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74. 恋は新たな始まり

 クイネさんとトヤマさんを高天原に送り、告白場面を覗き見する趣味も無いので直ぐに島へ戻って肉を焼き始める。ヨーナも二人の恋路が気になるのか、修行に専念出来ていないよう。今も頭に石が当たってたし。

 まぁ、気になるのも無理は無いんだけどね。最近のトヤマさん浮ついてたし、授業中も偶ににやついたりする時があるから、何も知らないクラスメイトは不審がってたからね。サクラなんて笑いを堪えすぎて怒られてたし。


 そんなゲームで生まれる恋話。何もあの二人だけでは無いらしい。


「ゴメンねヨーナ。あたしちょっとデートしてくるよ」


 そう言いだしたのは、ヨーナに修行だと言って石を投げてたムラマサ。何やらウィンドウを見ていたと思ったら、メールでも来ていたのかな?


「誰と?」


 思わず気になって聞いてみたら、少し勿体ぶった表情を見せた後、私達幼なじみにとって衝撃の答えが返ってきた。


「アオイの、お兄さん」


 驚きの余り肉を焦がしてしまった。呆然としている間に、ムラマサは自分のと思われるドラゴンを呼び寄せ、遊園地に行ってくると告げて飛び立っていった。ごめん、何言ってるか分かんない。


「あれか? あいつが告白して玉砕したのって、ムラマサの事だったのか?」

「未だにアプローチを続けてるって言ってたけど、まさかムラマサだったとは」


 サクラも意外だったのか、お嬢様口調が剥がれている。相談受けていた割に相手が誰か知らなかったんだね。


「アオイのお兄さんってどんな人?」


 何も知らないスラミは気になるみたいだけど、なんて言って良いのか分からないよね。とりあえず、真面目になろうとしている変わった人だと伝えておく。逆にそれが好奇心に火を付けてしまったみたいだけどね。


「なら、遊園地に行ってみよう! ふふっ、場所を言ったって事は見られても構わないって事なんだよ!」


 そんなスラミの言葉をきっかけに私達は行動を始める。キャンプ場はアマテラスが他のモンスターを呼んで使うからそのままで良いと言ったので、スペシャルアドバイザーを連れ戻し、いざチバ領の遊園地へ!


「別に俺を呼ばなくても良いだろうよ」

「なんか知ってそうだったから、つい」


 今まさに航海を始めようとしていたジョンを強制的に連れ出し、只今遊園地の入場ゲート前。入場料もアトラクションも無料な遊園地だけど、入場ゲートには唯一お金が掛かる事がお得になる物が売っているのだ。

 それが、フードコート一日無料券。フードコートの料理や飲み物は有料なんだけど、ここで無料券を買えば一日食べ放題の飲み放題だ。ふへへっ、満足するまで食べ尽くしてやろう。


「お前、目的変わってるだろ」

「そんなこと言ったって、スラミだってスライム目掛けて一直線だよ?」


 そう、言い出しっぺのスラミはいの一番に入場ゲートを潜り抜け、ゲート脇にある乗り物貸し出し所へ走り去っていった。この乗り物貸し出し所は広すぎる園内の移動を助ける様々な乗り物を貸してくれる所。ゴルフなんかで使うカートから、格好いいスポーツカー、バス。挙げ句の果てにスラミ大喜びのスライムまで。お客様のニーズに合わせる大変優しい場所なのだ。


「私は先に行ってるからね!」


 そう言って黄色いスライムに跨がって貸し出し所から出てきたスラミは、颯爽とポヨンポヨン跳ねながら広い敷地内を進んで行った。最早目的なんてスライムに押しつぶされた事だろう。あぁ、違うのか。スラミはこれが目的だったのかもしれない。


「で、俺達はどうするんだ?」

「先ずは話しを聞かせてくださいな」


 そこだよね。何でムラマサがお兄ちゃんとデートするまでに至ったのか。その謎を追求するためには、フードコートでパンケーキでも食べなくては始まらない。クレープでも可。フライドポテトも捨てがたい。


「お前、話しを聞く気あるか? あるなら先ずは涎を拭け」


 ジョンに見られたのは一生の不覚だ。






 近場のフードコートにて、クリームとフルーツがたっぷり乗ったワッフルを堪能しつつ、今し方聞いた話しを自分なりに理解しようと頑張ってみる。

 お兄ちゃんが振られた後もアタックし続けていたのはサクラからも聞いている。振られた理由は、実はお兄ちゃんの変態性がどうとかってよりは、ネットゲームで恋愛は無いわってな事だったらしい。そこから真面目を目指してアタックを続ける辺り、お兄ちゃんは変わっていると思う。そのアタックに私を利用したりしていたのもね。


「それで、アオイに対する食いつきが半端なかったと」

「ああ。そうあいつから聞いてる」


 もしかして、私と会ったからデートに踏み切ったんだろうか? うん。よく分からない。


「本人に聞いてみりゃあ良いじゃねーか」

「なら、運良くこの園内でばったり会ったら聞いて見ようぜ」


 それが良いかもしれない。正直、人事ではないからね。あの競技の時、頭を撫でられたのと関係あるかもしれないし、どうしても気になっちゃうからね。そうと決まれば、早く食べてしまおう。園内をグルッと回れば見つかるかな?






