52. 宝探しイベント! その一
「おっ、チートプレイヤーじゃん。ラッキー」
「クイネさんじゃん。良かった、知り合いで」
鬱蒼と生い茂る木々のざわめきだけが聞こえる森。最近顔馴染みになったクイネさんと、偶然にも同じスタート地点になったようで少し安心だ。知らない人とじゃちょっと不安だしね。
クイネさんはスールガで寿司屋を営む大学生のお兄さんだ。女の人みたいな名前だね、と言ったら殴られそうになった。テンプレらしい。因みにこの名前にしたのは寿司食いねえから取ったんだそう。店の名前もスシクイネだしね。
ヨーナやサクラ、トヤマさんとは離れちゃったけど合流は何時でも出来るしね。今は作戦通りに事を進めよう。今回のイベントはちゃんと参加したい理由もあるからね。
イベントの告知があったのは一週間前、学校が始まってから最初の日曜日の事だった。今回のイベントは前回、前々回とは違い任意の参加でイベントの前日が締め切り。その事もあってか、イベント内容も詳しく記載されていた。
イベント名は《失われた栄華の群島で宝探し》で、宝探しと言っても探すのはポイントの入った宝箱。イベント終了後に所持ポイントを景品と交換が出来き、武器や防具、アイテムを始め様々な物がラインナップされている。中でも注目は空飛ぶ島だろう。どの景品も何ポイントで交換出来るのか分からないため、妥協点を見つけるのも難しいと思う。
肝心の期間だけど、時間調整だか加速だかがどうのこうので、現実の一時間で一日が経過する特別サーバーで4日間、つまり四時間で終わるんだそう。短いけど長いって不思議だよね。
ルールで一番重要なのは、限定的なPvPが適用されている事だろう。これは各島の二カ所に配置された武器庫にある専用の武器でプレイヤーを攻撃し、体のどこかに当てることが出来れば、相手のポイントを奪えるのだ。
宝箱から得られるポイントは百ポイントで、日付が変わることでランダムに再配置される。景品の交換レートが不明のため、より多くのポイントを得るならプレイヤーとの勝負は避けられない。私達も気をつけないとね。
そして意気揚々とイベントの日を迎えた私達だけど、その日届いたクエストが問題だった。内容はイベントで一万ポイントが入った宝箱を見つけること。この一万と言う数字から、交換レートを予想するとのんびりしていられないんじゃないか、と言う話になり、全力でイベントに挑む事になった。どうしても空飛ぶ島が欲しいのだ。
そして特別サーバーへの転移時にランダムで振り分けられたらスタート地点で、偶然にもクイネさんと同じ場所だったって訳だ。
「で? それを俺に聞かせたって事は協力しろってことか」
「そゆこと」
「わかった。俺も任意でバフをつけれる包丁に興味があるからな。チートプレイヤーがいるなら心強い」
やったね! 仲間が増えたよ。クイネさんならトヤマさんと仲がいいし、チームワークが悪くなることは無いだろう。トヤマさんは、みんなでクイネさんの寿司屋に行ったときに寿司の味に惚れたらしく、ログインしたときは毎回師匠とタツノを連れて飲みに行ってるみたいだからね。春は近いのかな?
そんな会話をしているとき二人組の男が此方に勢いよく駆け寄り、スポーツチャンバラで使われるような刀剣タイプの武器を振りかざしてきた。
「ポイントおいてけぇぇぇ!!」
どこの妖怪だよ。勢いよく飛びかかってきたその男達をを空中で静止させ、せっかくなので武器も奪っておく。この武器は特殊な仕様で、オブジェクト扱いとなっており、装備することが出来ない分自由に奪ったりも出来る。その代わりアイテムボックスにも仕舞えないので、多くを手元に置いときたいなら拠点を作らないといけないのが厄介かな。
「くそっ! 何故動けんっ、武器を返せ!」
「楽に武器を確保出来たのは良いが、ポイントを持ってない俺達を襲うのか。厄介だな」
人事じゃないしね。ポイントを持ってない人を襲えば無駄足になるし、逆にポイントを取られてしまう可能性もある。ポイント所持を判断出来る何かがあれば良いんだけどね。
まぁ、その前にやらなきゃならないこともある。私達のスタート地点である地面を掘り返してみれば、私の目で確認できた通りに二つの宝箱がそこにはあった。
「足元にあるとか、よくわかったな」
「サクラがスタート地点は要注意って言ってたからね。確認しといたんだよ」
「ポイントよこせぇぇぇ! 俺達はどうしてもユイナちゃんの限定ブロマイドが欲しいんだよぉぉぉ!」
ユイナちゃん? あぁ、劇場でアイドルがライブをやったって話あったっけ。その人かな?
