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50. 窮鼠猫を噛む

「「かんぱーいっ!!」」


 苦楽を共にしたサクラとの一杯。これがお酒なら格好がついたのかもしれないけど、私達はまだ未成年。大人しくコーラで乾杯し、今はこの喜びを分かち合おう。


 トヤマさんからログイン禁止を言い渡されてからはや一週間。私の家で行われた陽菜監視による勉強会は、少しずつでもやっていた私は三日で終わらせることが出来た。

 問題は初日の勉強会から全く手を着けていなかった桜だ。最初は真面目にやっていたものの、徐々に愚図り始めた桜を励ましつつ、ちょくちょくログインしている陽菜を呪いながらもなんとか耐えきり、私達は自由を得たのだ!

 その間に夜になると監視のつもりなのか、戸山先生が店にやってきて、お母さんがくれた応援の品、唐揚げを摘みながらハイボールを飲んだくれていたのは若干うざかった。


「これで一安心ね。私のクラスから宿題未提出の人なんて出したくないもの」


 一週間ぶりのログハウスが少し新鮮に思いつつも、随時お菓子を出しながら乾杯したコーラを飲み干す。トヤマさんはお酒は飲んでいないものの、どこかすっきりとした様子。

 でも、私達以外の人も居ること忘れちゃ駄目だよ? 何人かやってこなさそうな人居たと思うし。まぁ、今はそんなこといいや。この地獄の期間の間クエストが貯まってるんだ。それを肴にコーラを楽しみながら残り五日となった夏休みにやるに相応しいクエストを選んでいこう。選んだところでまた増えるだろうけどね。


「先ずは、琵琶湖の隠しルート!」

「却下だ。時間かかるだろそれ」


 一つ目のクエストはあえなく却下。他の皆もヨーナと同じ意見のようだ。続くチキチキ発掘大作戦のクリアも却下されたけど、あれまだクリアされてなかったんだね。


「次は、東海道を歩こう」

「残りの夏休みを歩き旅に費やすのは嫌ですわ」


 私もそう思う。運営の中に旅好きでも居るのかな? 他にも熊野古道を歩こうなんてのもあった。夏休みの旅はお伊勢参りで十分だし、気軽に遊んで達成できるような物が好いよね。


「アイドルグループの結成」

「運営は何を望んでいるのかしら?」


 劇場があるなら誰かやるだろって事なのかな? トヤマさんはもちろん、私達もやる気はないし、他の人に任せよう。歌って踊って戦っての狐巫女なんて方向性がおかしいよ。

 次の自主映画放映も却下。私達にそんなセンスは無いよ。サクラの情報ではヒーロー戦隊っぽい集まりが在るそうだから、その人達に期待しよう。


「最後はアトラの撤退戦のクリア」

「あのブーメランマッチョですわね」

「あの筋肉の温もりは忘れないよ」

「何があったんだよ」


 とりあえず、あの時の事を説明しよう。MPも無くなり神速通も使えず、背後から聞こえる機械音と筋肉の音に怯えながら逃げ惑ったあの時の事を。


「ドローンが厄介だな。でも、今のアオイならどうにでもなるんじゃないか?」

「そうね。姿を隠してれば良いのだし、やってみましょうか」


 本当に大丈夫かな? 苦手意識があるのか今いち自信がもてないや。






 アトラの冒険者ギルドで受付を済ませ、意を決して外へ出る。あの時と同じ様に一体のブーメランパンツを履いたマッチョロボと無数のドローン。


「アオイちゃん、先ずは私達の転移をお願いね」

「わかったよ」


 事前に決めたとおりに三人を街の隅の方へと転移させる。ドローンは私達と同じ様にこの場所からのスタートらしいし、これで距離を取る作戦だ。

 すかさず私も透明になってみる。これであいつらが見失ってくれれば楽なんだけど、うろうろとその場を歩き回ってみるとこちらを追うように動くドローンのカメラとブーメランマッチョの視線。無理そうだ。大人しく私も転移しよう。


 外に出てから十秒後から開始される追跡と攻撃。素早く散開し、逃げるヨーナ達に寸分の狂いもなく追っていくドローンを、ビルの室内より千里眼のように観察していると少し違和感を覚える。

