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42. 敗北からの

 Pリーグで勝ち星を上げ、そのまま調子に乗ってMリーグに行こうかと思ったらヨーナから掛かる待ったの声。


「先に魔導書読んじゃってくれよ。そうすりゃお前らが楽しんでいる間に読んどくからさ」


 いや、せめて観戦くらいはしてくれないかな?


 なんて突っ込みはたぶん無駄だろうからする必要はないんだけど、確かに楽しんでるのは私とフィナだけだろうし、仕方がないから要望には応えてあげようか。


 そんな訳で急かすヨーナに背を押されながら併設されたカフェに向かい、コーヒーを注文したら早速読み始める。


 内容はなんというか、魔導書とは程遠いエルフの冒険記だった。


 様々な魔法生物とのバトルとハーレムの女性達との珍道中で、舞台は今私達がいるこの大陸。


 物語の終わりは原初の澱みと言う、様々な魔法を繰り出す黒いスライムみたいな物を封印している場面の後、エルフ達が喜び合っている最中に封印されたスライムが胎動するという意味深なもの。


 これはつまり、あれかな? この大陸のラスボスはこの原初の澱みっていうパターンなのかな?


 ま、その辺の詳しいことはこの魔導書からは分からなさそうだし、今は目先のことを優先しよう。


 読み終えたことで条件を満たしたのか、アナウンスが頭の中に響き【知りたがり屋】の効果がプロフの魔法に変化した。


 その効果は自分のレベルの他モンスターのレベルや特性などが分かるものだけど、他のプレイヤーのレベルを見れないのはちょっと残念かな。


 ちなみに私のレベルは360でした。これが高いかどうかは、大陸のモンスターのレベルを見て比較してみようか。……どうせ二人は教えてくれないだろうしさ。


「面白かったか?」

「うーん、まあまあかな。王道ファンタジーのハーレム物ってとこ。でも、ラストはこの大陸のラスボスを匂わせる感じだったよ」

「なる程、それならエルフの村で聞き込みするのも良さそうですわね」


 あ、それも良いかも。あそこのピザ、美味しかったからまたなんか買いたいしね。


 でも、先ずはMリーグに挑戦しよう。


「それじゃあ私は行くけど、二人はどうする?」

「読んだら行く」

「だから、読み終えるまでに終わらせないで下さいまし」


 んー、それは相手次第って感じかな。


 プリンに刺さっていた旗を頭上に掲げてご満悦なフィナを椅子から立たせ、二人に早く着てねと声をかけながら受付へと向かう。


 さぁて、どうせなら遅れてきた二人に丁度良いタイミングで勝利報告をしたいところ、ではあるのだけど。果たして、どんな相手が待ち受けているのかなっと。


 そんな若干の期待を込めて向かったMリーグは、思ったよりも特徴的なものだった。


「俺はロックゴーレム使いのタケル! 軋むビートで音を上げな!」


 最初の刺客は、上半身裸の男と岩で出来たゴーレムのコンビ。その組み合わせはある意味普通なのだけど、それよりもこの口上は毎回あるのかな? 


 えっと、……恥ずかしくない?


 そんな突っ込みを心に秘めたまま始まったバトルは、フィナの龍星拳で無事勝利。この調子なら、あっさりと良いところまで直ぐに行けそうかな?


