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72. 圧倒的な競争と炸裂する個人戦

 ジョンを学園に送り、ひとしきりウォーセと戯れた後に昼食のためログアウト。原担ぎに店でカツレツを堪能し、直ぐにログインして寮の部屋に行くとサクラとヨーナがソファーで寛いでいた。ヨーナが少しぐったりしているのが気になったけど、これは念動力取得に苦労したためらしい。


 サクラはヨーナの念動力取得に付き合い、昼休みが終わるまでになんとかゴッドテイム石をゲットするとこまでは行けたそう。これで二人とも四つ確保出来たって事だし、万が一の回避策にも余裕を持てるね。


「それより個人戦、どっちの組で太極図持ちが出るの?」

「あら、良くご存じですわね。黄組ですわよ」

「会場破壊すんなよ」


 ヨーナの一言は誰に向けたものなのか。大丈夫、運営もそんな柔な会場創るわけ無いもん。個人戦はあのスタジアム内で行うからね。そこら辺はきっちりやっているはず。そう思い中継をしているテレビに目を向ければ、丁度応援合戦の結果発表が行われるところだった。

 応援合戦は学園の精霊達の投票によって決まる。メイリルやルーナは赤組に入れると言っていたけど、結果は青組の勝利。三組とも応援団と言うだだ被りな演目じゃあ、やっぱり先手が有利だよね。信号機みたいな順番が仇になったのか、取りを務めた赤組は最下位。


 続いて画面が切り替わると、そこには障害物競争の出場者である二人が森へ続く門に寄りかかり、待機している場面だった。


「あれ、赤組はどうしたんだ?」

「ユイナが仕事で出れなくなっちゃってね」


 出場者は事前登録制で、代役を立てれない仕様だから不戦敗は仕方がない。でも、ユイナには申し訳ないけど、黄組代表であるトヤマさんがどんな動きをするのか気になってしまう。


「多分、秒殺で終わりますわよ」

「秒殺? 転移は出来ない筈でしょ?」


 サクラが言うってことはトヤマさんが何かするってことだよね。障害物競争は転移での移動は禁止されているし、もしかして空飛ぶ島で宝探しやった時に簡単に背後を取られた事と関係あるのかな?


 その答えは直ぐに分かった。競技が開始され、二人が同時に森へと入り込むと、明暗はくっきりと分かれた。トヤマさんが一瞬消えたと思ったら、次の瞬間には青組の代表である男の人が光となって消えていた。つまり死に戻り。確かに秒殺だ。


「トヤマさんは森に関する称号を持っているそうで、森林戦には滅法強いそうですわ」


 その称号のお陰で気配を感じる事も出来なかったんだろう。そんなトヤマさんは悠々とゴールである山の麓まで効果の無いマスを選びながら進んでいる。これなら個人戦の開始も早くなりそうだし、今の内にスタジアムのある体育館に向かおうかな。


「あれ? クイネさん、どうしたのこんな所で」

「よう。俺は待ち合わせだよ」


 サクラとヨーナに見送られ部屋を出たところで、ラウンジにあるバーカウンターにクイネさんが居るのを見つけた。話しを聞くと、此処でトヤマさんと合流して部屋でのんびり個人戦を観戦する予定らしい。お熱いことで。


「前から思ってたんだが、なんで俺をさん付けで呼ぶんだ? 別に呼び捨てで良いんだけど」

「前までならいざ知らずだけど、担任の旦那さんを呼び捨てはちょっとね」


 ちょっぴり赤くなってるクイネさんは放っといて、準備がてらログハウスによった後で体育館に向かうとしようか。勝利は確実にしないといけないからね。






 視線を感じながら体育館に着くと、扉の前に立つ精霊により直ぐに控え室に通された。転移するように入り込んだ控え室はソファーとテーブル、壁掛けのテレビが有るだけの簡素な部屋。両開きの扉は会場に続く物だろう。

 しかし、新フルアーマーアオイちゃんハイパーは流石に目立つね。そもそも剥き身の刀なんて学園で持ってる人なんて居ないもん。あと、どうでも良いけどこの名称は長いや。フルハイパーと略しておこう。モードも付けようかな。


 そんなどうでも良いことを考えつつ、一旦全てを解除して皆とボードゲームで時間を潰していると、障害物競争も終わり時間が経ったのか、漸く入場のアナウンスが来た。もう一度フルハイパーモードになり、扉の前に立てば自動で開いていく扉。徐々に開いていく扉の向こうからは歓声が漏れ聞こえてくる。

 そう言えば勝利数が二対二になった時の事は何も知らされていないなぁ、と負ける気も無いのにそんな事を考えながら扉を潜る。潜り抜ければそこは円形の石畳の舞台だ。


 三方から現れた各組の代表を見てみれば、青組と上に書かれた扉から出てきたのは、袴姿の女の人。口に咥えた煙管と、サイドテールの髪型が特徴的だ。黄組の扉から出てきたのは、どこか見覚えのある男の子。あ、思い出した。ゴーレムコロシアムで戦った小物臭い奴だ。あいつ太極図取ってたんだ。


