所有物なのかと言うこと。
モンスターならテイム、ドラゴンなら称号と自分が親、または主人だと分かるようになっている。それが精霊だとどうだ。ただ漠然とリンクが出来ると言うだけだ。親密度が関係すると言われているものの、どのラインでリンク出来るのかも分からず、全ては精霊次第。ならば、私以外の人にもメイリル、ルーナとリンクすることが出来るんじゃないか、と言う訳だ。
メイリルに聞いてみれば、その答えは可能。ただし誰とでもと言う訳でもなく、最初にリンクした人の交友関係に左右されるみたいだけどね。実は親密度と言うパラメーターは精霊のみならず、プレイヤーやモンスターにもあるらしく、精霊はそのパラメーターで判断するそうだ。つまりテイムしたモンスターとの親密度次第では、モンスターと精霊のリンクも可能と言うこと。
ついでに、一人が同時にリンク出来る精霊は二人までと教えてもらえた。これは目の色が変わるから予想できていたけど、このゲームはたまに聞かないと分からない情報があるよね。その方がRPGらしいけど、ちょっと面倒に思うこともある。
つまり、元々親密度の高い私が精霊を集めておけば、私が親しくしている人達もリンク出来るようになると言うこと。そんな訳でこうして精霊学園にやってきたのだ。お供はメイリルとルーナ。この二人がおすすめの精霊の下に案内してくれると言う。
他の皆はそれぞれ別行動。殆どが神様と接触するために動いているけど、スラミだけは原初の澱みのテイムを目指して洞窟に籠もるそうだ。私が洞窟に転移で連れて行き、そこに転移マーカーを設置してたった一人で攻略に挑んでいる。先ずはゴッドテイム石を温存すると言っていたので、手伝おうかと聞いてみた。しかし、ひとりでこなす方が仲良くなれそうだと断られてしまった。きっと親密度の話がきっかけなんだろう。そして廊下を歩く私の後ろを、こっそりとカメラを構えながら歩く二人組はきっと知らない人。だから絶対振り向かないよ。
とりあえず精霊は三人位で十分だろう。そんな考えの基、最後のひとりとしてメイリルとルーナが白羽の矢を立てたのが、精霊学園の教師セリン。
彼女の力は召喚で、彼女とリンクすれば離れた場所に居るテイムしたモンスターを呼び寄せたり、戻したりする事が出来るようになる。モンスターが多い私にはぴったりだ。他にもアイテムボックスに入る物も召喚できる。アイテムポーチから取り出せないような大きな物まで出せるとあって、念動力を覚えたヨーナが大剣乱舞! と興奮していた事もあり、満場一致で彼女を向かい入れる事にしたのだ。
職員室へ入るとキラキラとした目が一斉に此方を捉える。一様についに来た! と浮き足立っているのが一目でわかる。そんな中、メイリルとルーナに連れられ真っ赤な髪色をした女性へと近寄る。すると、目立つ髪色の割に普段はほんわかした雰囲気を持っているだろうと感じるその顔が、嬉しさを表現するかのように、弧を描く口から涎を垂らすだらしない顔へと変貌を遂げた。
「あの、リンクしてもらえませんか?」
「あらあら、良いですよ。ふふっ、お酒が来たわぁ!!」
この人も残念な人だった。早く行こうとせがむセリンを宥めることも諦めログハウスへ転移。早速師匠の元へ駆け寄り酒をせがむ姿を見ると、本来のほんわかした雰囲気を感じることがどうか不安になってくる。
目的も達成したし、次の目的に移ろうか。そう思いログハウスが出て庭である草原を歩く。私に気付いたウォーセとしーちゃんが駆け寄りじゃれてくるのを構いながら先へと進み、たどり着くのは新しく拡張した場所。そこはスラミが放したスライム達が思い思いに過ごすスペースとなっていて、今はスライムの感触が気に入ったのか、クロとウォンがスライムの上を跳ね回っているのが見える。
それが楽しそうに見えたのかウォーセとしーちゃんもその中に加わりだし、スライム達も楽しそうにうにょうにょ伸び縮みしている。その内の一匹、スラミがお勧めしていた黄色い電気スライムを連れて水際へ移動。先ずは電気スライムの上に座って、水場で繰り広げられるスライムキャッチボールを見ながら感触を楽しむ。確かにちょっとした刺激が楽しいかも。
一瞬目的を忘れそうになるけど、この座り心地に負けないようにメニューからメモを開き、専用のペンを取り出して絵を書き始める。
これは構想だ。第一大陸での建国、その際に建築する城の完成予定図のね。絵はそんなにうまい方じゃないけど、パーツを決められれば問題ない。大きさはなるべく大きい方が良いかな? そんな風に夢中に書いていた所為か、後ろから来る人に気付かなかった。
「何書いてんだ?」
「わひゃぁぁぁ!? み、見た?」
突然掛けられた声に驚きつつも、この構想は見られるわけにはいかないから慌ててメニューを閉じる。私の確認の問い掛けにヨーナは見てないと答えたため、ひとまずは問題ないだろう。今度こそ皆を驚かせたいからね。呆れられるかもだけど。
「それで、どうしたの? 神様見つかった?」
「いや、神様はまだ。タケミカヅチを探してるんだけどなぁ」
目当てがあると難しいのかな。他の神様らしき人はたまに見つかるそうだけど、それらしい人はなかなか見当たらないみたい。そもそもどんな人なのか分かってるのかな?
