67. 修行と準備
ログハウスに新たな住人が加わることは、メールにてヨーナ達三人に了承を貰った。今夜は歓迎会でバーベキューだ! とヨーナは食材集めに向かうらしい。多分真っ先に行くのは月だろう。玄関からツキミヤに飛べるし、骨付きマンモス肉焼きの味にはヨーナが一番気に入っていたしね。油が多めなためトヤマさんは少し苦手だったみたいだけど。
クイネさんもモンスター達へのユイナの紹介が一通り終わったところで到着。店を閉めてきたらしいからその気合いは相当なんだろう。何故かと言えば、優勝したらトヤマさんと付き合うらしい。
「何その急展開」
「いや、昨日飲んでたらその話しになった。正直なんでその話しになったかは憶えていない」
どんだけ飲んだんだ。最近は師匠がクイネさんの店にお酒を卸すようになったからか、彼処も飲み屋として人気になってるみたいだし、変に盛り上がったりでもしたんだろう。
ちょっぴりユイナが置いてけぼりになってしまってるので、そのあたりも説明した後この後の予定とチートについての説明をしていこうと思う。
「皆がチートって言ってる太極図はね、三つの条件を達成すると使えるようになるの」
一つはクイネさんも満たしている、森での四時間の瞑想の後に現れるタヌキをテイムすることだ。称号を得る為のオマケみたいなものだけど、私は案外こっちが本命だと思っている。
二つ目と三つ目はどちらも称号。【魔戦の極み】は戦闘を繰り返せばいいんだけど、これがどれだけ早く取得できるかが今回の鍵になってくるはずだ。もう一つの【対極を知る者】はPvPが出来れば何とでもなるからね。
「では、私は先ず瞑想からですね」
「俺は戦闘を繰り返すわけか」
「うん、そんな感じ」
場所についてもぴったりの場所があるし、早速行って修行開始といこうか。ユイナは今日一日オフだって言うし、進めるところまで進めておきたいからね。
空飛ぶ島の一角、キャンプ場から中心を挟んで反対側辺りの森で、ユイナの瞑想とクイネさんの戦闘修行を開始させた。ここの森ならモンスターなんて出ないし、瞑想するならぴったりの場所だ。イベント時はクイネさんもやったことだしね。それに此処ならPvPの設定が出来る。つまり……。
「これはただの虐めだろぉぉぉっ!?」
「どうしたっ!! 逃げてるだけでは何も得られんぞっ!!」
タツノ、師匠、マオ、フィナの家の最大戦力四天王に相手をして貰っている。これならそこいらのボス戦より濃密な戦闘経験が積めるし、ユイナの瞑想が終わった後にハニワンダー道場にでも行けば戦闘回数も稼げるし、称号取得は近くなるはずだ。ただ師匠が凄く張り切ってるのがちょっと不安。
そんな訳からかユイナが瞑想しながら涙を流しているけど、それは止めてね。なんか私が皆を虐めてるみたいに感じちゃうから。大丈夫、モンスターの皆も多分手加減してるから。ユイナの時はもっとちゃんと言っとくから。
そんな二人の修行をヨーカンに座りクロを撫でながら見守っていると、ある人から返事のメールがきた。連れてってくれとの内容で、ある人とはジョンの事だ。このまま順調に行けばチートプレイヤーが三人も所属するかもなチームだし、相談した方が良いだろうとメールしておいたのだ。
「うおっ!? やっぱ、結構びっくりするよな。おー、やってるやってる。ははっ! スゲーなあれ」
ジョンを私の側に転移させると、急に変わる視界に驚いたようだ。それでも直ぐに状況を理解したのか、クイネさんの地獄の戦闘を観戦して笑い出したあたり相当図太い人なんだろう。
「ジョンもやる?」
「やんねーよ。俺はこのままで良い」
残念。引き入れられれば体育祭で全勝を目指すのも楽になるのに。
「それで、間に合うのか?」
