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59. 解き放たれた獣

 ある日の夜。テレビで見た特大のハンバーガーが作ってみたくなり、太極図が便利なのを良いことに直径五十センチ程の物を作ってみた。当然一人では食べきれないので、急遽闘技場に居るサクラとヨーナを呼び戻して皆で食べていた時、ヨーナがログハウスを見渡し、ふと呟いた。


「なかなか、カオスな感じになってきたよな」

「今更ですわよ」


 そう言う二人の視線は私のお尻の方と、宴会の装いを見せる飲兵衛スペースに向けられている。宴会は夜になれば始まる何時もの事だけど、カオスと言うのは魔王が増えたためだろう。


 切り分けたハンバーガーを片手に、グビグビとビールを流し込むその姿は最早魔王の面影なんて全くない。元からかもしれないけど。寧ろカジノでサボっているバニーちゃんだよ。頭の蛇もご機嫌みたいだし。

 そんなマオはジャンクフード、特にハンバーガーが好きらしく、作ると言ったときには目を輝かせて喜んでたっけ。その後野菜は入れるなと厳重に注意されたお陰で、このハンバーガーの具材は特大のハンバーグ、ベーコン、チーズとかなりこってりしたものになってしまった。玉ねぎくらいは欲しかったかな。


 もう一つの視線。私のお尻に向けられているのは私と椅子の間に敷かれたクッション代わりのこの子の所為だろう。名前はヨーカン。黒くてプルプルした感じが水羊羹っぽいからそんな名前にしてみた。そう、この子は驚愕の戦闘の末にテイムした原初の澱みさんです。


 あれは本当に驚いたよ。最初は苛烈な攻撃だった。様々な魔法を次々に繰り出し、自由に形を変え此方の攻撃を避けようとする。しかも変形した勢いで物理攻撃も仕掛けてくる。バランスよく役割を決めて勝負を挑まなければ近付くことすらままならないだろう。私は自分を囲う半円形のドームを造って引きこもりながら攻撃してたけどね。

 驚愕したのはその後。第二形態へと変化した時の事だ。なんと原初の澱みは私の姿に変化したのだ。見た目は黒くてつるんとした感じだけど、その姿は私そのもの。私と同じような能力を持っていたらマズい。そう思っていたものの、その攻撃はひたすら刀で斬りつけるだけ。どうやら太極図には対応していなかったらしい。


 私は太極図が無いと物理攻撃しか出来なくなるらしいね。思わぬ所で弱点が判明した。いや、誰だって魔法が無くなれば物理攻撃しか出来ないんだし同じ事か。必死に攻撃する私の姿をしたスライムを見ているのも辛いので、後頭部に見つけたポイントにテイム石を当てて無事に完了。

 こうして癒やしのクッションを手に入れた訳だ。これは凄いよ。これこそ、人を駄目にするクッションだねぇ。


「ゆるゆるな顔してんなぁ。口の端にソースついてんぞ」

「ヨーカン、お願いー」

「その程度の事もしないのですわね」


 プルプルしたボディをにゅっと伸ばして口を拭ってくれるヨーカン。プルプルの奥にプニプニが居る。あぁ、極楽。


「それよりさぁ、タツミはいいとして師匠は進化させないのか?」

「ヨーナさんは自分のドラゴンの事も構ってあげたらどうですの?」


 お互い大事な事を忘れていたらしい。ヨーナはアイズを草原に放して遊ばせたままだったみたいで慌てて外に飛び出していった。闘技場から戻ってすぐ行ってあげれば良かったのに。

 それより私は師匠の事か。タツミはボスだから進化しないとしても、師匠はボスでは無いからね。今のままでも十分強いと思うけど、やっぱり本人も進化したいのかな?


「師匠、進化したい?」

「ん? そりゃ、しないよりした方がいいさ。ただし、ザクロは駄目だ」

「こやつには綿飴でも食わせとけば良いのじゃ」

「綿飴?」


 どうやら綿飴で進化させると神とつくものになるらしい。タツノの時もそうだったし、随分甘い仕様だね。どうせなら色んな味の綿飴を作ろうかな。飴にでもして置いておけば何か欲しいときに便利そうだし。


「なら、誰が一番美味い綿飴を作れるか勝負しようぜ! 私もこの子に作ってやりたいし」


 アイズを抱いて戻ってきたヨーナの提案に、抱かれているアイズも嬉しそうだ。嫌われていないようで何よりだよ。サクラも勝負は受けるみたいだし、審査員は人型モンスター達に任せよう。そうと決まれば材料集めだ。私は行動範囲で有利だから色んな果物を集めてこよう。


