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2. 開始!

『お名前、種族、アバターをお決めください』


 次の日の朝。


 朝食をしっかり食べた後、初期ログイン地点である噴水広場を待ち合わせ場所にして、三人揃って仲良くゲーム開始。


 読み込み時の演出なのか、綺麗な草原の映像の後に視界いっぱいに広がったのは、ログハウス風の室内に姿見とドアがあるだけの簡素もの。


 そして周囲に響く声を聞いて、まるで此処が現実の様な空間だけどどこか違うものだと認識できた。


 アナウンスがなければ、現実と勘違いしてもおかしくないかも。VRって思ったよりも凄いみたい。


 さて、初めての体験に感動するのは後にして、先ずはこの設定を終わらそうか。


 名前は被っても問題ないそうなので、簡単にカタカナにしただけのアオイに決定。


 種族は人間に、犬・猫・狐の獣人、そしてエルフがあり、その中から狐の獣人を選ぶ。


 だって狐可愛いもんね。


 アバターは最初の設定の時に取り込んだ全身画像があるからそれを元にして、現実からあまり変えずにセミロングの金髪に青い瞳、と。


 うん、狐っぽいイメージってこんなもんだよね。


 後は、胸も少し盛っとこう。少しだけ、ホントにホントに少しだけ。


『此方でよろしいですか?』

「はい、大丈夫です」


 全てが完了し、姿見で姿を確認した私の姿に満足して返事をする。


 うむ、丁度いい感じの巨乳に出来た。これはとても夢があるものです。


『メニューと口に出して呟くか、頭の中でそう念じるとメニューウィンドウが表示されます。閉じる時も同じ要領でございます。ご不明な点等ありましたらヘルプをご覧ください。では、ドアから出ていただきますとゲーム開始となります』


 随分あっさりとした説明だけど、面倒なチュートリアルがないのは大歓迎かな。


 さあ、最新VRゲームの力を見せてもらおうか!


 なんて意気込んで開いたドアの先は、想像以上に凄いものだった。


 噴水の水の動きも、触ってみた冷たい感触も、まさにリアルそのものと言っても過言じゃない。


 西洋中世風の街並みなのに、遠くに現実そのまんまの富士山が見えるのは違和感があるけど、飛行機並みに大きいドラゴン達が空を飛ぶ姿はまさにファンタジーそのもの。


 でもね、そんなファンタジー以上に興味をそそられるものがあるのです。


 噴水の縁に腰掛け、待ち合わせをしている二人を探しながらも、なんとなく感覚で動かせる尻尾を目の前に持ってきて、両手でもふもふ。

 

 自分の尻尾だからかちょっとこそばゆいけど、毛並みがとても気持ち良くて癒されるよ。


 あぁ、獣人にしてよかった。


「にやにやしてんなあ、そんなに気持ちいいか?」

「毛繕いにも見えるわね」


 そんな癒やしの時間に水を差すのは誰ですか!


 なんて思わず突っ込んでしまいたいけど、待ち合わせをしていたのだから仕方のないこと。


 それより探す手間が省けたと喜ぼうかな。此処って結構人が多いし。


 そんな訳で、早速フレンド登録なのです。


 フレンド登録をしておけば何時でも連絡が取れるから、誰かが迷子にならない内にやっておかなければならないの。


 登録自体はとても簡単で、登録する意志を込めてお互いの人差し指を合わせるだけ。


 きっと、運営の中にあの映画のファンがいることだろう。間違いない!


