43. 運営公認チートプレイヤー
第三大陸で冒険してくると言うヨーナと、鬼ヶ島に鍛練へと向かうサクラと別れ、一人フジヤマの温泉に浸かりあることを考える。
このまま上手く行けばMリーグのチャンピオンになれるだろう。驕りとか慢心とかは無く、フィナならきっとやってくれる筈だ。だからこそ、あることが頭に浮かぶのだ。私も闘技場なんかでチャンピオンになりたいなって。
サクラの見立てでは、闘技場があるならイベントがあって然るべきだとか。そのためにサクラもヨーナの自身の事は隠して励んでいるんだ。きっと一筋縄じゃいかない。
それに私達以外にも当然プレイヤーは沢山いるんだ。私以上に神速通を使いこなす人や、まだ見ぬ力を持った人たちもいるだろう。それでも、やっぱり確実に勝ちを取りに行きたい。
まぁ、そんなことつらつら思っても、やっぱりフィナの主人である以上強くありたいって思ってるだけなんだけどね。どんな事でモンスターの反乱が起こるか分かんないし、強くあることは良いことなのだ。みんなそんなことしないだろうけどね。
「修行場所? そうじゃな、お主ならヒョウゴ領のハニワンダー道場が良いじゃろう。サクラの奴も偶に通っておるよ」
ハニワンダー道場は、埴輪型モンスターであるハニワンダーの軍隊を壊滅させると言うダンジョンだか、アトラクションだかわかんないやつだ。ここの魅力は拠点さえ落とさなければ、ハニワンダーが無限に現れるという点と制限時間が無い点だ。
鬼ヶ島と違い敵が弱いため、濃い戦闘経験が欲しいなら鬼ヶ島の方が良いらしいけど、今私に必要なのは戦闘回数だから鬼ヶ島よりこちらの方が良いらしい。そんなことより、サクラめ! 黙って美味しい思いしてたな!
早速準備してヒョウゴ領へ向かう。今回の同行者はクロで、タツノがどうしても連れて行けと押しつけてきたのだ。なんでもクロは運悪く攻撃を受けることは無いから乱戦でも安心だと言う。それ運悪いのかな?
大きな看板が目印の道場と言う名の戦場に着き、神速通で来ていたため石に戻していたクロを出して看板の先へ。この先は個人フィールドに切り替わり他の人を気にせず存分に戦えるみたい。
フィールドは見晴らしの良い草原で、見える限り塀に囲まれた場所が四つ程見える。あれが拠点で、あの中で一定数ハニワンダーを倒すと拠点陥落になってしまう。あそこには近付かないようにしないとね。
此方に気付いたハニワンダーが、続々と拠点からの出て来るのが見える。ここからが肝心で、なるべく神速通を使うよう意識し、尚且つ他の魔法も使いつつ刀も振るう、それがタツノの言い付けだ。正直いつも通りな感じだけどね。そのためにMPポーションはたんまり持ってきたし、夕飯までの時間みっちり戦おう。
凡そ三時間の間ハニワンダーを倒し続け、称号取得のアナウンスが聞こえたところでクロを石にしまい夕飯に向かった。神速通での戦い方も大分慣れ、神速通からの攻撃もスムーズに出来るようになったし、弓の攻撃だって楽に躱わせる。今なら師匠も瞬殺出来るんじゃないとかという謎の自信で溢れてる。最高にハイってやつだね。
手に入れた称号は二つで、【天下無双】と【魔戦の極み】だ。【天下無双】は攻撃を受けない限り攻撃力アップで、攻撃を受けると称号自体無くなってしまうらしい。【魔戦の極み】はMP+10000、MP消費半減の強力な物だ。
これで継戦能力も火力もアップしたし、ちょっとやそっとじ負けることもないだろうと思い、ログインしたらのんびりしようと考えていたら、待ちかまえていたタツノに捕まってしまった。
「ふっふっふっ、ついにその時が来たようじゃな、思ったより早かったのはお主の頑張り故か。ふふっ、では行こうかの」
「え? ちょっ!?」
「どこか行きますの?」
「ああ、今日は帰らんじゃろう。師匠も来るか?」
「勿論だ、こんな面白いことはそうそうないからな」
気分はドナドナだ。サクラに別れを告げ、タツノと師匠に腕を取られ引きずられるようにログハウスを後にする。他のモンスターはどこか知った風な顔をしていて、綺麗に整列して見送っている。なんか怖いんだけど!?