「ふふっ、私の名はカスガ。その流れはせせらぎから激流まで。奏でるビートは波の様。私のウォーターゴーレム、あなたに乗りこなせて?」


 そして、次の相手はセクシーな水着を見事に着こなすお姉さん。


 二回目ともなるとこのノリにも慣れてきたのだけど、観客が今は居ないとは言え此処はある意味公共の場とも言える場所。


 それなのに、セクシーな水着でこの場に立つのは恥ずかしくないのかな? ……私だったらそんな度胸ないと思う。海やプールだったらまだしも、こんな場所で……なんて。


 しかし、そんなこと考える余裕はバトルが始まった瞬間、どこかへ吹っ飛んでいった。


 そう、二人目の刺客にしてMリーグの恐ろしさをまざまざと見せつけられてしまったの。


 フィナはユラユラと水面の様に揺れ動くゴーレムへと果敢に攻撃を加えていくけど、相手の様子からは攻撃が効いている素振りが一切見られない。


 見た目は先程のロックゴーレムと似たようなフォルムをしていて、岩を組み合わせたゴツい人型。しかし、その色合いはまさに水と行った様に透き通っている。


 まさか、本当に水で出来ているのかな? こういう敵には、物理的な攻撃は一切通じないのが定番なんだけど……。


 うん、その推測は正解だった。慌ててプロフの魔法で見てみると、物理攻撃は無効で魔法攻撃のみ有効とのこと。


 物理の混ざる龍星の技は効かないし、爆発も魔法ではないのか全くダメージが入っていない様子。


 その現状に私が呆然としている間にも、フィナは何も出来ないままウォーターゴーレムの繰り出す激流に呑まれ続け、最後には壁に叩きつけられてHPが消失。


 周囲に、試合終了を知らせるブザーが無残にも鳴り響いた。


「フィナ!」


 その音で漸く我に返り慌ててフィナの下へ駆け寄ると、相当悔しかったのか私に抱きつき涙を流して身を震わせている。


 ごめんよぅ。はぁ、魔法攻撃の事なんて何にも考えてなかったなぁ。


「ふふっ、大陸に来たばかりのおのぼりさんでは、ここから先へ進めないわよ」


 そう水着のお姉さんから送られる言葉と共に視界が真っ暗になると、次の瞬間には先程挑戦の意志を伝えた受付が目に入った。


 こうしてさっきまでとは違う景色が瞬時に目に入ると、改めて負けたと感じてしまうよ。


 あーあ、悔しいなぁ。


 その感情を隠しもせずに、とぼとぼとフィナを抱えヨーナとサクラがまだ居るであろうカフェへと向かう。


 すると私は予想以上に早く負けてしまっていた様で、其処ではまだヨーナが魔導書を読んでいるところだった。


 その光景に再びため息をつくと、そんな私達に気付いたサクラが不思議そうしながらこっちに来いと手招きをしている。


 それに従いとぼとぼと近寄り、二人に負けたことを簡潔に伝え、店員さんを呼んでコーヒーと、フィナにココアを注文したところで先程の戦闘を詳しく伝えた。


「流石、大陸にあるだけあって一筋縄では行きませんのね。どうしますの? コンドリオンでもテイムしに行きますの?」

「ううん、どうせならもっと上を目指すよ。目標は原初の澱みをテイムすることかな」


 そう、どうせならこの悔しさをバネに行けるところまで行ってみたい。


 魔導書を読む限り、あれを与えれば魔法関係は完璧だと思う。幸いゴッドテイム石もまだ手元に二つあるし、普通にテイム出来なさそうなら迷わず使ってしまおう。 

 

 そして善は急げと言わんばかりにコーヒー一気に飲み干し、フィナを二人に任せて一人エルフの村へ赴き、情報収集を始める。


 まず最初は、真っ先に目に入った魔導書をくれたあの人だ!