「二人ともあんまり変わってないね。一人エルフだけど」

「変わりすぎても馬鹿にするだろ、お前ら」

「あら、可愛らしいヨーナも見てみたかったのだけど」

「やらねーよ」


 名前も同じ様にカタカナだし、私達はみんな揃って面倒くさがりなんだね。


 アバター自体も指を合わせる際にまじまじと観察してみたけど、ヨーナに関しては髪と瞳の色を茶色に変えただけみたいだし。


 いやはや、弄っていない天然の巨乳は恐るべし。


 そしてサクラは青みがかった銀髪ロングの眼鏡エルフで、リアルと違い胸をぺったんこにしてる。


 それに加え、喋り方も少し変えてお嬢様風のロールプレイをするみたい。


 昨日寝る前に話していたけど、風って言うのが大事なんだそう。


「お兄さんは、まだなのかしら?」

「どうだろ? 目立つように執事みたいな格好しとくって言ってたし、目に入れば分かると思うけど」

「良かったな、お嬢様。執事が来るってよ」

「下心のある執事は御免だし」


 思わず素がでてるサクラだけど、お兄ちゃんならしょうがない。だって、見た目がいいだけの変態だもん。


 でもそんなお兄ちゃんだけど、今回デビュー記念と称して武器と防具をプレゼントしてくれるみたいなの。


 流石、武器防具に加えてアイテム類、そしてお金まで引き継げるβテスター。私達に似合う物を作るんだと、張り切っていただけのことはあるよ。


 この欲望の権化め!


「おっ、あれじゃないか。本当、見た目だけはいいよな」

「巨乳な姉は要りませんよ?」

「ぶっ飛ばすぞ」


 からかいつつもヨーナが指差す先を見ると、其処には此方に気がついたのか、にやついた笑みで駆け寄ってくる人間の執事。


 ビシッと決まった燕尾服に白いネクタイ、モノクルといった格好をしていて、もっと渋い人の方が似合うのになぁと個人的には思う。


 お兄ちゃんは見た目は爽やかな好青年なのだ。


「うっは、愛しの妹可愛すぎ! 友達達もいい感じだなぁ、たまんねぇ。初期のボロっちい感じの服もそそるけどさ、これなら用意した甲斐があったってもんよ! フヘヘ。あっと、フレンド登録しないとだよな、そうすれば譲渡出来るようになるし」

「早速飛ばしてんぞ、この人」

「これさえなければなあ」

「ごめんね二人とも。うちの兄が」


 早速ハイテンションで登場するお兄ちゃんに、思わず顔が引きつるお二人さん。


 顔には出てしまうけど、二人とも付き合いが長いから気持ち的に引いたりはしない。だって、いつものことなので。


 とりあえず装備の為にお兄ちゃんの言う通りフレンド登録はしておくけどさ、お互いの指を合わせるだけで、うっひょっー! と興奮するのは流石にうざい。


「じゃあ、早速譲渡するぞ。攻撃力や防御力なんかの表記がないこのゲームだから性能がいいとは断言出来ないけど、βの時点でもっともいい素材を使っている。当分はこれでやっていける筈だ」


 そんなうざったい感じから一転、アイテム譲渡のウィンドウを操作しながら話すお兄ちゃんは真面目そう。


 自分の作った装備なんだし、拘りでもあるんだろうね。


 大事な点だけど、このゲームには攻撃力や防御力なんかの表示はないの。


 あるのはHPとMPだけで、初期HPは1000、MPは500だったかな?


 勿論、いい武器は敵を倒しやすくなるし防具は受けるダメージが少なくなる。


 ただ、目安に出来る物はHPだけなので、どこまで行けるかは自己判断って訳なの。


 気をつけないと一撃死もあるみたい。


 一応攻撃力などをあげる方法もあるそうで、それがこのゲームの肝となる称号システム。


 様々な行動によって取得出来るみたいで、各能力アップの効果以外にも、身体能力などに掛かるアシストなんかもあるらしい。


 例えば、初期称号である【冒険者】には戦闘行動に対するアシストがあるんだけど、それは体が勝手に動くぞ! なんて言うものではなく、動きやすくなる程度なものなんだそう。


 ま、そんなことよりも、今気になるのはやっぱり装備だよね。


 メニューの装備を開き、譲渡して貰った物を装備していく。


 オプションの項目には姿見もあるので、こういう時に便利だよね。


 早速、姿見を開いて今の自分を見てみると、そこに映し出されたのは、巫女服を纏った私。


 切れ目が入り露出した肩に、手には黒いオープンフィンガーのグローブ。


 下半身は赤く底の厚い草履に、脛宛で裾を巻き込んで膝あたりが膨らんだ赤い袴。


 うん、ただの巫女服では断じてない。


「どこのキャラクターなのさ!?」

「狐獣人にするって言ってたからな。これが鉄板だろ? いやぁー、眼福眼福!」


 やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだったよ!


