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61. 海に挑む男達

 今朝、何気なくカレンダーを見てふと思った。何で今年はシルバーウィークでは無いのか。何故ただの三連休なのか。シルバーウィークは毎年あるもんだと思い込んでいた私は何だったのか。


「離れた休みが繋がると思ってた」

「そんな都合良くはいかねーよ」


 土曜はマンモス肉試食会を開き大いに盛り上がり、その味に満足してのんびり過ごした。日曜はハニワンダー道場でマオと共に魔王降臨ごっこをして楽しんだ。

 なのにそんなのんびりしたり、はしゃいだりして過ごすのも後一日。そんな心のもやもやを打ち明けるとヨーナから無慈悲な言葉が突き刺さった。サクラは連休最終日は祭りじゃー! と、元気に駆けだしていったし闘技場にでも行ったのかな?


「ヨーナはどうするの?」

「そうだなぁ、今度の土曜日には新しい大陸が追加されるって言うし、他の大陸で狩りでもするか。運転手にタツノ貸してくれ」


 そう言うと、そのままタツノを連れてログハウスを出て行くヨーナ。狩りに行く理由はよく分からないけどね。多分タツノはもふもふ観察をしてくるんだろうなぁ。もっともふもふ増やした方が良いかな? 私としてはフクロウが欲しいけどね。


 さて、私も行動しようか。神職関係の称号については、普段一人暮らしをしているお兄ちゃんが連休と言うことで一時的に帰って来た際に聞き出した。取得方法は探索して見つけた街の神殿でお祈りするってだけ。比較的誰でも取れるような物だそうだし、私が持っていても変じゃないだろう。ここまで簡単だと、何か運営が仕掛けて来そうだけどね。


 そんな訳で第三大陸には特に行く用事も無くなったし、今度はジーヌを連れてハニワンダー道場でも行くとしようか。昨日はマオが初陣は一人が良いと言っていたのを足役としてついて行っただけだからね。午後からはお兄ちゃんに連絡を頼んで、ジョンに島を見せて貰う約束を取り付けたし、それまで狩りまくるとしようか。


 一時間程ハニワンダーを狩り続けると、ジーヌの動きが驚くほど淀みないものに変貌した。その動きはまさに風のようで、両手に一本づつ持った柳葉刀を体の捻りも交えて振るい、駆け抜けながら縦横無尽に動き回り倒して回っている。

 今のジーヌと戦うなら、何とかして足を止めさせないと打ち合うことすら難しいと思う。タイプは違うけど、同じくスピードタイプの師匠と戦ったらどんな風になるかな? どこかでそんな機会があれば見てみたいな。


 私も負けてられないや。魔法戦士みたいな戦い方でもやってみようかな。基本の攻撃は刀がメイン。崩しながら隙を見て魔法を放つ。敵が弱いから有効なのか分からないけど、放つ魔法を工夫しないと中途半端みたいな感じだよね。

 足を止めさせるような魔法を組み合わせたり、刀での攻撃を時間稼ぎにチャージを盛り込み強力な魔法を放つ。太極図なら簡単に一掃出来るけど、それだとつまんないからね。どうせ何でも出来るようなら色んな事を試してみたい。次は炎を刀の形にして振るってみようかな。


 昼まで存分に戦いきったものの、称号一つも取れない有り様。極めちゃってる所為なのかな。やっぱり採取にも力を入れなきゃ駄目なのか。今は困ることも無いから後回しとして、今は昼食後の楽しみである海を自由に動く島だ。

 待ち合わせ場所はヤーイズの街。ヨーナは余り興味が無いのか、タツノとドライブを続けるみたいだけど、サクラは変な生物が居るんじゃないかと興奮気味。流石にそれは無いと思うんだけど。


「おっす! 待たせたな」


 お茶屋で団子を食べながら一服していると、サーフパンツにアロハシャツ、バンダナと変わらない格好でやってきたジョン。初対面でもお構いないのか、早く行こうと興奮さめやらぬサクラを押さえていると、何やら行く前に頼み事が有るんだそう。


「あるモンスターをテイムして欲しいんだ」


 話は現場に着いてからと、皆でその現場であるヒロシマ領へ。何の変哲もない草原を指定されて着いたとき、辺りを見渡せば遠くの方に何やらこの場に不釣り合いの異様な物体を見ることが出来た。


「あれは、噂のヤマトンガーですの?」

「ああ。あれをテイムして欲しい」


 二人は何か知っている風だけど、私は何のことか分からないので説明してもらうと、フィールドボス最強と呼ばれるほどの浮沈艦らしい。

 艦と言うこと、ヤマトと名が付くことから分かるように見た目は戦艦大和そのもの。違うのは空を飛んでいることと、砲門からビームを放つこと。

 そして、テイムするに当たって一番厄介なのが機銃から放たれるホーミングレーザー。この所為で近付くことも出来ず、ゴッドテイム石を当てることさえ不可能なんだとか。


「テイムポイントは分かってないの?」

「甲板に有るらしいが、近付けなきゃ意味ねーよ」


 ふむ。確かにそれなら私が転移してしまった方が早いね。ホーミングレーザーも透けるようにすれば当たらないし。でも、そんなやり方でしかテイム出来ないモンスターを配置するかな?


