57. まだまだ宝探し!
ヨーナの提案により、スポーツチャンバラっぽいのをやることになったものの、会場となるこの島には重大な問題があると思う。
「流石に場所が広すぎるし、イベントみたいに宝探しも加えない?」
森でチャンバラをやるって言っても、手を入れていない現状、森は島全体に広がっているのだ。いくら何でも範囲が広すぎるし、タツノや私だとスピードの面もあって行動範囲が広くなりがちだからね。宝箱を見つけるなんて目的を追加しても良いと思う。PvPの設定ウィンドウには結構細かく項目があるし、私達がやりたいように出来そうだ。
そうなるとフィナは参加出来なくなっちゃうけど、そこは我慢してもらおう。フィナだって座敷わらしの特性はあるんだし、偶然フィナの近くにあった、なんてなったら不公平だしね。
「不正なんて考えてないよな」
「ないない、ランダムでオブジェクト配置も出来るし、そもそも不正なんてやる意味ないじゃん」
今度こそ真剣勝負がしたいヨーナは疑い気味だけど、一応あの時だって真剣勝負だからね? 私もちゃんと真剣にやったんだよ。チャンバラかどうかは抜きにしてね。
ルールとしては、前と同じように魔法攻撃無しに武器は柔らかい競技用。最後まで生き残った人か、設定した宝箱をあけた人が勝ち。あっ、ヒントの設定も出来るのか。これも入れて、武器が当たったらログハウスに転移するようにもしておこう。そうすれば分かりやすいしね。
さて、後は一度ログハウスに戻って師匠も誘ってこよう。誘わなかったら後で怖いからね。
「先生とジーヌも参加するんですの?」
「はい。たまには体を動かすのも良いかと思いまして」
「面白そうだからね。ふふーん、私のスピード見せてあげるよ」
ログハウスに戻り師匠に聞いてみたところ、話を聞いていた先生とジーヌの二人も参加を表明。鍛冶に勤しむミスノとゴーレム三人娘のお守りをするタツミは留守番となった。
先生が戦うのを見るのは初めてだし、警戒しておいた方が良いよね。他にはトヤマさんにクイネさんもか。トヤマさんは恐らく森が得意フィールドだから要注意だ。ジーヌは多分猪突猛進系だと思う。
「クイネさんも神速通や千里眼は使っちゃ駄目だよ」
「え、それだと俺に厳しすぎない?」
「それを使ったら宝探しも何も無いでしょうに」
皆に武器を配りながらちゃんと今回のルールを説明し、クイネさんにはちゃんと注意を入れておく。今回はちゃんと正々堂々とやらないとヨーナが怒るからね。スタート地点も開始の合図と共にランダムに転移するように設定したし、ヒントもあるから不公平は無いはず。
「一分後に始まるからよ。ルールは分かったよね」
「ああ、ちなみに宝箱の中身って何だ?」
「ドリアン」
「「「……」」」
皆して微妙な顔しなくても良いじゃん。
さて、私のスタート地点は南の海岸か。背後、海があるべき場所には何もない空が広がっていて、足元はゴツゴツしていて戦闘には向かない場所。開けているし奇襲には打ってつけの場所だね。例えば上からとかっ!
「ちぇー、避けられちゃったか」
横に飛んで上からの奇襲を回避すると、して来た本人は失敗した事なんてさほど気にしてはいない様子。やっぱりジーヌは攻めて来たか。
「此処も広いし、協力したりしない?」
「やだよー。折角、人間モードの動きをご主人様に体感してもらうチャンスなんだか、らっ!!」
視認出来ない程のスピードで背後に回り、振るわれる刀剣タイプの武器を感覚を頼りに振り返り受け止める。尻尾を狙いに来たか、突っ込んできた割に結構考えているみたいだ。
「どんどん行くよー!」
スピードを生かして常に背後に回って攻撃してくるのは厄介だけど、攻撃した時一瞬動きを止めるのはまだ動きに慣れて無いのかな?
「うそっ!?」
背後からの攻撃を受け止めたタイミングで、尻尾に挟んで隠し持っていた短刀タイプの武器を使いそっとわき腹を突く。
武器を二つ使うとは思っていなかったのか、驚きの表情のまま退場するジーヌに心の中でそっと謝る。使わないだけであって、称号の効果もあるから扱う事は出来るんだよね。基本的に使ってないから【二刀流】の称号は得てないけど。私は一本の方が好きなのだ。いずれは抜刀術なんかにも手を出したい。今度ジーヌも誘ってハニワンダー道場にでも行って修行しようかな?