「おっ! どうだい、魔法は覚えたかい?」

「覚えたよ。それより原初の澱みがいる場所知らない?」

「はははっ! いきなり核心か! そうだね、色とりどりの鉱石で形成された洞窟にいる。君にはこれで十分じゃないかな?」

「ありがと! おじちゃん!」


 うんうん、それだけ分かれば十分だよ。具体的な場所は千里眼で探せばいいしね。


 直ぐさま千里眼を使って大陸中を隈無く探すと、ココから先に広がる森の先、大陸北側の先端部分の岸壁にぽっかりあいた穴の奥。其処が教えられた様な洞窟になっていた。


 早速洞窟へ出向き、襲い来るスライム達を蹴散らしながら先へと急ぐ。


 このスライム達、レベルが300程度しかなくて良かったよ、称号のお陰でサクサク進めるもん。私のレベルって、思ったよりも高かったみたいだね。


 それならと自信を持って順調に奥へと進み、再奥で待っていたのはすっかり封印の解けてしまった原初の澱み。


 ぱっと見た限りではその体にテイムポイントは見当たらず、背後に回っても見つけられないことから恐らくそれは内部にでもあるのだろうね。


 そしてきっと、戦闘を進めることで露出してテイム出来る様になるのだと思う。


 そんな訳で、安定のゴッドテイム石が大活躍。


 攻撃される事は一切なく、その脅威を感じたのはレベルEXの表示だけ。さぁ! 落ち込むフィナを喜ばすお土産が出来たし、アオイ様の凱旋である!


「おっ、帰ったか。情報収集どうだった?」

「原初の澱みをテイムしてきた」

「お前ゲームを何だと思ってんだよ」


 えへへ、このスピーディーな展開はヨーナにとってはお気に召さない物だったらしい。


 でも落ち込むフィナも可哀想だから許してねと、ヨーナに納得してもらいゲンちゃんと名付けた原初の澱みを、目を輝かせるフィナに与える。


 元気になったフィナは直ぐにでもリベンジに行きたそうな感じだけど、先ずは性能を確かめておかないとね。もしかしたら、足りないところがあるかもしれないし。


「今のフィナの特性なんかは、魔法で見られませんの?」


 あ、そうか。それが分かればより足りない部分を補いやすくなるよね。


 そう魔導書を読み終わったサクラのアドバイスを受け、早速照れているフィナをプロフの魔法で見てみる。


 するとそこには、今まで融合させたモンスターの特性が長々と書かれていた。


 そして最後の方には、特定の素材で造られた武器以外の攻撃無効の文字。魔法攻撃もちゃんと追加されていたし、これならどんな奴が相手でも大丈夫そうだね。


 うん、むしろ敵はいるのだろうか。


「甘いな。特性をコピーするような奴が出てきたらどうすんだよ」

「そうですわ。どんな状況にも対応できてこそ、最強のゴーレムですわ」


 そっか、そうだよね。この慢心こそが最大の敵と言うもの。案外二人も乗り気みたいで良かったよ。


 でもそうなると、だ。弱点であるその特定の素材を探し出して武器を作り、その武器を装備出来るようにしなきゃならないよね。


「アオイさんは素材の方を調べては如何? 私達は師匠にでも聞いてきますわ」


 おお! たしかに師匠なら刀を持ってるし何か知ってるかもね。良し、フィナは二人と一緒に帰ってもらって私はまたエルフの村にでも行こうかな。


「悪いけどそれは知らない設定なんだ。他を当たった方がいいよ」


 しかしながら、そう何度も順調にいく訳がなかったというね。


 エルフの村の何人かに聞いてみたけど、その知識は別の場所じゃないと分からないみたい。


 これはこの大陸のシナリオ通り、大陸中を探して街を見つけなきゃ駄目かな?


『アオイさん、聞こえまして? どっちも分かりましたわ』


 ところがどっこい、我が家のモンスターは優秀だったらしい。


 帰って話を聞いてみると、師匠から鬼を融合させることで武器を持たせられるようになることと、ミスノからヤドリギをオリハルコンに混ぜることで特別な武器を作れる事を聞き出せた。


 早速鬼ヶ島へと向かい鬼をテイムし、千里眼を活用して森という森を探しまくり、生息数が少ないらしいヤドリギを人数分は賄える位には確保。


 鬼はあの酒が飲みたいと言っていた男の鬼だったけど、融合させてしまえばトヤマさんも文句は言いまい。ごめんね、お酒飲ませて上げられなさそうで。


 さて、これでミスノが武器を作ってくれれば準備完了。ふふっ、待ってろよ刺客共! 強くなったフィナがバッタバッタと倒してやるんだから!


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[一言] 酒が飲めると、ルンルンでティムされた鬼、かわいそう(笑)
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