 偶然の再会は思ったよりも早く訪れた。それは高いところから見れば見つけやすいのではないかと、入場ゲートから反対側、園内端にあるコロコロ観覧車を目指していた時の事だ。ジョンの運転するワゴン車に揺られ、超速だとか、天まで届けなんて言う謳い文句が多い観覧車の中で、コロコロなんて可愛らしい名前の観覧車はどんな物なのか。

 そんな話しで盛り上がっていたら、ジョンが見つけたと言ってフードコートの近くで車を止めたのだ。車を降りてフードコートを見てみると、二人仲良くウィンドウを見てニヤニヤするムラマサとお兄ちゃん。仲むつまじい反面、その姿は少し近寄りがたい。


 その時ムラマサと目がばっちりと合い、その行動の素早さに抗う事など出来なかった。気付いた時にはワゴン車に乗せられ、サクラとヨーナが慌てて乗り込んだところでムラマサがワゴン車を発進させた。呆然とするジョンと、笑顔で見送るお兄ちゃんを残して。


 向かった先は、私達が目的地としていたコロコロ観覧車。見た目は普通の観覧車だけど、説明が書かれた看板を呼んでみると空中を回転して進む観覧車だという。普通だなんて思う私は、もう毒されているのかもしれない。

 乗り込む人達の列に並び、ニコニコと無言で私の手を握りその時を待つムラマサにちょっとした恐怖を覚えつつ、乗り込む際にサクラとヨーナも一緒な事に安堵した。


「何であたしが、急にセバスチャンとのデートなんて受けたのか気になってるんでしょ」

「アオイと関係あんのか?」


 観覧車が発進したことで、遂に口を開いたムラマサの問いかけに、ヨーナの返しを聞いてこくこくと頷きムラマサを見る。そして、観覧車の進むゆっくりとしたスピードを感じられる程の沈黙の後、ガバッとムラマサに前から抱き締められ、すごい勢いで頬に頬ずりされた。


「こんな妹が欲しかったのよね! たまんないよぉ、この見るからに溢れ出るアホっぽい可愛さ!」

「それディスってるの? 褒めてるの?」


 それになんで、サクラは激しく頷いてるの? 止めて、照れる。


「勿論、セバスチャンの魅力もあって受けてるからね、そこは勘違いしないでよ。後、サクラとヨーナ。あたしもあのログハウスに住んでも良い?」

「「どうぞどうぞ」」

「なんで私には聞かないの?」

「お姉ちゃんと呼んで!」


 最早話が噛み合ってないよ。まぁ、ログハウスに住むのは良いとしよう。でも、なんでこんなに急に言い出すのか気になるよ。デートは私に直に会ったことがきっかけだとするにしても、いきなりログハウスに住むって言うのはどういう事なんだろう?


「何時でも会いたいって理由が一番だけどね、他にも気になる情報があるんだ」


 ムラマサが気になっている情報。それはNPC、つまり社員たちがギルドについての噂話を始めていると言うことだ。その噂話は王都エードで聞くことが出来るものの、大々的に広める感じではなくムラマサが感じるに、ある程度の強さを持った者にだけ聞かせている節があるとか。推測では今回の体育祭も、第一大陸の存在もギルド戦を想定するようなものではないか、という事だ。


「騎獣戦で、ジョンとスラミが露骨なアピールしていたでしょ? あれも多分その関係だと思うね」


 それについては二人に聞いてみないと分からないけど、スラミについては確かに露骨だよね。いくら好きだと言っても、勝負を捨てるのはどうかと思うしね。サクラも思い返してみれば、組内の強者は反対していた様子は無く、羨ましがる素振りさえ見せていたそう。


「あたしとしても、アオイがギルド作るなら入りたいしね」

「少数精鋭が良いって事か?」

「……、そゆこと」


 間が空いたことがちょっと気になるけど、これはその噂話を聞いてみた方が良いかな。その話し次第では、ログハウスがギルドハウスにジョブチェンジしそうだ。


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