「そのくらいなら宝箱分でも行くんじゃないか?」
「足りん! 百枚は欲しい」
「そうだ! 数こそ愛情なのだ!」
得点付きのCDじゃあるまいし、何がこの人達をそうさせるんだろう? 愛情の故か。
とりあえず男達を解放してから、安全の為に直ぐにクイネさんを連れて転移。人気の無いところに着いたら地中に仮の拠点を作り身を潜めつつ、今後についてを話すことにした。
「本当に何でも出来るんだな」
「出来ないこともあるけどね」
土の中に空間を作っただけの簡単な作りだけど、一時的ならこれで十分。太極図は何でも出来そうだけど、プレイヤーの装備を奪ったりは出来ないから、悪事なんかは出来ないね。
落ち着いたところで、今後のこと。私達は今日一日はスタート地点の島の探索と、拠点に良さそうな場所を探す事を目的としている。私の場合は二十ある島全部を目に通さなきゃならないけどね。優秀なのは辛いことなのです。
「なら、ここで暫く観察しておいた方が良いだろうな」
「そうだね。一通り見ておくから、暇つぶしでもしててね」
そう言って、直ぐに視線を他の島々に向ける。とりあえず目を通すだけにしておいて、武器庫の場所なんかはスルー。島の中は失った栄華だけあって朽ちた街並みだったり、遺跡だったりが数多く残っている。こういう所にも宝箱はあるんだろう。
すると、トヤマさんがいる島に他とは違うより豪華な遺跡があるのを見つけた。朽ちていると言ってもその装飾は豪華で、ヨーロッパの古い神殿のような見た目だけど、此処しか無いとなると王城かなんかの可能性もあるかな? 中は靄が掛かったように見えなくなっているし、トヤマさんに確認してもらった方が良いかな。
『トヤマさーん』
『はいはい、どうしたの?』
『その島に一際豪華な遺跡があるの。余裕があったら探索もお願いね』
『わかったわ。武器を得たら行ってみるわね』
そっか、遺跡なら待ち伏せなんかにも使えるから武器が無いと危険か。気をつけてね、と一言告げて通信を終える。
「何か見つけたのか?」
ゲームしながらも、突然始まった通信に興味が引かれたのか、質問してくるクイネさんに遺跡の事を伝える。すると暫し思案顔を浮かべた後、ある提案をしてきた。
「やっぱり怪しいよな。遺跡もそうだが、ポイントを奪い合うのに所持ポイントの判別だけじゃなく、奪われないようにする方法もあっても良いと思うんだ。遺跡に何かないか調べられないか?」
ポイントを得る前にやっておくべき事があるんじゃないかって事かな? もう一度、今度は注意深く見てみよう。先ずはこの島だね。
この島にある遺跡を隈無く探してみると、鍵付きの扉の奥にポイントの入っていた宝箱とは見た目が違う宝箱を見つけた。確認してみようとクイネさんに断りを入れ、転移して開けてみる。
入っていたのはポイント管理機。見た目は真四角のメタリックな箱だけど、触れると専用のウィンドウが出現して、ポイントを貯めておくだけじゃなく、拠点に置けば所有者の指定するプレイヤーもポイントを管理機に貯めることが出来、尚且つ所持ポイントを見れるようになる物だった。
貯めたポイントは指定した全員に分配出来るし、関係ないプレイヤーなら管理機からポイントを奪うことも出来る。便利だけど、人によっては悲しい悲しい争いが起こりそうだ。
クイネさんや他の島にいる三人に報告すると、私達に拠点建設の任が与えられた。なるべく安全な所が良いよね。奪われたら洒落になんないし。
「よくよく考えれば地中以上に安全な場所なんて無くないか?」
そんなクイネさんの尤もな意見により、今いる仮の拠点を一般的なリビング風に改装し、個人部屋を人数分追加して快適な場所を作り出した。華麗なるビフォーアフターなのです。
「風呂付きの拠点とか豪華すぎるだろ。まぁ、良いか。後は鍵の存在だな」
鍵付きの部屋はまだ幾つもあったし、うまく行けば他のプレイヤーの妨害に繋がるかもしれない。ポイントを得ることと平行して鍵の捜索を行うため、私達は漸く本格的な島の探索を行うことにした。