60. 魔王第二形態!
「只今より、緊急会議を開催致します」
先生により開催を告げられた緊急会議。議題は只一つ、あの獣をどうするかだ。間違えた私が悪いんだけど、あの時の姿勢はどこに行ったのかと思うほどの暴れっぷりを発揮した。被害にあったのは主にミスノだけどね。いや、ちょっと違うか。暴れ回るほどのダンスを繰り広げた後、ミスノに突撃しようとしてヨーカンに捕まったんだ。
今やヨーカンに座る事も出来ず、その中には血走った目で皆の胸を凝視するウサギがちょっぴり透けて見える。石に戻さないのは一応罰のつもりだ。
「会議つっても、ゴーレムに放り込んどきゃ良いだけだろ?」
「妾は嫌じゃ」
「私もな」
融合進化させようにも、タツノとミスノはもちろんの事、ゴールデンゴーレムの三人娘もイースを取り込むのは嫌らしい。
餅を食べて進化した月ウサギはなかなか良い種族らしく、薬品系生産のスペシャリストだそう。月ウサギでしか作れない、素材にする事も出来る薬品を作れるそうで、トヤマさんにもメリットがあるためどうにか有効活用はしたいのだけど。
「なら、新しいゴーレムを捕まえればいい。私が受け持とう」
「それってつまり、魔王第二形態?」
「胸が熱くなるな」
「戦う方から言ったら嫌な事ですわよね」
バニースーツを着ているのは伊達ではなく、ウサギの扱いには自信が有るらしいマオが、イースと共にゴーレムと融合進化する事で押さえつけておいてくれるらしい。なら、そのままのイースも調教してよと思うけど、それとこれとは話が別らしい。相棒を抱き締めているところを見るに、実物があると嫌なのかもしれない。
「じゃあ、どのゴーレムをテイムするかだよね。マオは何がいい?」
「ドラゴンゴーレムだな」
マオに肝心のゴーレムの事を聞いてみると、Mリーグでも屈指の強さを誇ったゴーレムの名を挙げてきた。
「ドラゴンゴーレムは何処に出るんですの? まだ掲示板にも情報は出ておりませんわ」
「ドラゴンゴーレムは造るんですよ。素体となるゴーレムに、龍の首の珠を与えることで変化するんです」
龍の首の珠にはそんな使い方があったんだね。先生の説明は続き、龍の首の珠は最大五つまで同時に与える事が出来、与えた量によって性能が変わるんだそう。そして素体のゴーレムの特性も引き継ぐため、素体にも拘る必要があるんだとか。
取り込まれる事になるマオに、素体についても何が良いか聞いてみると、その答えはムーンゴーレム。月にいるゴーレムで相手を惑わせる特性を持つらしい。
「まさか、こんなに早く月へ行くことになるなんてね」
「アオイは知ってんのか? ってか、月って行けるのか?」
「どんな所なんですの?」
「街があって、マンモスが居る所」
月がどんな所か気になっている二人に簡単に説明すると、揃って何言ってんだコイツって目で見てくる二人。今に見てればいいさ。
二人を連れて月に見えた街へ転移してみると、先ず普通に重力を感じることに驚いた。もっとふわふわするのかと思ったよ。
「すげーな、空が黒い」
「随分と和風な街並みですわね」
キョロキョロと視線を慌ただしく動かす二人に、少しいい気分になりながらも私も来るのは初めてなのでさり気なく街を見渡してみる。ここは城へと続く大通りなのか、広い道に周りには団子や、焼鳥など色々な食べ物屋が並び、私たち以外にも人が居たなら大きな賑わいになっていただろう。
通りの先にある城は真っ白で、どこか姫路城を思わせる姿。でも、大きさは随分違うかな。此方の城は十五階くらいありそうだよ。
「ようこそ月面都市ツキミヤへ! 此処では宇宙を体感出来る様々なアトラクションが御座います。名産はお団子ですので、宜しければ此方をどうぞ!」
私達に気付いた団子屋のお姉さんが駆け寄り、この街についての説明をしてくれた後、素焼きの団子を差し出してきた。