 他の二人の格好も見てみると、ヨーナは銀と白と青が基調の女らしさがある鎧で、二の腕までのガントレットに、腿まで覆うグリーブ。


 やっぱりというか肩が露出していて、ミニスカートで絶対領域も出来ている。


 サクラはヨーナとは真逆と言った感じで、黒いシンプルなローブを纏い、その中はノースリーブスの黒いワンピースに黒いニーソックスにブーツ。


 そして、またまたやっぱりというか、ローブの肩の部分は切れ目が入り露出している。


 こいつ、肩フェチらしい。


「いや、私だけなんか毛色が違くない!?」


 この際肩は置いておくとして、私だけ和風ってバランス悪いと思うんだけど!


「おっ、獣人だけに毛色が違うってか! うまいこと言うなあ」

「もしかして、兄弟で打ち合わせでもしてたんじゃないかしら?」

「ちっがーう!」


 こんな下らない事で、打ち合わせなんてしないっての!


「おっと、そうだ。アオイとサクラの袖にはアイテムポーチの効果が付いてるから、袖に手を入れれば取り出せる。ヨーナのはなるべく鎧に合うようにしたけどな」


 はぁ、なんだか便利そうなものを付けてくれたのなら許してやろう。


 アイテムポーチは、アイテムボックスを開かなくても、ポーチから取り出せるサイズのアイテムならば手を入れアイテム名を念じるだけで、取り出せる物だそう。


 袖に手を入れて、アイテムを取り出せるとか格好いいよね! でも、二人みたいな洋風な装備も憧れちゃうなぁ。


 いやしかし、丁度いい感じの巨乳が和服でぴっちりする感じもなんだか良いかも? ふへへ。


「なに自分の胸触りながらにやにやしてんだよ」

「そういうところは兄弟そっくりですわね」


 二人の言うことは気にしないもん。


「ところで、お兄ちゃん。名前がセバスチャンってなんで?」

「全ての女の子の執事を目指そうかと思って」

「「「ひでぇ」」」


 こんなのと一緒にされるのはやっぱ嫌だ!


「それじゃあ、装備も渡したし、俺は行くよ。別の街に拠点を作ることにしたからさ」


 そう言うと逃げる様に去っていくお兄ちゃんは、きっと私の心情を察したのだろう。


 文句はあっても装備を貰ったからには感謝しないと、と思い後ろ姿にお礼だけは言ってお兄ちゃんを見送る。


 それにしても別の街か。


 このゲーム、広いだけあって交通網はちゃんとしているらしいんだよね。街と街は街道が整備されてて、無料の駅馬車もあるそうだし。


 空にしたって有料だけど、ドラゴンを利用した飛行便があるしね。


 好きな場所に行って冒険が始められるのは魅力的だと思う。観光目的もいいと思うしさ。


 因みにここはスールガの街。運営にネーミングセンスは期待しちゃいけないのです。


「私たちはどーすんだ? 飛行便に乗ってどっか行くか?」

「とりあえず、魔法組んで戦闘してみるのがいいんじゃないかしら? ヤーイズなら歩いてでも行けるような距離のようですし」

「おお! それいいかもね! 私も早く魔法使ってみたいし!」

「んじゃ、そうすっか。アイテムは買ってった方がいいんかな?」


 装備も整い次の目的も決まった。ならば行動開始と行きますか。


 このゲームには、パーティを組むような機能はないし、そこは結構気が楽だよね。


 それよりも肝心なのは、初期金だけでなにをそろえられるか。


 与えられたのは10000ゴトーで、ゴトーはゲーム内のお金の単位なの。なんでも運営制作会社の社長の名字が元らしいね。


 果たしておやつを買うだけの余裕はあるのだろうか。まぁ、魔法の方が楽しみだけどね!


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