ログハウスからある程度離れた場所まで来ると、漸くタツノが今から行うことを説明してくれた。簡単に言えばMPが無い状態での戦闘とのこと。相手にするモンスターによって終了時間が異なるらしく、今回は時間が掛かるけど難易度低めの角ウサギを相手にするらしい。
「何でそんな事するの?」
「誰にも負けない力が欲しいんじゃろ? ならちょうど良いのじゃ」
「そうさ、皆が幸せになれるぞ」
なんか裏を感じるんだけど。まぁ、強くなるならこの際探らずにおこう。ちょうどよく目の前には角ウサギいるけど、タツノが仕込んでいたらしい。どこかキリッとした表情でこちらを見る角ウサギは、存分に付き合ってやろうと言ってるようで格好いい感じがする。
「さて、戦闘が始まったらMPを空にするのじゃ。そこからが本番だがの」
戦闘開始はどちらかが戦闘行動をとってからだ。どうせならと、外すようによんびーむを放ち戦闘開始。そのままよんびーむを打ち続けてMPを空にすれば、準備完了だ。その間、待っててくれている角ウサギの男気と言ったらもうね。
正直ここからは未知の体験だ。早い段階で神速通を得たから、自力で回避なんて龍星の時ぐらいかな? でも、あの時は空中戦みたいな物だからあまり参考にはならないしね。
いくら角ウサギが弱かろうが、この回避運動が長時間続くとなるとかなりしんどい。【不屈の精神】の効果で疲れにくいと言っても、慣れない行動もあって苛烈な攻撃に何度か直撃を食らってしまう。ダメージは無いんだけどね。だって無効だし。
あっ!? 避ける必要ないじゃん! うわーん! 今の苦労はなっだったんだ。どうせ時間が掛かるなら、割り切って攻撃を受け続けた方がよっぽど楽だよ。
「ははっ! 師匠、あやつやっと気付きおったぞ」
「一時間ほどか? 随分律儀な奴だな」
二人に取っては良い肴だろうね! くそう、飲兵衛共め、もう座禅でも組んでようかな? 角ウサギも終わるまで付き合ってくれるみたいだし。うーん、でもそれじゃあ悔しいな。よし! ここは最後まで避け続けてやろう。楽には負けないぞ!
そんな決意も二時間もすればとうに消え去り、無駄に角ウサギを捕まえ持ち上げてみたり、闘牛ごっこをしたり、ビームに貫かれた人ごっこをしたりと暇つぶしを考える方が大変だった。そんな苦痛の時間も日付もすっかり変わって計八時間を数えた頃、漸く称号取得のアナウンスが聞こえた。
手に入れた称号は【対極を知る者】で、効果は魔法機能が太極図に変化。私は魔法が売りのゲームで魔法が使えなくなると言う、よく分からないことになってしまった。今までの経験は何だったのか。あっ! 今までがあるから今があるのか。納得しとこう。
でも、そんな太極図だけど、強すぎると思うんだ。効果は只一つ、森羅万象を操る(なんでも出来る)事で、注意としてはMP量によって出来る範囲が増えていくって事かな? MPは単なる目安で減ることは無いみたいだし、今出来る事を把握しとかなきゃね。おっと、その前にここまで付き合ってくれた角ウサギをテイムしておこう。名前は相棒、今の私があるのはこの子のお陰だもんね。
「その称号を得るためには今回の戦いの他に、タヌキのテイムと【魔戦の極み】が必要なんじゃ」
「タヌキのテイムって……、えっ!? まさかあの時のって!?」
「称号の事を教えたバイトはアバターを変えた社長だ。どうも社長は、ログハウスを勧めた時から目を付けていたそうだぞ」
「そうじゃな、妾らもさり気なく誘導するように言われておったのでの」
社長のボーナスだったのか。けど、嬉しい反面なんか妙に納得できない。社長は警戒しといた方が良いかもしれない、面白そうな事に敏感そうだしね。とりあえず、相棒を出してモフろう。あぁ、癒される。どこかのエロウサギと違って大人しくて良いね。背中で語るって奴だ。
「まぁ、これでお主も運営公認チートプレイヤーじゃ。偶にクエストと称して社員ボーナス達成依頼のメールが来ると思うが、我慢してくれ」
チートプレイヤーって聞くと、ちょっと悪いものに聞こえちゃうけど、その言葉は単に普通にプレイするプレイヤーとの線引きみたいなものだそう。確かにゲーム性が違ってる気がするもんね。
ただ、他に良い言葉はなかったの? って思うけど、そこは納得しておこう。
でも、納得できない所もあるから、実力試しに二人の頭の上にタライでも出しておこう。明日にでも社長にもタライ攻撃だ。反撃なんて許してたまるもんか。