よし、気を取り直して周囲を調べながらヒントか宝箱が無いか調べてみよう。他の人がどこに居るか分からないから警戒は怠らないようにね。特に森の入り口だ。誰かが私を見つけていたなら、そこが奇襲のポイントになるしね。
海岸には特に何も見つからず、意を決して森に入ってみるも、今のところ奇襲は無し。しばらく探索しても、誰も仕掛けてこないし見当たらないから離れたところに居るんだろう。
そして、少し高い位置の枝に引っかかる紙を見つけたため、空を飛んで取ってみる。そこには《北は十二時、三時は無し》と書かれていた。
これはヒントだよね。書いてあることそのまんまだと、三時の方向に宝箱は無いって事だ。今は南から真っ直ぐ北の方に向かっているから、島の中心まで行ったら四時方向へ進んで時計回りに調べて行こうかな。
「ヒントには何て書かれていたのかしら?」
「えっ!?」
突然後ろから掛けられた声に驚き、距離を取りながら後ろを振り向くとそこにはトヤマさんが立っていた。全然気付かなかったし、尻尾も反応しなかった。これはマズいかもしれない。
「ふふっ、アオイちゃんも素材採取をしっかりやった方が良いわよ? あぁ、大丈夫。私の目的は宝箱だけだから」
「だ、騙そうとしてない?」
「これでも一応教師よ」
それは安心、だよね? はぁ、感知系の称号があるからって慢心したら駄目なのか。ここで教えて貰えたのはラッキーだったのかもしれない。
とりあえずは信用するとして、ヒントの内容を教えると、トヤマさん自身が集めたヒントの事も教えてくれた。内容的には、十一時、九時、五時の方向には無いということ。見事に方向がバラバラだ。四時方向に無いとなれば一角は消せるんだけど。
ヒント以外にも他の人の動向も聞くことが出来た。現在戦っているのはサクラと先生。目指そうと思っていた四時の方向で繰り広げられる、幻術を駆使した戦いは見応えのある物だったらしい。
ヨーナ、タツノ、師匠、クイネさんはそれぞれ別の方向から中央にある壁画の描かれた遺跡を目指している模様。ただ、タツノとクイネさんの距離が近いため中央に着くよりも早く戦闘になる可能性があるらしい。
ここは中央を目指して、人を減らした方が良いかな? ホントに戦闘をするつもりが無いのか、宝箱を探しに行くと言うトヤマさんと別れ、奇襲の準備をするため急いで中央付近へ向かう。
しかし、皆の移動速度を侮っていたのか、そこでは既にヨーナと師匠の熱戦が繰り広げられていた。
大剣タイプと二刀流の戦いはなかなか優劣付けがたいものになっており、ヨーナの武器に似合わないスピードを受け流し、迫る師匠の攻撃を素早く距離を取って避けつつも攻撃に繋げているヨーナの動きは割り込むのもなかなか難しいものだ。
動きを止めた一瞬が割り込むチャンスだ、と木々の影に身を潜め、師匠がヨーナの武器の勢いに弾き飛ばされ着地したタイミングで一気に間合いを詰めて師匠に斬りかかる。
「甘いぞっ!」
「お前もな!」
「ヨーナもね!」
奇襲は刹那に反転した師匠に受け止められてしまったけど、これで三つ巴に持ってける。背後から襲うヨーナの大剣をいとも簡単に避けた師匠を追わず、ヨーナの攻撃後の隙を狙うも受け止められ、そこへ私の隙を狙って師匠が斬り込む。
この状況でどちらかの動きを止められれば、二人とも一気に退場させられるチャンスになる。師匠の攻撃を少し距離を取るように避け、ヨーナの攻撃対象をより近くに居る師匠に向けさせた後、足元の地面を砕く。それにより生まれた衝撃で二人は動きを止めるはずだ。
攻撃後、攻撃前に起きた衝撃に動きを止めた二人に、チャンスだと近付こうとする前にあるものが視界の隅に入り込んだ。宝箱だ。地面を砕いた衝撃で宝箱が飛び出してきたのか。
こっちの方が良いチャンスだと、宝箱に手を開けようと手を伸ばし触れたところ、それはポンッと音を立て一匹の白い狐へと姿を変えた。
「ええっ!?」
「隙ありっ!!」
思いがけない事態に、師匠の動きに反応できず頭にその攻撃を受け、無念にもログハウスへ退場となってしまった。
「あ、チートが負けた」
「意外ですわね」
「どうしたの、ご主人様? 狐につままれたような顔して」
ログハウスにサクラが居ることで確信する。あれは先生か! 戦闘を終わらせて、隙を窺い一瞬で宝箱に化けていたのか!
「だ、騙されたぁぁぁ!?」
「あぁ、先生ですわね。あれは厄介ですわよね」
どうやらサクラも同じような目にあったらしい。一瞬の隙に逃げ出し、追いかけたところ宝箱を見つけて、といった感じらしい。欲に負けたからの負けなのか。あっ! しょ、称号は!? あぁ、【天下無双】が無くなってる。
結局今回の勝負は、中央で繰り広げられる乱戦に目も向けず、最初から宝探しに邁進していたトヤマさんの勝利に終わった。
はぁ、今回のイベントは良くも悪くも何かを得る結果になったよ。失った物もあるけどね。




