71. 騎獣戦と今後のために
呆然とする私達とは違って、テレビの向こうで解説を求められている社長はクイネさんの自爆に大爆笑だ。自爆はロマンらしい。
「ただいまですわ」
「お帰り、速かったな」
それは試合の内容も含んでるよね。終わって即解散してきたのか、部屋に戻ってきたサクラの表情はヨーナの言葉もあってか複雑そうだ。
「やっぱり、太極図持ちは油断なりませんわね」
「なんで私見ながら言うんだし」
流石に私はあんな事はしないはずだ。地形くらいは変えると思うけどね。
「サクラが来たなら次は私か、行ってくるよ」
そう言って部屋を出て行くヨーナを見送り、メールにあった体育祭のプログラムを見直す。団体戦の後は騎獣戦。そのあとに応援合戦というのが午前のプログラム。この調子だと長い昼休憩になりそうだね。団体戦が始まったのが十時で競技時間は一時間となっていたからね。それが十分程で終わったんだ。多分騎獣戦はもっと早く終わる。
「赤組は騎獣戦に誰が出ますの?」
「ジョン」
「え? まさか、……」
まさか騎獣戦に獣で無い物が混ざるなんて誰も思わないよね。ジョンがどうしても出たいって言い出したから仕方ないんだけど、私としてもあれが戦闘しているところは見たことがないからちょっと楽しみなんだよね。
騎獣戦が始まるまで少し時間があるから、団体戦の事でもサクラに聞いてみようと、即死マスを利用したことについて聞いてみた。
「あれは、森での戦闘訓練中に偶然見つけたんですの」
メンバー選出を兼ねた訓練で、黄組のリーダーが即死マスを消せないかとハンマーで打ち砕いたところ、たまたま側にいたリンクしていない人が飛んできた石に当たり即死したことで発見したんだそう。なかなかパワフルなリーダーだね。
「そのリーダーが騎獣戦に出ますの。不安ですわ」
それは勝てるかどうかの不安ではなく、本人の強い希望で騎獣戦に参加する事を押し切った事にあるらしい。本当に勝つつもりがあるのかどうかが、どうしても不安になってしまうと言う。早い時期から打ち合わせを始めるリーダーがそんな事するかな? そんな事を思ってしまうけど、サクラは競技を見れば分かると言う。ちょっと楽しみになってきたね。おっと、ポテチを補充しなきゃ。
騎獣戦の開始一分前。騎獣戦の為の専用フィールドである、広大な石畳の舞台の上はかなり奇妙な構図となっていた。ヨーナの乗る美しいケツァルコアトルのアイズが一番普通に見えるという不思議。問題があるのは残りの二人が騎乗するモンスターだ。
ジョンが甲板に立つ超弩級戦艦型モンスターのヤマトンガーは、知っていた分驚きは無いけど場違い感が凄い。そもそも騎獣と言って良いかも謎だ。
もう一方は黄組のリーダー、サクラに聞いたところ名を、スラミが乗るプルプルでプニプニな姿が愛らしいスライム。どうやらスライムの愛好家らしい。その背中にはスライムラブ! と書かれた旗がはためいていた。
「これどんな戦いになるんだろう?」
騎獣戦と名ばかりな我が子自慢な会場に、ヨーナの微妙そうな表情がまた切ない。そんな当人たちの気持ちなんてつゆ知らず、開幕を告げるブザーにより幕を開けた騎獣戦。速攻で繰り出される強力なビームの砲撃を受け、スライムに乗るスラミが消え去った。
「やっぱり勝つ気はありませんでしたわね」
「うにょうにょ伸び縮みしてただけだもんね」
本当にただアピールしたかっただけみたい。でも、会場ではそんな事を気にすることなく戦闘は進む。ヨーナの乗るアイズも善戦しているものの、ヤマトのホーミングレーザーによりなかなか近付く事が出来ず、砲撃と魔法による撃ち合いになっている。膠着状態になるかと思いきや、ここでヤマトに動きがあった。
後方のカタパルトから何かが発進していったのだ。合計七機にも及ぶ最新鋭機と思しきその戦闘機は、高速で動きアイズを追尾、ガトリングとミサイルを使って動きを封じていく。そして動きを縫い止めたところで主砲による砲撃。超弩級戦艦らしい圧倒的な力で封殺してのけた。
「大和って戦闘機乗せてるんだね」
「あれは大和ではありませんわ。ただの規格外のモンスターですわよ」
モンスターって表現も的を得てるよね。真面目に騎獣戦しようとしていた青組がちょっと可哀想だ。
「次は応援合戦ですわね。赤組は何をやるんですの?」
「応援団だよ。ベタだけどね」
「あら、うちの組もですわ」
これはだだ被りの予感。
案の定、三組とも演目が応援団という被りを見せた応援合戦。同じ様な演目を三連続で見るのも辛いので、戻ってきたヨーナを連れて文化祭を巡ることに。応援合戦は一番手の青組が有利かもしれない。
「昨日と内容が変わっている所もあるんだな」
「そうですわね。グラウンドが丸々縁日になっているそうですわ」
ラウンジで貰ったパンフレットを見ながらどこに行くか話し合うと、昨日は野外ステージとなっていたグラウンドが縁日になっていることを知り、ひとまずそこを目指すことに。
「騎獣戦どうだった?」
「ファンタジーが現代ファンタジーに負けた瞬間だな」
何処か他人事なヨーナは、負けたことも特に気にしていないらしい。むしろ、もっと変わった騎獣を持っとけば良かったと後悔しているそう。ヨーナならサーフボードを騎獣と言い張って乗りこなしそうだけどね。そんなモンスターが居ないことを祈ろう。居ないよね?
