58. 果報は寝ながら掴み取る
綺麗な星空が浮かぶ静かな夜。庭みたいなものである草原で、伏せるウォーセを背もたれにしてパンダと犬がじゃれ合う光景を眺めてリラックス。綺麗な星空も良いけどかわいい光景も良いよね。
今日は平日だからトヤマさんも居ないし、サクラは単独行動。ヨーナは学校からの帰りに古本屋で大量に漫画を買っていたし、今頃読みふけっている頃だろう。
「ご主人様は行動しないんですか?」
「うーん、今はのんびりかなぁ」
何気に先生と2人っきりは珍しいよね。今まではお菓子づくりに忙しそうだったし、折角だから一緒にのんびりしたかったんだ。
本当は消えた称号を補ったり、宝探しで先生の変化に騙されたって言う反省点を何とかしなきゃならないんだけど、正直採取とか面倒臭いです。あの狩りゲーだって投げ出したくらいだ。他の目的と平行しなきゃままならないのです。
「ねぇ、月にもモンスターって居るのかな?」
パンダと犬のじゃれ合いも休憩なのか、ごろんと寝転んだまま動かなくなったので星空でも見ようかと思い空を見上げたところ、ふとそんな事を頭が過ぎった。運営なら何か用意している気がする。
「見てみたら如何ですか」
そっか、見れたっけ。いい加減何が出来るか把握しとかないと駄目かな? もしかしたら幻術や変化だって見破れたかもしれないし、暇な時にでもやっていこうかな。
でも先ずは月面観察だ。楽しむ為に徐々にズームさせていくと、クレーターもだんだんハッキリと見えるようになってきた。運営は結構ベタな事が好きそうだし、兎が餅つきなんてしてるかもしれない。徐々に月面へと近付く視界には既に生物を捉えている。しかし、それは兎とは程遠くもっと大きいものだった。えーと、これは?
「何で月にマンモス居るし」
繋がりが分かんないよ。名前はムーンモス。それではまるで虫みたいな名前だ。でも、美味しいのかなマンモス肉って。今度皆で行ってみよう。近くに街もあるみたいだしね。
こうして離れたところを見てみるのも意外と面白いね。パソコンの地図みたいだし、今度はホッカイ領を見てみよう。開拓が何処まで進んだか気になるしね。
視界を移動させてみると、暗さもあってよく見えない。視界だけ明るく出来ないかな、と試してみるば昼間と変わらないように見ることが出来るようになった。ますます便利になってくね。
そのままホッカイ領を見回してみると、網走の辺りに家みたいのが建ってるのが確認出来た。町とまではいかないけど、宿場町みたいな物かな? 流氷の辺りはドラゴンに会いに行くのか人が集まってるみたいだし、ドラゴンはまだまだ人気みたいだ。
流石にサーポロの街から距離があるからか、道までは出来ていないみたい。折角のチートだし、協力したりしても良いかもしれない。頭の隅にでも置いておこう。
「何か面白いものは見えていますか?」
「うん、やっぱりここは広いよね」
オキナワ領の砂浜ではモンスターのオジサンがシーサーと散歩してるしね。シーサーはモンスターなのかな?
今度は第一大陸を見てみようか。おお! 丁度魔王軍とプレイヤー達が海岸近くの平原で戦ってる。魔王軍はオークとゴブリンで構成されているみたいだね。プレイヤーも苦戦してるみたいだから結構強い奴ら何だろう。
魔王も見てみたいな、と何処にいるか探してみると大陸の中央辺りに大きく、豪華な城がある街を見つけた。街ではぐったりとした人々。この人達はAI何だよね? こう見るとなんだか可哀想になってくるよ。でも、今は魔王を見るのが優先。魔王が居るなら城だろうと、内部を覗いてみると玉座に座るバニーちゃんを見つけた。
うん、バニーガールだ。金髪の長い髪でその内の一束が金色の蛇になっていて、背中に黒いカラスのような翼がある。ちゃんとうさみみカチューシャもしてるし、もしかしたら高飛車バニーちゃんなのかもしれない。ああ見えて気弱だったらそれはそれで面白そう。テイムしてみようかな?
よし、やろう。そうと決まればテイムポイント探しだ。しかしなかなか見当たらない。視点を変えてみないと駄目かと思い、背もたれに隠れる背中から足の裏と隈無く探す。これではなんか変態みたいたけど、裸までは見てないよ。そもそも見れないし、それにこれはテイムの為だ。後で謝ろう。
テイムポイントは魔王の履いているピンヒールの踵部分の先端にあった。問題はどうやってテイムするかだよね。今日はあんまり動きたくないし、ここから手を伸ばせないかな? 視界に入るように手を動かしてみるとちゃんと手が見えた。うん、手だけ向こう側に在るみたいで、丁度魔王を正面から見ていたお陰で、突然現れた手に魔王も驚いて警戒している。今度は床から覗くようにして、テイム石を手に持ち、ヒール目掛けて視界に入るように手を伸ばす。
テイム完了の直後に称号取得のアナウンスが聞こえた。視界を戻し表示されたれウィンドウを見てみると、取得した称号は【闇払う英雄】で、効果はモンスターへの攻撃力アップ。よかった。これで無くした称号はカバー出来たかもしれない。
「あの、ご主人様。その子出してあげて下さい」
その子って魔王だよね。会話でもしたのかな? とりあえず外にとって出すのは名前を付けてからだよね。マオにしよう。安易過ぎかな?