 先ずはアオモリ領で林檎、ヤマガタ領でさくらんぼを採取した。これらはフィールドに生えている木から採れるから簡単なものだ。でも、目的の為にあともう一種欲しい。赤いフルーツ三種類でいきたいからね。

 問題は最後の一つに決めているイチゴだ。これは採取ではなく、トチギ領のいるモンスターのドロップでしか手に入らない。一応街に売ってはいる物もあるけど、やっぱり採取やドロップ品の方が美味しいからこういうところには拘りたいよね。


 モンスターなら、称号の事もあって自分よりレベルが低ければ一撃で倒せる。今のレベルは430で、どうやらレベルは0からのスタートで、称号一つで10アップ、【空狐】なんかの種族に関わる称号は50アップみたいだ。そんな訳で列島のモンスターなら確実に一撃。称号が無くても一撃だろうけどね。だから、ドロップだというのは問題にはならない。

 なら何が問題かと言うと、多いのだ。モンスターの名前はベリーイチゴ。とても多く群生しているモンスターで、一度遭遇すれば何処からともなく仲間を呼び寄せ増え続ける。もちろんそのまま放置してしまえば、永遠と増え続けて他のプレイヤーにも迷惑が掛かる。過去に大規模の討伐が行われた事があるくらいだ。当然増殖を止める方法もある。簡単に地面ごと焼いてしまうだけだ。焼き畑って感じかな。消毒扱いなのかな?


 まぁ、正直こんな説明も問題にはならないか、私なら大規模になっても終わらせられるしね。なら、何故数が多くなることが問題かと言えば、単調作業でドロップが美味しいとなると止め時を見失っちゃうよね。






『いい加減帰ってこい』


 夢中でイチゴ狩りを続けること一時間程。痺れを切らしたヨーナから帰還命令が下ったところで終わりの焼き畑。うん、大量大量。綿飴と平行してイチゴフェアでもやろうかな? イチゴを指定して太極図でスイーツに変える簡単なお仕事だし、もちやマオも喜ぶだろう。


「綿飴の準備程度なのに何してましたの?」

「イチゴ狩り!」

「おっ! 良いじゃん。練乳ってあったか?」


 先生に確認したところ無いとのことなので、急遽買いに行きました。やっぱりスイーツに加工するのも良いけど、練乳で食べるのも良いよね。器にイチゴを盛ってたっぷりの練乳を掛けておき、綿飴を作っている間に皆に摘まんでもらう。私達も食べながらの綿飴作りだ。やっぱりイチゴと練乳の組み合わせは最強だ。


 肝心の師匠の鬼神への進化も完了し、ちょっぴり角が太く長くなったくらいで他に見た目の変化もなく、純粋に強くなった感じらしい。綿飴勝負も雪だるま型の綿飴を作り上げ、何故か加えられたら芸術点を多く獲得したヨーナの勝ちとなった。


「確か、イチゴの酒なんてあったよな?」

「ええ、作っておきますね」


 綿飴の件も一段落しイチゴフェアへと突入した訳だけど、師匠には少し物足りないみたい。私も出来れば良いんだけど、二十歳以下はお酒の扱いは出来ないみたい。太極図でもお酒を生み出す事は出来なかったよ。先生が作ってくれるみたいだし、そこは任せるとしても、どんな風に作るのかちょっと気になるな。聞いてみたら他の材料も合わせて漬けるだけらしい。今度梅なんかも取ってきてあげよう。


 イチゴフェアは他のモンスターには好評だけど、イチゴ大福を食べようとするイースを相棒が必死に止めようとしているのがどうも気になる。


「ねぇタツノ。あれは何してるの?」

「大福や餅を与えては進化してしまうのでな。太極図で作ると言っても手作りと判定されてしまうのじゃ」


 なら綿飴もそうやって作れば良かったよ。そうすればヨーナより凄いもの作れただろうに。まぁ、過ぎたことを言っても仕方ないし、大福は離れた所に置いておくとして、相棒にはイチゴ大福を食べさせてみよう。


「あ、角が無くなった」

「しかも立ち上がりましたわね」

「なんかキョロキョロしてるぞ」

「おっぱい! イエェェェイ!!」


 ヤバい、ウサギ間違えた。


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[一言] バニーさん、二人?
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