3. 初戦闘!
アイテムを買い終え、途中見つけた喫茶店のような場所でコーヒーを飲みながら魔法を組むことにした私達。
それにしても一杯100ゴトーは安い。なんだか喫茶店で缶コーヒーでも飲んでいる様な気になってきたよ。
魔法を組むために開いたメニューから、次いでに買ったアイテムを確認して見る。
フィールドでログアウトするのに必要になるテントに、ポーション類、テイム石。
テントとテイム石がそれぞれ2000ゴトーと、同じ値段なのが吃驚だけど、テイム石にはモンスターを捕まえる効果があるから仕方ないのかな?
捕まえ方は簡単で、テイム石をモンスターに触れさせるだけ。
普段は石の中に収納されているとの事だから、どうしてもどこかのボールを連想してしまうよね。
テントに関しては、フィールドでログアウトすると次にログインした時に初期の街、つまりスールガの街に戻されてしまう。
だから、どうしても必要な物の為この値段でも納得かな。
そして、ポーションはHPを回復する物を三本と、MPの物を一本。MPは自動回復するそうだし、そんなに買わなくても充分だろうしね。
それぞれ一本100ゴトーだから、より此処のコーヒーが安く感じてしまうよ。
そんな感じで所持金半額程で済ませたから、飛行便に乗ることになっても大丈夫。
飛行便は5000ゴトーもする、とても高価な移動手段だからね。でも、距離に関わらず一律なので遠くへ行く方がお得なのは嬉しいのかも。
さて、準備に抜かりのないことを確認したら早速魔法を組んでいこう。
まずはアイテムボックスを閉じて、魔法の項目をタップして開く。
すると、いくつかの空欄がある入力フォームが出てくる。
例えば、爆発する火の玉を敵に向けて放つ魔法を組むとすると、火の玉・敵に向けて放つ・爆発すると入力し、決定。
そうするとページが切り替わり、レーダーチャートのような物が出てくるの。
この場合だと、威力・火の玉の大きさ・爆発の規模・敵に向かうスピード・射程距離・消費MPの六つを頂点とした六角形。
それらを上下に動かし、自分の好きなように調整して、名前を付けて保存。こうやって魔法を組むって感じかな。
そんな制作過程がプログラムにちょっぴり似てるんじゃないか? って事で、作るではなく組むなんて言い方が一般的だとか。
注意点はそれぞれの上下にあわせて消費MPが変動する事。
強い魔法を組もうとすると、それだけ消費も激しくなるって訳だね。逆に、消費MPを操作すれば最適な状態にしてくれるのは便利なのです。
因みに魔法を発動する時は、発動する意志を持てばいいと、とてもお手軽。
とは言え発動の際に現れる魔法陣も、デザインを弄ったり出来るそうなので、格好付けで叫ぶ人も多いみたいだね。
そうして、それぞれ無言で魔法を組み終え、コーヒーも飲み終えたら早く使ってみたいと思うのは仕方のないこと。
喫茶店から出ると、メニューの地図で確認しながら歩き出し、ヤーイズへと続く南門を出て街道沿いの草原を歩いていく。
その際、二人にどんな魔法を組んだか聞いてみても、見てのお楽しみとしか教えてくれなかった。
これは、見たら笑えっていう振りだと考えていいのかな? とても恥ずかしい魔法を組んだと、勝手に想像しておこう。
「なあ? ヤーイズまで歩くってどれ位なんだ?」
「三時間位じゃないかしら」
「無理でしょ! 遠すぎるよ! 嘗めてたよ!」
流石、リアルサイズのフィールドなだけあるよ!
まぁ、このゲームでは、現実と同じ様に時間が流れるているし、勿論日の出、日の入りも現実とリンクしているから仕方ないんだけどね。
そのため移動時間がとても大変なんだけど、その分暇つぶしグッズが充実しているの。
カードゲームやボードゲーム、それにネットに繋がっているため、動画なんかも見ることが出来るという豪華仕様。
極めつけは課金して購入が必要なものの、テレビゲームが出来ること。
他のゲーム会社とタイアップしていて、今は少し古いゲームが中心だけど、今後は種類を増やしていくのだそう。
ゲームの中でゲームとか凄いよね。
「だから、馬をテイムするのが手っ取り早いそうですわ。バスホースと言って、駅馬車にも使われる車くらいの速さで走るモンスターだそうですわね」
なる程、馬か。一気にファンタジー感がでる存在だよね。
それにしてもバスホースか、足になることが運命みたいな名前でなんだか不憫。
そんな事を考えながらも、初めてのテイムに心を燃やすサクラの後に続き、街道を離れて草原を歩いていく。
すると、バスホースとは違う、可愛らしいモンスターと遭遇した。
三匹の角の生えたウサギが仲良く草を食べているその光景、とても可愛いです。
「角ウサギですわね。一人一匹ずつでどうです?」
「いいぜ、魔法を試すには丁度良い」
「私の飛刀転身流を見せてやるぜい!」
うむうむ、ヨーナの言うとおりだね。私も気合い十分で、思わず内緒にしている組んだ魔法名をポロリしてしまったよ。
二人はなんだそれ? って顔をしていたけど、私も二人と同じ様に魔法は実戦で披露したいのです。
なので、早速戦闘開始!