そんな競技の感想を聞きながら寮から校舎を周り、校舎寮側にあるグラウンドへ。そこで開催されている縁日は、九十九折りのようにジグザクと屋台を構えながらグラウンド全体に広がっていた。ゲームの屋台も食べ物屋も乱雑に並び、注文を待ちながらゲームを楽しむ。そんな事も出来そうだ。
「あっ! テイム石すくい発見。ゴッドもあるよ! よかったぁ、やっと補充が出来る」
「補充って、後一個あったよな? それじゃ足りないのか?」
「アマ、そ、そう! 足りないの!」
「怪しいですわね」
危ない、危うく喋ってしまうとこだった。お祭り感覚で気が緩んでいるのかもしれない。個人戦で新フルアーマーアオイちゃんハイパーを披露したいからね、それまではアマテラスの事は黙っておかないと。例えたこ焼きの屋台で摘まみ食いしているアマテラスを見つけてしまっても、絶対反応しては行けない。何してんのさ、精霊の女の子も困ってるじゃん。お金渡すのは良いことだけどさ。
「どうした? やらないのか?」
「な、何でもないよ! よ、よーし三つとも取っちゃうぞ!」
駄目だ、ちゃんとこっちに集中しよう。祭り村のテイム石すくいだと、ゴッドテイム石をゲット出来るのは一人一回までみたいで、次に行ったときは無かったんだよね。視界の隅にちらつくアマテラスの姿が気になり過ぎるし、早くすくって他の所へ行かないと。
「はいゲット! 早く行こ!」
「どうしたんだ?」
「会いたくない女性が居るんですのよね」
「アマテラス見えてるの!?」
足早に立ち去ろうとした際、サクラの一言にギョッとして思わず言ってしまった時には遅かった。振り向き見たサクラは、ルーナの事ではありませんの? なんて言いながらしたり顔。まんまと嵌められた。こんな事になるなら、新しい住人だとルーナの事を紹介しなければ良かった!
「さぁ、部屋に戻ってキリキリ吐いてくださいまし」
「おう、何だかわかんねーけどな」
両腕を二人に掴まれ、ドナドナと寮の部屋まで連行され全てを話すことに。これで転移なんかで逃げたら不幸な事になるはずだ。うぅ、ビックリサプライズの計画が……。
「成る程な。ラスボスと戦うのに必要なんて意味深だな」
洗いざらい喋るとヨーナもサクラも思案顔。ラスボスを倒すのに必要なんて聞かされたら、色々考えたくもなるよね。多分アマテラスが言っているのは、この第四大陸のラスボスとは違うだろうし。
「そうですわね、アオイさん。体育祭が終わったら此処のラスボス倒しておいてくださる?」
「え?」
「それで良いかもな。私もこの大陸の戦闘面倒臭くなってきたところだし」
サクラとヨーナが言うには、今の内なら好きな神様をテイム出来るのではないか。なら急ごう。でも、大陸のラスボスを倒すとこの大陸の騒動はどうなるのか。それが気になるから倒しておけと。そういう事らしい。
二人はこれからテイム石すくいでゴッドテイム石を取りつつ、特殊な視界について調べるんだそう。サクラは兎も角、ヨーナはゴッドテイム石どうやってすくうんだろう?
サクラとヨーナが部屋から出て行った後、ユイナからメールが届いた。ログハウスに来てほしい、ジョンも連れてきてほしいと書かれたそのメールから察するに、仕事の関係で何かあったのだろう。大陸の先端、船の発着場辺りでヤマトの見学会を行っていたジョンを回収してログハウスへ転移すると、案の定ユイナが大泣きしていた。
落ち着かせながら話しを聞いてみると、夜からの予定だった仕事が昼からに前倒しになったらしい。そのため競技には出れそうにないと言う。
「気にすんな! もう二勝してるからな。後一勝は確実なんだから、一つくらい不戦敗になったところで痛くもねーよ」
「そうだよ。後は私が勝つだけで良いんだし、ユイナは笑顔で仕事してきなよ」
そう言いながらユイナをヨーカンの上に乗せると、いい感じでとろけてきた。この調子ならリラックスした感じで送り出せるだろうし、ユイナの為にも気合いを入れないとね。私が負けでもしたら余計に気にしそうだし。
「個人戦でのチート対決は見物じゃのう」
少し元気になったユイナを送り出すと、のんびりぬーちゃんを撫でていたタツノが予想外な事をぶっ込んできた。他の組にも太極図持ちが居たの!?