66. 泣き虫アイドル
待ちに待った土曜日。平日は部活もあったりでログインなんてできるわけがない、なんて事はない。夜はログインできるわけだけど、暗い中で探索をするより、ただテレビに向かってゲームするか、室内運動場で遊ぶくらいになっちゃうんだよね。私なら視界はどうにでもなるけど、時間感覚が狂いそうであんまりやりたくないんだよ。
そんなルンルン気分で階段を下りてリビングに向かってみれば、草原側の窓から中を覗く大きな顔と目があった。
「え? 何これ?」
「ケツァルコアトル」
そんな簡潔に答えてくれたのは、珍しく私より先にログインしていたヨーナ。話を聞いてみれば、精霊に教えて貰ったフルーツを毎晩食べさせていたら成長したんだそう。急成長どころじゃないよ。昨日私がのんびり映画を見ている間にこんな風になったらしい。
外に出てどんな外見か見てみると、蛇のような体に鳥のような翼。全体的に色彩も含めて美しく、顔も精悍で格好いい。尻尾にじゃれつくのはドラゴンならではだからだろうか? ジーヌが普通なのがおかしいのかな?
「格好いいのは嬉しいけどなぁ」
何時の間にか外に出て来たヨーナが私の隣に立ち、アイズを見ながら残念そうに呟いた。ヨーナはドラゴンに乗って戦いたがっていたから、思っていたのと違うドラゴンなのが残念なんだろう。
「乗れないこともないんだし、やってみれば良いんじゃない?」
「私が攻撃するより、尻尾を振った方が速いんだぜ?」
試していたらしい。アイズはなかなか好戦的な子らしく、敵を見つけると真っ先に攻撃してしまうんだとか。しかも、風や水を操る魔法も得意で、モンスターに近付く前に倒すことも多いんだとか。
「そう言えばサクラは?」
「早速打ち合わせだとさ。随分やる気満々のチームリーダーみたいだぜ」
何時もなら私達より先にログインしているサクラだけど、今日はリビングにも姿が無かったのでヨーナに聞いてみる。その答えはログイン時に来ていた運営からのメールによるものだった。
届いたメールの内容は現時点での組み分け結果と競技内容。そしてそれぞれのチームリーダーの発表だ。体育祭までまだ一週間以上あるし、まだまだ参加者が増えるだろうに、今から打ち合わせを始めるなんてヨーナの言うとおり、相当やる気に満ちた人なんだろう。
「ヨーナは何組だった? 私は赤組」
「青組。サクラは黄組だとさ」
見事にばらけてしまった。チーム分けは赤、青、黄と三組。私達の内一人は勝利チームに入れる感じだね。報酬は皆にメリットがあるやつだったら良いかな。
「お前一人で大丈夫か? 暴走したりしないか?」
「言い方酷くない? 私だって限度くらい知ってるよ」
決して、同じチームメンバーごと潰したりはしないもん。そもそも、その競技に出るとは限らないしね。ヨーナがそう言うのも、発表された競技内容に問題があるからだろう。
競技数は五種目で、一つは個人戦バトルロイヤル。ルールは簡単、チームごとに選出した一人が一人になるまで戦い合うバトルロイヤルだ。
二つ目は団体戦バトルロイヤル。こちらは五人を選出して探索フィールドである森で行われる、その名の通り団体戦で、ルールは個人戦と同じバトルロイヤル。
三つ目は障害物競争。これも団体戦と同じく森で行われる物で、チームの代表者一名で誰が先に設定されたゴールに辿り着けるかのレース勝負だ。
四つ目は騎獣戦。その名の通りモンスターに騎乗して行われる物で、特別フィールドにて選出された一名によりバトルロイヤルを行うもの。
最後の五つ目は応援合戦。人数の制限は無く、特別フィールドで自チームを応援する演目を行うと言うもの。体育祭と言うより、運動会みたいだよね。
この五つの競技で勝敗を競う訳だけど、肝心なのは一人一競技しか出られないと言う点だ。ヨーナが心配しているのは、団体戦なんかで自分以外を全滅させるんじゃないかって事だね。……、私そんなキャラじゃないよ?