「どうだろね? クイネさんはまだ可能性が高いけど、ユイナは色々忙しいから」
アイドルとは言わない方向で行くけど、お面を付け忘れているユイナを見れば流石に気付いたみたい。ジョンは男気ありそうな人だし、言い触らしたりなんかはしないだろうから、その点は安心だ。
ユイナの瞑想が終わるまでは事も動かないので、とりあえず二人ともチートプレイヤーになったと言う前提で、競技について話し合うことにした。
「お前から見て厄介な競技はどれだと思う?」
「私以外の人が見ても、やっぱり森を使う競技が厄介だね」
つまり、団体戦バトルロイヤルと障害物競争だ。この二つは第四大陸の森が会場となり、運営からも精霊の縄張り、マスの効果を無くすことは無いと明言されているし、モンスターの配置も通常通り。おまけに精霊眠りのお香も、モンスター除けのお札も持ち込み不可だという。ただ単に勝負に集中すれば良いって訳ではないのだ。
ジョンは学園に行って寮に入っているだけで、森への探索には行ってないそうで、どれだけ厄介なのか今一掴めていないらしい。一度体験してみた方が良いかもしれないね。団体戦ならジョンも出るかもしれないし。
「くっそ! どんだけ堅いんだよこいつ!?」
「即死マスに吹っ飛ばすか、吹っ飛ばして追撃するかだよ!」
「その前にマスがわかんねーよ!?」
マスが見えないジョンはどうにか吹き飛ばす事は上手くいくものの、追撃する際に自分から状態異常マスに突っ込むという、自分の思うように上手く戦闘出来ていないようだった。
状態異常無効のアクセサリーも持っていないらしく、私は専ら回復役。クロを撫でながらジョンが今のままでウルフを倒せるか見ていたわけだけど、マスの外に出してしまえば一撃で倒せる程なので、攻撃力に関しては相当高いのかもしれない。ウルフが弱いだけかもしれないけどね。
一度空飛ぶ島に戻って今の戦闘について話してみると、マスの視認と状態異常対策が急務と言うことになった。ジョンは一度子分達と合流して、祭り村へ状態異常無効アクセサリーゲットの為サバゲーに挑むことに。私はその間に【プロビデンスな目】以外の方法でマスが見えるようになるか調べることにした。
「【精霊馴染み】と言う称号がありますよ」
精霊のことは精霊に、そんな訳でログハウスのテーブルでせっせとお好み焼き作りに励んでいたメイリルに聞いてみると、そんな称号について聞くことが出来た。この称号ならマスを見ることが出来るようになるみたいだけど、取得条件がリンク状態での累計戦闘時間だそうで、その時間は四十八時間。つまり二日分ってわけだ。
これはなんとも言えないね。二日間丸々戦闘しているのは無理だし、一日四時間やっても十二日掛かる。そんなペースじゃ、十日後の体育祭には到底間に合わない。
クイネさんはまだ時間がありそうだし何とかなるかもしれないけど、ユイナだと【プロビデンスな目】の取得を目指した方が良いかもしれない。問題はそう上手く見つけられるかだよね。精霊だってそう簡単に仲良くなれるか分からないんだけど。
とりあえずクイネさんには修行と平行して男性の精霊と仲良くなってもらうとしよう。女性だとトヤマさんが複雑かもしれないし。ユイナは瞑想が終わり次第、神速通の取得を目指してもらわないとね。【魔戦の極み】に必要なのは当然だけど、種族的なやつが仙人にでもなれば千里眼が使えるようになる。あれがあれば【プロビデンスな目】の取得も目指せるだろうからね。
赤組のチームメンバーの中に対策が済んでる人が居れば良いんだけど、これはジョンに言って一度集まる時間を作った方が良いんだろうね。
森での戦闘訓練も必要だろうけど、それは体育の日の前の土日で済ませれば良いだろうし。あ、応援合戦もあるんだよね? あれはどうするつもりなんだろう?