 今、私も発見されマシンガンのような光弾を窓越しに撃ち込まれるも、寸前で転移しその場を離れる。しかし、完全に行動を監視されているように直ぐに追いすがるドローン。


『なんか、ドローンの動きが正確すぎない?』

『上空からの監視でなくて?』

『ビルの中でも見えるのかな?』

『透視機能でも付いてんのか?』

『疑問だらけね。アオイちゃん、もう少し観察を続けて貰えるかしら』


 直ぐにフレンド通信をグループモードにして皆に繋げ、違和感を伝える。みんなの応答を受け、ビルの屋上や公園など見晴らしがいい場所へ転移し上空を見渡せば、確かに上空に私達を追わずに滞空しているドローンがいた。今度は転移を繰り返しながら島中を見渡し、死角の多い場所を選んで転移してみる。

 しかし、当然のよう数秒も経たずに発見され転移を余儀なくされる。確かにドローンは街全体に散開しているため、発見される確率も高いのも分かる。だけど、これはいくら何でも早すぎる。


『死角が多い所でも直ぐにドローンが来るよ! やっぱりなんかおかしい』

『監視塔でもあるんですの?』

『この摩天楼では監視塔があってもカバーしきれないはずよ』

『すまん、捕まった』


 早くもヨーナがリタイアだ。一応監視塔の線でも探してみようと、一番高いビルや空港の官制塔を見てみても特に何もなさそう。


『アオイさん、地下で様子を見てくださる?』

『地下なんてあるの?』

『マンホールね。確かにあれがあるなら地下はあるでしょうね』


 そうか、ただの飾りでマンホールなんて置くわけ無いもんね。直ぐにマンホールの所に行き、すり抜けるようして地下に侵入すると、そこは下水道のような所。蜘蛛の巣のように張り巡らされたそこを、透明になりかき乱すように闇雲に進み待機してみると、背後から機械音。振り返ってみると、ブーメランマッチョがダブルバイセップスのポーズで待機していた為、直ぐに地上に転移。


『マッチョに見つかった!』

『透視の線で確定かしら?』

『違うよ! 私の透明化は自慢じゃないけど、そう簡単に見つからないようにしてるから』

『なら……、地面に何か細工されていて、プレイヤー自体を感知しているんですの?』 


 地下でも分かるんなら、私はそうだと思ってる。もしかしたら私の実力不足で完璧な透明化になってないかもしれないけど、念のためにそう考えて行動した方が良いと思う。


『二人とも、空飛んで!』

『何をって……、まさか、本気ですの!?』

『わかったわ、見つかる確率が高まるから早めに助けに来てちょうだい』


 通信により二人に空を飛ぶように頼み、飛んだことを確認すると、全力で力を振るう。ちょっとでも格好つけるために、地面を思いっきり殴る感じで!


『うわぁ、アホみたい』

『とんだファンタジーね』


 爆音と共に街全体の地面から生える巨大な土の刺。ビルさえも崩れ落ち、都会の様相は一変。平らなところは私の立つ場所だけだ。思わず素に戻ってるサクラと同じ様に、正直ここまで出来るとは思わなかったけど、今は行動第一。空を飛ぶ二人が捕まる前に回収して、ドローンを振り切り刺の影に隠れる。数分経ってもドローンに発見されないことから、この行動は上手くいったみたいだ。


「後は転移で逃げ切るだけだね」

「こわぁ、この子マジ怖い。ずっと一緒にいて」

「ホントね、PvPのイベントがあったら敵対したくないわ」


 サクラの告白紛いはスルーだけど、私としても皆と敵対したくないけどね。


 その後は順調に転移で逃げ切り、無事にクリア。アトラクションは別空間だかサーバーだかで、クリアしてしまえば街も元通り。冒険者ギルドでヨーナと合流した後、景品として転移マーカーも受け取ったけど、捕まった後も観戦していたらしいヨーナが怖い怖いと鬱陶しかった。私は危険人物じゃ無いよ? ホントだよ。


 もし、プレイヤーに反応してるならモンスターを連れて行っていれば良かったんじゃないかと思い、ちょっぴり自己嫌悪したのは内緒。


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