「どうせならジョンでもテイム出来るか試して見ようよ」

「そんな方法有りますの?」


 我に秘策あり! まぁ、大したことじゃ無いんだけどさ。運営はしょうもない事が好きそうだし。案外簡単に行けるようにしてる気がするんだよね。


「そんな訳で、はい」

「なんだこりゃ?」

「芋、ですの?」

「大和芋」

「「……」」


 そんな呆れたような視線は無視します。案外何とかなるかもしれないじゃん。






「「そんな馬鹿な」」


 何とかなってしまった。大和芋を手に持ちヤマトンガーに近付く私達は攻撃されることもなく、空を飛べないと言うジョンさんを浮かばせながら、無事に甲板に到着。あっさりとテイム出来てしまった。


「これ誰かに言ったって信じられねーよ」

「琵琶湖と似たようなパターンですわね」


 運営のしょうもなさに呆れながらも甲板の上を探索してみるけど、どうにも船内に入る入り口が見当たらない。扉ぐらい普通はあると思うんだけど、モンスターだからかな?


 探索を切り上げ、海を進めるか気になっているジョンは早速、ヤマトと名付けた戦艦に海に行くように命じる。空を飛ぶ戦艦からの景色もよく、甲板から感じる風も良いものだけど、待ってられないのでヤーイズ近くの海まで転移。ジョンはガッカリしていたけど私は早く島に行きたいのです。


 無事、海上を進めることを確認したら島の有る場所をジョンに確認してヤマトごと転移。転移後に目に入った島はなだらかな丘のように盛り上がった森が広がる物で、見渡してみると私達の島より大分小さい気がする。聞いてみたところ、全周は十キロ程の少し細長くなっている島だそう。


 島の側面にあるヤマトをテイムする前提で造ったような港に、ヤマトを横付けし島へ上陸すると子分の人達が忙しそうに動き回っていた。ヤマトをテイムしたことで次なる目的へ進むために色々準備しているらしく、島中で伐採と住居の建設を進めているんだそう。

 私達も空飛ぶ島に手を付けないといけないよね。現状、トヤマさんが畑を作っているだけだし、せめてあの遺跡を取っ払って拠点を置かないと。


 まだ島を案内できるような状況じゃないし、唯一案内できると言う集会場は後にして、先ずは実際に島を動かしてくれるという。ステルスも特殊な生物も居ない、何の変哲も無い島にサクラはガッカリ気味だけど、動くってだけでも凄いと思うけどね。そんな私もちょっと残念。


 ゆっくりながらも波を立てて進む島は、ヤマトの甲板で受けた爽快な気分とは違い、ゆったりとした楽しさがある。海のモンスターも気になるのか、イルカ型のモンスターのイノルカも群れをなしてやってきている。可愛いなぁ。あ! ジャンプした。一頭貰っとこう。名前はフィンにしよう。


「手が早いですわね」

「そいつはバフや回復魔法も使えるからな。海なら便利だぞ」


 航海のお供にはぴったりなんだね。最近海に出ることはないけど、いつかまたとっつぁんに引かれた屋形船で海に出たいな。


 残念に思った気持ちもどこへ行ったのやら、一頻り堪能したところで、集会場となっているファンタジーの酒場風の建物へ案内され、お礼だと言ってピザとコーラを振る舞ってもらった。

 男らしく豪快に具材がのったピザは食べ応えがあって美味しく、またコーラの刺激もあって程よく食が進む。


「美味しいね。肉ばっかりだけど、それもまた良いね」

「こんな男臭い場所だと、野菜を食おうなんて奴はそうそういないからな」


 マオやヨーナが喜びそうな所だね。今度エルフの村のチーズでも差し入れしようかな? ジョン達は行く気は無さそうだし、あのチーズがあればこの間ピザももっと美味しくなるだろうからね。


「それにしても、ヤマトンガーなんてテイムしてどうしますの?」

「大陸より先の海を目指す為さ。モンスターの強さも大分上がるし、戦艦で船旅とかロマンがあるしな!」


 戦闘用も兼ねてって事なんだね。ヤマトンガーならプレイヤーが造る戦艦より強そうだし、船旅なら心強いんだそう。でも、そこは海賊船なんかの方がロマンがあったんじゃない?

 ジョン達を見てると、ゲームの進め方も一つじゃないって実感できるよ。それでも、私達の目は既に新しい大陸に向いてるんだけどね。早く週末にならないかなぁ。


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