「アマテラスに外見は聞いたんだよ。まぁ、今はそれは置いておこう。それより祭り村へ花火見に行かないか? サクラも誘ってさ」
「急にどうしたの?」
こんな時期に見る花火も良いかもだけど、ヨーナって自分から誘うほど花火好きだったっけ? 理由を聞いても、たまには良いだろと言うだけ。何かイベントでもあるのかな?
理由はどうあれ、反対する理由も無いので早速準備して祭り村へ行くことに。花火に浴衣は欠かせないよね。今回は前の木の葉の模様ではなく、柄のない淡い青色の浴衣。こんなのも良いよね。黒い浴衣を着たサクラが、頬に手を当て首を振っているのがよく分からないけどそんなに黒い浴衣が気に入ったのかな?
ヨーナも花柄の浴衣に髪を纏めて準備万端。玄関を出て一度祭り村の家に行くと、ヨーナの髪を纏めていた先生から聞いた通り縁側でミスノとタツミがのんびりとお酒を飲んでいた。流石に何度も酔い潰されるのは辛いという訳で、ミスノと共に此方に来たそう。先生から頼まれた肴の補充も終え、此処からでも見える花火だけじゃ満足出来ず、サクラとヨーナを連れて縁日へと足を進める。
「あっ! 見て見て、綿飴に変な味が出てる!」
「ふへへ」
綿飴の屋台で普通ではみないようなサイダー味という物を見つけ、思わず駆け出そうとすると後ろから変な声が聞こえた。足を止め振り向いて見ても、ヨーナが何でもないと綿飴を買ってくるように薦めて来たので、綿飴の誘惑もあり直ぐに買って食べてみる。その味はまさにサイダー。綿飴なのにシュワシュワする不思議な感覚だ。
人通りが少ないことをいいことに、綿飴をパクつきながら縁日を進んでいく中、サクラとヨーナが常に私の後ろを歩くのが妙に気になる。特にプレイヤーで混雑している訳でもないのに、どうしたんだろうか?
「あっ! ご当地焼きそばフェアだって! 行ってみ」
「ああ、もう無理ですわ! か、可愛すぎますわぁぁぁ!」
二人を気にすることも焼きそばには敵わず、振り向き二人を誘ってみれば突然の衝撃。サクラが抱きついてきた。綿飴危な、ちょっ、尻尾の付け根は触らないで!
「やっぱ無理だよなぁ。アオイ、頑張れよ」
その言葉を聞くと、何となく昔に戻ったような気がしてくる。どうしよう、とりあえずこんな時でもロールプレイを続けるのかって突っ込むべきかな?
「サクラは何で急に?」
抱きつかれたままサクラに聞いてみれば、ムラマサに触発されたんだとか。やっぱりあの時のか。そうすると、中学からの変化が気になるよ。
「あれは、ヨーナさんの言葉がきっかけですわ」
「ヨーナの?」
「あれだな、好きな子ほどいじめたいって話」
その話をサクラが聞き、思ったんだそう。いじめは駄目。だけどちょっと気になる。そうだ、いじろう。それが始まりで今まで来ていたそう。
「何でヨーナはその話しを振ったの?」
「あの頃お前って、可愛いって言われるの嫌がってただろ? だからそう言わないように誘導してた」
あの謎の反抗期の頃か。確かにそんな事言ってた気がする。それが今まで続いていたのか、なる程。
「皆、若かったんだね」
「そうだな。若気の至りだ」
そう言うことにして、サクラの事は諦めよう。サクラも成長してるんだし、ちゃんと限度は分かってるだろうからね。
「JKだもんね」
「どういう意味だ?」
「甘いですわね。女子高生と常考を掛けたんですわ」
解説されると恥ずかしい。