先ず、サクラが無言で放った雷の魔法で瞬殺。
次いで、ヨーナが物凄い勢いで駆けていき、身の程もある大剣を高速で一薙。風の魔法だろう移動法と攻撃で、瞬殺。
そして私は、短刀を角ウサギの後ろの方へまるで手裏剣の如く投げる。
これが私の組んだ魔法、投げた短刀を握り込むように瞬間移動するものなのです!
ふははっ! 瞬間移動は世の夢なのだ!
「うわっ!?」
でも残念! 急に変わった視界に驚いて転んでしまった。
うぅ、恥ずかしい。とっても恥ずかしい。
でも、角ウサギは急に後ろから聞こえた声に驚いて動きを止めたみたいだね。よし、体勢を立て直して持った刀に炎を纏わせ一閃。
これで、三匹の角ウサギは光になって消えていった。私の恥も消えないかな?
「ぷっ、見事にこけてたな! ドジっ娘属性でもついたか? それになんだよ飛刀転身流って、お前偶に中二病っぽいの入るよな」
「ダンスだったんじゃないかしら? 初めてだと慣れないですものね。ふふっ、それに魔法も格好いい名前じゃないですの」
「うっさい!! 次はちゃんと決めるから!」
この二人はここぞとばかりに馬鹿にして!
はぁ、次は視界の変化もちゃんと意識しよう。魔法の名前はもう気にしない。今思えば恥ずかしいけど、もう気にしない。
よし、気持ちを切り替えて戦闘も終わったことだし、ドロップ確認とついでに称号確認しよう。
ん? あれ、なんか称号が増えてる。
えっと、【闘争の目覚め】は初戦闘ボーナスの称号だと事前に聞いていたからいいとして、もう一つの【飛刀転身流】って……、え?
「どうしたんだ? 黙り込んで。 そんなにショックだったか?」
「いやっ、違くて。称号でてた」
「【闘争の目覚め】かしら? HP+500は結構良いですわよね。HPが多ければ目安にもなりますし」
「それもあるけど……、【飛刀転身流】だって。効果は投擲行動アシスト」
これは自分で付けたはずなんだけど、え? なんで称号になっているの?
「おいおい、あれか!? まさか運営今の会話を聞いてたのか!? 見てたのか!?」
「システムで判断してるのかしら?」
「じゃあ、あれか? 二つ名とかついたら称号になるのか?」
「なら試してみましょうか? ねぇ、女騎士のヨーナさん?」
私の頭はまだ若干混乱しているけど、話の流れからサクラが楽しそうな目で此方を見てくるし、面白そうなので乗るしかないね!
「そうだね。女騎士ヨーナ! 女騎士ヨーナはオーク殲滅のため、日夜奮闘する女騎士だもんね!」
「ちょっ!? やめろよ! やな予感がする!」
「確認してみようか?」
「早くメニューを開いて下さいまし」
自分の事を棚に上げて思い切りからかいつつも確認することを促し、渋々と言った感じでウィンドウを開いたヨーナはがっくりと手を地につけた。
あったんだ、凄すぎないかこのゲーム。
「なんだよ、このオークに好かれやすくなるってのは!? メリットなんてねーだろ!」
「「あははははっ!」」
「くそっ! こうなったら……。なぁ、深淵の魔導姫サクラ。お前の魔法は最強だもんな」
そんな悔しそうなヨーナは、立ち上がると直ぐに面白そうな事を仰りながら此方にアイコンタクト。
なんか私、楽しくなってきた!
「それいいね! 深淵の魔導姫サクラ、強そうじゃん!」
「ちょっと!? それはやめて、なんかめっちゃ恥ずかしい!」
「いーじゃん、深淵の魔導姫。……確認してみ?」
「そうだぞサクラ、メニューを開け」
からかいつつもヨーナの時と同じ様に促し、案の定、サクラはうなだれた。
なんでも、効果は戦闘時黒いオーラが体から溢れる、というものだとか。
「みんな平等に傷を負ったし、馬探そうか。三頭纏まっていたらいいよね」
「そうだな、おきつね巫女様。早く街に行って好物のいなり寿司食べないと、だもんな」
「え? って、なんで!?」
「そうですわよね。早く食べないと、泣いちゃいますものね。おきつね巫女様」
「いやいや、私だけ多くない!? みんな平等なんじゃないの!?」
「最初のは自業自得だろ。これでイーブンだ」
「さあ、確認してみなさい?」
もう既に泣きたくなってきたけど、今見なくても後々見るとこには変わりないだろうから、覚悟を決めよう。
メニューを開き、称号を確認するとそこにははっきりと【おきつね巫女】の文字。効果は、いなり寿司を食べると幸せになれる。
いや、最早ゲーム関係ないじゃん……。