「俺はこの時を待っていた! そこのお前! 少し派手になったからって、いい気になんなよ! 今こそあの時の雪辱を晴らす時だ!」


 格好付けるのは良いけど、それ間違ってるよ。青組のお姉さんも笑ってるし。それに気付かずふんぞり返ってるのは若さ故か。同い年位だけどね。そんな恥ずかしい事になっていても関係なく、会場にはルール説明のアナウンスが響きわたっている。

 ルールは簡単。場外負けなんて無い只のHPの削り合い。これでもし場外負けがあったら、私も負ける可能性も十分あった。後は二人がヤドリギ武器を持ってないことを祈るだけだね。


 取りを飾る競技に運営も気合いが入っているのか、開始のブザーの前に他の競技にないカウントダウンが始まった。十から始まるカウントダウン。その時間は私にとっては都合がいい物だ。左に持つ銀の刀に意識を向ける。カウントがゼロになり、競技が始まれば即座に放つ。そうすれば一人は倒したも同然だ。


 そして、響き渡る開始のブザー。直後に舞台上、誰もいない筈の場所を雷が襲う。


「はっはっはっ! これで終わりだ! やった、俺の勝ちだ!」


 雷が落ちた事により発生した煙が消え、両手を上げ一人喜ぶ黄組の男の子。その目には当然舞台に立つ私達は見えていない筈、それどころか会場響く戸惑いの声も聞こえていないだろう。青組のお姉さんも観客と同じ様に戸惑っているのも見て取れる。

 ムーンゴーレムの幻惑効果。理屈は分からないけど、使うとこんな風になるんだね。このまま無防備な男の子を倒せば、結構良いパフォーマンスになるんじゃないかな? 悪趣味な気がしてきた。


 いざトドメ! と行こうと思えば、お姉さんがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。武器もまだ出していないし、純粋にこの状況について聞きたいのかもしれない。


「これどゆこと?」

「幻惑、って、なんで頭撫でるんです?」

「気にしないで。あたしはムラマサ。よろしくね」


 競技中なのに頭を撫でて自己紹介を始めるあたり、この人は呑気な人なのかもしれない。私の周りってそんなんばっかなのかな? 何かされるのかって身構えた私がアホみたいだ。あ、やめて。耳はコチョコチョしないで。


 こうしている間にも、流石に何時までも終了が言い渡されない状況に、男の子も不審に思ってきているみたいだ。直ぐに倒しておこうとムラマサの手を振り払い、残念そうな顔は見ない振りをして男の子目掛けて勢い良く駆け出す。


「アオイ、クラッシュ!!」

「ぐはっ!?」


 走る勢いのまま繰り出された必殺のドロップキック。それは狙い通りに男の子の腹に突き刺さり、そのまま光へと変えていった。流石、太陽のドロップキックは半端ない。

 しかし、そんな必殺技が決まった余韻などに浸る暇なく、振り向きながら迫る刃を受け止める。


「意外に油断ない人ですね!」

「ふふーん。転移で逃げないあたり、付き合ってくれるんで、しょっ!!」


 そう言って縦に振るわれる斬撃を避けつつ、刀を振り受け止められる。お互い二刀流。まるで師匠と戦っているみたいだ。私は称号を取り立てに近い、二刀流初心者だけどね。


 打ち合いは経験の差で不利だと感じ、転移で小刻みに動き打ち込んでみる。だけどムラマサは背後からの攻撃にも刀を器用に動かし、視線を変えずに受け止めている。この人、恐らく【プロビデンスな目】を持ってる。しかも相当上手く使ってるね。列島観察に使う私とは大違いだ。

 大違いは戦闘技術もだろうね。ルーナの力で引き寄せ体勢を崩そうとするも、それすらも利用して攻撃しようとしてくる。太極図も何もなかったら負けてただろうね。


「やっぱりさ、お互いデカいので決めない? その方がきっと盛り上がるよ」


 そう言いながら距離を取り、二本の刀を揃えて下段に構えるムラマサ。その二本の刀には風が渦巻き稲妻が迸っている。

 パフォーマンスの意味でも良い提案だ。乗ってみようと、ゴーレムの刀を一本に纏めれるかやってみる。駄目か、太極図ではどうだろう? よし、出来た。やっぱり一本の方がしっくりくる。そうして出来た金と銀が混じり合った刀を中段に構え、炎と稲妻を纏わせる。炎の温度はもっと高く、太陽のように。そう思えば炎がうねり、プロミネンスの様に動き出す。


「格好いいね! さぁ、行くよっ!!」


 刀を振り上げ距離を詰めるのは一瞬。だけど振るう瞬間は遅く見えてしまう。振るうスピードは恐らくムラマサの方が上かもしれない。でも、お互い思うのは一つ。何かに当たればいい。これから放つのはそういう技だから。


 そして、刀同士がぶつかり合った瞬間。私の炎が風を、ムラマサを飲み込んで火柱を上げた。


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