48. 夏の寒さ
「スノーボードしに行こう!」
「おっ! 良いじゃん、行こうぜ!」
「今度はどんなクエストですの?」
リビングに下りるやいなや、テーブルにつき先生にコーヒーを淹れて貰って寛ぐサクラとヨーナに直球で問うてみる。野球行こうぜって感じのノリで言ってみたけど、流石にサクラは乗ってこなかったのは残念だ。
今朝届いたクエストメールの内容は、第二大陸にある山脈の中で唯一全てが雪に覆われた山、エスト山。その山を山頂から麓まで、スキーやスノーボードで滑り降りること、二人にそう説明してみると感想はバラバラ。
「簡単そうだな」
「厄介なモンスターでも居るんですの?」
「一番厄介なのはスノーゴーレムですね。普通の雪とは見分けが付かないので、攻撃を避けるのは大変ですよ」
一応称号があればその存在が分かるため、用心していれば避けることも出来るみたい。だだ、そのタイミングがシビアなため他のモンスターに気を取られている内に、って事が多いらしい。
「挑戦している人は居るんだね」
「挑戦とは違いますが、あの山脈は現状、唯一雪のある場所ですからね。ウィンタースポーツを楽しむ人もいるそうですよ」
今はまだまだ夏真っ盛りだし、危険はあっても滑れるなら行きたいって言うのが人の性かな?
「行くなら早く行こうぜ。先ずは麓で雪遊びだな」
「雪合戦とか良いかもね! 私達にしたら雪なんて珍しい物だし」
「目的を忘れては駄目ですわよ」
そうは言っても、私達は年に数えるほどしか雪が降らない場所に住んでいるんだ。雪が積もるなんて基本無い。ちょっとの寄り道くらい許して欲しいもんだ。
結果、サクラも大いに楽しみ雪遊びは昼まで続いた。最初は先生からトナデカイの彗星号の為に雪だるまを作った方が良いとアドバイスを貰ったため、三人で思い思いな雪だるまを作った。
「何でヨーナはこんな達磨を作ったの?」
「雪だるまが達磨で何が悪い」
「そう言うアオイさんは何で招き猫なんですの?」
「白かったから」
唯一シンプルな雪だるまを作ったサクラを普通だ、普通だと煽ったあげく始まった雪合戦。魔法も太極図も使わず、ゲームならではの身体能力を生かしたこの合戦はなかなか終わらず、これが昼まで続く要因となった。
そして昼過ぎ、昼食を食べて再びログインした二人とともに山頂より少し上の空間に作った椅子に座り、ボードを足に装着しながら暫しこの雄大な景色を楽しむ。
岩肌すら見えないすっぽりと雪に覆われた山が、遥か下まで広がっている。木々や岩などの障害はなく、角度もそこまで急じゃない。モンスターさえ出なければウィンタースポーツを楽しむのに打ってつけの場所に感じる。
「形としては富士山が尖ったって感じか。角度も良いし、後はモンスターか」
「いざとなったら私がフォローするよ」
「いっそ全て倒してしまっても良いのですよ?」
そんな決め決めの台詞も、行動も致しません。
準備も整い、椅子を消していざ着雪。滑り出しは上々だ。伊達にサンドゴーレムの時に練習してないからね。
今のところスノーゴーレムは確認出来ないとしても、他のモンスターの姿も見えない。先生によれば、ここに出るモンスターはスノーゴーレムの他にスノーラビットとスノーパンサー、そして雪熊。何れも白く雪が保護色となり見えにくく、動き出さないと姿を確認することもままならないらしい。
「モンスターを炙り出したりとか出来ないのか?」
「下手になんかやって、雪崩でも起きたら洒落になんないんだけど」
「それすら何とか出来そうですわよね」
出来そうだけど、先ずは楽しみたいじゃん。そんな事を言っていると、何か身の危険を感じた。二人はまだ気付いてないみたいだ。
「飛んでっ!」
私の掛け声と共に一斉にジャンプすると、下には行く手を遮るように棘が突き出ていた。あのまま進んできたら串刺しパターンだ。そんな演出は無いんだけどね。
「ホント、注意深く見てないと気付かんな」
「他のモンスターも近づいてきてるっぽい」
言ったそばから、スノーラビットが雪中より飛び出してくるのを光弾で撃ち落とす。ヨーナは背後から迫るスノーパンサー大剣で斬り伏せ、サクラは掴みかかろうとする雪の手を巧みなボード捌きで回避していた。
「それぞれ距離を取った方が良いかもしれませんわ」
「だな、お互いがぶつかったら洒落にならん」
「じゃあ、誰が一番下まで速く着けるか競争ね!」
その言葉を最後に私は右へ、サクラは左へと進路をとる。ここからは勝負の世界だ、短刀を数本取り出し自分の周りに回転させながら滞空させる。これ操っていればモンスターは大丈夫だろう。あとはスノーゴーレムの攻撃を避けながら進むだけだ。
もう中腹まで来ただろうか、襲ってくるモンスターに雪熊が増えたところで問題は無いのだけど、スノーゴーレムの攻撃がいやらしくなってきた。単純に攻撃してくるよりも、どこか進路をずらそうとしてくる。これが物理攻撃ならすり抜けてただ真っ直ぐに進んで行くだけだけど、尻尾が妙に反応するからおそらくただの物理攻撃じゃ無いんだろう。
あまりやりたくないけど太極図でも活用して、無理にでも突き抜けた方が良いかなと考えていると背後で轟音が響き、猛烈な勢いで雪崩が迫っていた。
これはチャンスかな? 雪崩を上手く乗りこなせば、他のモンスターは無視できるだろうし、もしかしたらスノーゴーレムを手を出して来ないかもしれない。
太極図無しでもいけるかな? 無理だよね。大人しく雪崩にのまれないように太極図で安定させる。あーあ、せっかくの勝負だし、なるべくこういう使い方はしたくなかったけど仕方ない。
かなり規模の大きい雪崩だったのか、大分距離は稼げた。そもそもこの雪崩自体がスノーゴーレムだったらしく、足元に名称が確認できるのが地味に怖かった。幸いそれ以上の攻撃は無かったため、雪崩が収まってきたタイミングで、風を操り一気に麓まで滑り降りて行く。一度使えば躊躇ってられないからね、他のモンスターもスノーゴーレムをも振り切って驀進。ところで、どこで止まればいいの?
結局、雪の終わりまで滑りきり多分ゴール。二人に連絡したところ、もう少し掛かるそうなので、草原でのんびりしているだろう、他のモンスター達の為に雪を回収していく。太極図を活用して作った雪専用ボックスだ。そり遊びぐらい出来そうな分の雪を持って帰ろう。
そりで遊ぶゴーレム三人娘の楽しそうな顔を見ると持ってきて良かったよ。気温が関係ないから溶ける心配もないし、良いものだね。
「早く普通に滑れる所が欲しいよな。そこならアオイにせこい手使わせねーのに」
「人聞き悪いこと言わないでよね」
「なら、チートプレイヤーは失格として、ヨーナさんより先に着いた私の勝利で良いですわね」
「そこは無効だろ!?」
特に何か賞品があるわけではないから文句は言わないけど、ヨーナはこの手のスポーツは好きだから納得できないらしい。ここは和ませるべきかな?
丁度、雪だるまを食べてトナデカイスカイに進化した彗星号が元気に空を駆け回ってるし、このネタでいこう。そっと彗星号を指差し二人の興味を向けさせる。
「あの姿を見るとクリスマスが待ち遠しいですわね」
「トナデカイですかいっ! なんてね」
「「……」」
冬の訪れは早かった模様。