何で素焼きなんだろうと思いつつも有り難く受け取り、早速一口食べてみるとその美味しさに驚いてしまった。モチモチな食感にしっかりとした甘味を感じる。サクラとヨーナも気に入ったみたいだ。お姉さんはこれを味わわせたかったんだね。どうだと言わんばかりの顔で私達の顔を見ているし。
「アトラクションへの参加でしたら、あそこに見える城へ行ってください。あれが冒険者ギルドですので」
そう言って店へ戻るお姉さんを見送り、二人とどうするか相談してみると一度どんなアトラクションがあるか見てみる事にした。
城へ入ってみると一階は土間と畳敷きで、受付のお姉さん達も座布団に座っていて和風な感じを出している。
アトラクションについて聞いてみると、内容自体はアトラや祭り村と変わらず、サバイバルゲームや宝探し、戦闘機を使ったシューティングゲームのような物が楽しめるみたい。
「ゴーレムテイムしたらなんかやってみようか」
「そうだな。私達だけで撃ち合いも出来るみたいだし、さっさと終わらせようぜ」
「ゴーレムはアオイに任せて、私達は街の観光でも良いですわね」
「そんな事したら私泣くよ?」
直ぐに終わる事だし、月面歩くの楽しみだねってくらい言って欲しいよ。
ゴーレム自体は場所を確認して三人で転移。そのままテイムして終わったけど、マンモスを見つけたヨーナのテンションがマックスまで上がり、長々と狩り続けることになった。ヨーナもマンモス肉には憧れていたみたいだ。ドロップはもちろん肉。偶にレアドロップなのか牙を落とすこともあったけど、これはミスノ案件だね。
「月面での戦闘も楽しいもんだな」
「無重力じゃ結局空飛んでるのと同じになっちゃうしね」
無重力の宇宙とは違い、月面なら多少の重力はあるからね。一応地に足つく戦いは行える。地球と同じような重力なのは街だけみたいだ。偶にヨーナが勢い余ってどこかに飛んでいこうとする度に、救助に行かなきゃいけないのはちょっと面倒臭い。
「それでも、時間を取りすぎですわ。これでは宇宙で遊ぶ時間もありませんもの」
サクラの言うとおり時間を取りすぎたのは否めない。平日となると、ゲームで遊ぶのは夜くらいだし、時間が無いのが痛いかな。シルバーウィークや冬休みが待ち遠しいよ。
宇宙のアトラクションは諦め、ログハウスに戻ると直ぐに外に出てムーンゴーレムを石から出す。四メートル程の巨体をログハウスの中で出すわけにはいかないからね。名前はそのままムーンゴーレム。手抜きみたいだけど、そこは許してもらおう。
ムーンゴーレムはまるで教科書に出てくるような土偶の姿。色は白っぽい銀色で、多少デフォルメされて可愛い感じになってるものの、それでもあの奇妙な感じは抜き切れていない。いきなり目がクワッ! って感じに開いたら怖いかも。
そんなムーンゴーレム前、草の上に手の平大の蒼っぽい色をした綺麗な珠である龍の首の珠を五つ置いてみると、ふわふわと浮かびだしムーンゴーレムへと吸収されていった。念動力でも使えるのだろうか?
吸収し終えたムーンゴーレムは粘土のようにぐにぐにと動き出し、Mリーグに出てきたドラゴンゴーレムのようなスタイリッシュな姿へと変化した。
「これで、後は私とイースを融合させれば良い。」
そう言うマオを石に戻し、イースも忘れず石に戻す。その時の絶望を浮かべた表情は可哀想に思えたけど、ゴーレムの中で皆と仲良くやって欲しい。もしかしたら表に出して貰える可能性もあるしね。
先にマオの入った石をムーンゴーレムに与えると、髪の色が白っぽい銀色で、翼がドラゴンのような物になったマオの姿に変化した。ちゃんとマオが主導権を持っているのを確認して、名前変更のウィンドウから名前をマオに変え、そして同じようにイースの入った石を与えて、再び名前をマオにする。姿に変化は無いようだけど、イースはちゃんとしているのかな?
「今のところは従順だな。だが油断はできん」
「やっぱりウサギは嘘吐きなのかな?」
「あいつだけじゃないか?」
「相棒はちゃんととしてますものね」
なら、相棒は進化させて良いかとサクラに聞くと、それはまた別の問題らしい。