「何でそんなに突然なのだ!? まだ魔王として戦場にも立って無かったのだぞ! あんまりじゃないか!!」
「ご、ごめんなさい!?」
出したら途端にに叫び出すマオに思わず謝ってしまう。先生が出してあげてって言い出したのはこのためだったのか。ど、どうしよう。
「ちょっと席を外しますね。さぁ、マオ。此方にどうぞ。先ずはお茶でも飲んで落ち着きましょう」
そう言って、先生はマオの手を引きログハウスへ向かっていく。後は先生に任せた方が良いだろう。好奇心は猫を殺すか、気を付けないと。
でも、観察はやめられない。今度は列島を北から南下してみようかな。先ずはアオモリ領と、上空から観察していると大きなった砂丘を見つけた。今なら砂の中も自由に見渡せるかな、と思い覗くというよりも透かす感じで上から下へと見ていくと、そこには黒歴史を思い出させるガンワームが居た。
ランダムダンジョンで出たのは此処だったんだね。そうなると此処になにかクリアするような目的があるのかな? いつかクエストがだされそうだ。
列島南下は一度休憩して、次は第三大陸だ。黒歴史に触れてささくれ立った心を癒すために、あいつに接触しようっていう魂胆。そう、触ったらどんな感触か気になる原初の澱み。此処からなら安全に触れるんじゃないかと思い付いたのだ。
封印されて動かない事を良いことにツンツンと指で突っついてみると、その何ともいえない弾力はかなりの心地よさだ。距離で封印が解けるとも思ったけど、手だけじゃ反応しないのか突っつき放題。
どうせなら今度はちゃんとテイムしようとポイントを探してみるも、何処にも見当たらない。もしかしたら形態変化でもするのかもしれないし、本格的に戦うしかなさそうだ。
此処からでも攻撃出来たりしないかな? だけど、そもそも武器が取り出せなかった。装備したものは念じただけで取り出せる筈だけど、それが出来ないとなると無理なのかな。試しに武器を持った状態で手を送れるかやってみても視界に映ることはなく、ウォーセが私の行動を不思議がっているのか、尻尾でぺちぺちと私の腕を叩くだけだった。もしかしたらMPが足りないだけかもしれないし、もっと増えたときにでもまた試してみよう。
ささくれ立った心も癒やされ、列島南下に戻ろうと思ったところである事を思い出した。それは新世界の事だ。プレイヤーが創った恐らく最初の街だし、一度見てみたかったんだよね。いきなり行くとなるとちょっと怖いから先ずは覗くだけ。
「何でビリケン様が歩いてるんだろう?」
実際に見たことがないから現実との違いばかり分からないけど、そこはファンタジーで言ったらまさに新世界。しっかりとした現代建築の街だった。それだけに街を歩くビリケン様の違和感は凄い。
すると、何故かビリケン様が急に此方を見て微笑みかけてきた。おかしい。私はそこにいないし、ただ覗いているだけなのに。
いや、もっとおかしいのがプレイヤーがビリケン様をすり抜けている事だ。ぶつかる事無くすり抜け歩き続けるプレイヤーを見るに、ビリケン様事態見えていないんだと思う。そして不意に聞こえる称号取得のアナウンス。
視界を戻し本日二度目のウィンドウを確認する。手に入れたのは【プロビデンスな目】と言う称号。
の、じゃないんだね。危うく秘密結社の設立を考えるところだった。そんな称号だけど効果は強力で、簡単に言えば看破だろう。
変化でも幻術でも、罠だろうがモンスターの弱点だろうが見ただけで判断出来るという。何という棚からぼた餅。案外、先生はこのために月を見るように勧めてくれたのかな?
「あいつを見たそうじゃな」
「知ってるの?」
何処からか情報を聞きつけたらしいタツノがやってきて話しかけてきた。何やら知ってるようなので、私だけに見えていたビリケン様について聞いてみる。
タツノが言うには特殊な視界に於いてだけ見ることが出来る存在で、ビリケン様の他にも複数居るそう。しかし、特定の場所に居るわけではなく、ふらふらといろんな所をさまよっている為、狙って見つけるのは難しいらしい。そして【プロビデンスな目】はその存在を確認すると手に入る称号とのことだそう。
「マオ、大丈夫?」
「あいつならケーキを食べてご満悦じゃ。ずっと此処におるとさ」
称号の事はひとまず置いておいて、その後が気になるマオの事だ。タツノが見た限りこの場所、と言うかスイーツを気に入ってくれたようだし、とりあえずは良かったかな。
これから一緒に居るわけだし、機嫌が良い内に体中を見回した事は謝っておこう。いや、変に勘ぐられても嫌だし、テイムの件に含ませる感じにしておこう。