そんな訳もあって、サクラのチームでは今の段階から選出メンバーの厳選を始めていくんだろう。実は、私の所属する赤組のチームリーダーも張り切ってはいるんだけどね。
赤組のチームリーダーはなんとジョンだ。これを見てちょっと安心したのと、名前被りで実は違う人何じゃ? と不安にもなった。本人に確認したら合っていたんだけどね。その際に期待してると言われたと同時に、私をどこに入れれば良いんだ、と頭を悩ませているらしい。
「最初の戦いは情報収集だな」
「私は魔王か悪魔かって話だよ」
他のチームが気になっているのは私がどのチームに居るのか、どの競技に出るのかといったところだろう。皆無駄に戦力は出したくないだろうしね。
「ヨーナのところは打ち合わせしないの?」
「チームメンバーが出揃ってからだとさ。それまでは実力を上げていろってお達しだ」
メンバー選出の勝負事でもする気かな? 実力を知るならそれしかないだろうし、今頃サクラのチームもどこかで力を見せ合っているのかもしれない。
いい加減私の尻尾にじゃれつかれる感覚もきつくなってきたので、ログハウスに戻ることにした。すると扉を開けようとした時、後ろから大きな声が響き渡った。
「あの! すみません!」
振り向いて見ると、門のところに狐のお面を付けてクノイチのような格好をした女の人が立っていた。すると私達が振り向き、視線を向けたのに気付いたのか、いきなり土下座をして予想だにしなかった言葉を叫びだした。
「私を弟子にしてください!!」
後は若い人達に任せるぜ、なんて逃げ去るヨーナを恨みながら、そのままでは可哀想なのでログハウスに案内し、先生に紅茶を入れてもらいながら先ずは自己紹介。それからどういう事か聞くことにした。まず驚いたのは、この人はアイドルのユイナだと言うことだ。
ライブの為にアバターを作ったのが切欠で、今も続けているんだそう。名前はフレンドにならない限り分かんない仕様だけど、顔までは隠せない。そんな訳で狐のお面をして顔を隠していると言う訳だ。
お面を外してもらえば、そこにはテレビなんかでも見知った顔。どこか大人びた顔立ちの美人さんで、この人が私達と同い年とは到底思えない。
「最初は別の仮面を使ってたんです。でも、あの光景を見てからあなたのようになりたいって思って」
そうユイナさんが語る光景とは、あのイベントの時の事だ。あの時スケルトン達を一掃して出来た光が溢れる幻想的な光景。あれに涙を流すほど心打たれてしまったらしい。
まぁ、ある意味太極図は忙しいアイドルにはぴったりではあるよね。これがあれば忙しくても色んな所を回れるようになるだろうし、体育祭も控えている中、下手にチートになるのを手伝って優勝が潰える可能性を増やすはなぁ。
「アオイさんは何組ですか?」
「呼び捨てでいいですよ。私は赤組」
「私も呼び捨てでいいですし、敬語も入りません。後、私も赤組です」
密かに退路が潰されていた。抽選何だから偶然なんだろうけど、そうした強かさがアイドル界で生き残るスキル何だろうか?
此処まで来ると教えるしかないかな。でも、今回ばっかり良いとしても今後はどうなるか分からないし、打てる手は打っておこう。
「このログハウスに住むっていう条件を飲むなら、教えてあげる」
「本当ですか! 住みます! あぁ、ありがとうございます! うぅ」
「そこで泣くの!?」
これで同じ釜の飯を食べれば敵対しようなんて思わないはずだ。そんな下心なんて知ってか知らずか、素直に喜んで泣き出すあたり、テレビなんかで紹介されていたとおりに相当涙もろいらしい。今後の修行が不安になってくるよ。
でも、これで体育祭までにユイナが太極図を得られれば優勝の可能性が各段に高まる。気合い入れていかないと!
その後、泣きやむまで紅茶を飲みながら待っていると、クイネさんからメールが届いた。内容は簡潔に《俺、赤組。もし同じだったらチートガチで教えて》というもの。
これもう優勝確定じゃない?




