37. 粉骨砕身
ログインすると運営からのメールが来ていた。内容はイベントの告知で、明日から4日間の開催、詳しい内容は当日発表みたい。
こんなにも急な話だと、何かあるのかと勘ぐっちゃうよね。
まぁ、それは先の話だからおいておこう。問題があるとすれば、それは今のことであり、ログインしてから直ぐに目に入ったベッドこと。
仲良く寝ているフィナともちの姿は、偶にあることだからいいんだよ。
普段は私がログインする頃には二人とも起きているけど、遅くまで小豆につき合っているとこうして眠りこけているみたいだし。
問題はベッドに腰掛け、足を何度も組み直しているチャイナドレスを纏ったジーヌの姿。
髪型も両サイドをシニヨンにして白い布で覆ってと、なかなか様になってるよ。
うん、でも問題はそこじゃない。問題なのは下半身が人のそれになってることと、羽まで無くなってる事。
いやそれ、なんて人魚姫なの? もしかして泡になって消えちゃうの?
「ふふん、龍の型抜きをクリアすると人間形態になれるのだ。それになんと! 格好いいドラゴン形態にだってなれるのだ!」
「おお! じゃあ、滅びのビームとか!」
「白くないから無理だよ」
残念。私は社長よりお金は持っていると自負してるんだけどなぁ。
よし、いつか白いドラゴンを手に入れたら、アイズと名付けよう。
そんなテンションの上がった私達の声が五月蝿かったらしく、起き出してむくれるフィナともちの機嫌を直す為に、三人を連れて部屋を出て、階段を下りてリビングへ向かう。
すると、水場側の窓から何かが覗いているのに気づいた。
「あ、どうも」
思わず会釈すると、その子も同じく会釈で返してくれる。
その反応になんだか嬉しくなり、窓を開けて良い子だね、と顔を撫でてあげる。おおっ! つるっとした感じが心地よいね。
「って、違うよ! なにこの子!」
うん、キリッとした顔に似合わずフレンドリーな感じだったからさ、思わず簡単に受け入れそうになっちゃったよ。
改めて其処にいたものを観察してみると、恐らく水棲のドラゴン、かな。
ヒレで水をバシャバシャしてるから水棲だと思うけど、何でこの子はこんなにテンション上がってるの? 十メートルの巨体だからか、バシャバシャどころじゃ無くなってるよ。
「ドラゴンって、狐の尻尾が好きなのが多いんだよね」
「あら、そうなのですわね。アオイさん、尻尾を窓の外に出してくださらない?」
「ヤダよ! それ絶対甘噛みパターンじゃん!」
サクラが居るってことは、この子はサクラのドラゴンなんだね。
名前はミズチというそうで、泳ぎが凄いらしく既に南の大陸にも行ってみたらしい。
色々と速すぎだって。
「いつ生まれたの?」
「日付が変わったくらいですわね」
サクラってさ、私達と一緒にログアウトしてるよね? その後も一人でやってるのか、……ちゃんと寝てるのかな?
「どうしたんだそんなとこで……って、なんだこいつ!」
うん、ヨーナはちゃんとログアウトしてるみたいで安心したよ。これでサクラの眠気からくる暴走が起きても、止める人がいるからね。
そんな頼りになるヨーナにもミズチのことを説明しつつ、もう待ちきれない様子のフィナともちにおやつをあげる為にテーブルの方へ。
「ジーヌは生足だし、サクラのドラゴンは生まれてるし、私のドラゴンはなんでまだなのかと」
「大きさも関係あるんでなくて?」
おやつの準備も終わり、ひとまずコーヒーを飲んで落ち着いたところで、ヨーナが未だに孵っていない手持ちの卵のことで愚痴をこぼす。
ところで、このコーヒー美味しいなぁ。ジーヌが淹れてくれたやつだけど、感想を言おうにも今はキッチンでお菓子づくりに励んでいる。
うん、思わぬところで人材確保だね。前から興味はあったけど、今までは羽や長い下半身が邪魔になるからと、入らないようにしていたらしい。
祭り村へ行ったら、屋台のおっちゃんにお礼を言っておこうか。
「でかいドラゴンか、くそ長いハルバードでも作って貰おうか」
「女騎士も竜騎士にジョブチェンジですわね」
「これでオークも怖くないね! あれ? そう言えばサクラ黒いオーラ出て無くない?」
「あんなの、とっくに変更しましたわ」
むぅ、ちょっと残念だなぁ。あれって格好良かったのに。
それにヨーナも効果を変えたそうだし、私もあのいなり寿司の効果は変えた方が良いかな? ……うーん。
「変えたくないのか?」
「あの幸せは失いたくないんだよなぁ」
「端から見たら危ない人ですわよ」
変えるとしても何があるのかな? 確認程度に見てみると、選べる効果は後二つあるみたい。
一つは戦闘中、神々しいオーラが溢れると言うもの。自分でやるのは無し、却下だ。
もう一つは、特定のモンスターを一撃で倒すと言うもの。うん、称号に巫女とつくだけあって、アンデッド系なの。
私、ホラー系は遠慮したいんだけど。
「それを選ばない理由はねーだろ」
「うぅ、盾にしないでね」
「特攻はさせますわ」
これが活躍しないことを祈ろうか。スケルトンは骨格だから大丈夫だけど、ゾンビやお化けは遠慮したいのです。
うん、こういうことを考えること自体駄目だったんだよね。
運営は私の考えが読めるのだろうか?
称号の効果を試せたら、と思いランダムダンジョンに来てみたものの、目の前にはずらりと並ぶのは骸骨の軍団。そして背後には民家。
民家の前には民家を防衛せよと書かれた立て看板があり、敷地内には大量のお札がダンボール箱に入って置かれていた。
モンスターとしてはがしゃどくろと言う名前だけど、大きさは等身大だから何となく肩すかしな感じかな。
いや、いくら大丈夫と言ってもさ、数を揃えられたら気持ち悪いっての。
「最早ダンジョンではないと思う」
「札を貼らないと骸骨、不死身らしいぜ」
「アオイさん、試しにやってみては如何かしら?」
まぁ、それが目的で来たようなものだし、良いんだけどさ。……どうせ上手くいったら、二人ともサボるでしょ?
とりあえず二人にジト目を披露しつつ、不死身は流石に、と思いながらも短刀を骸骨に向け投擲してみる。
するとどうでしょう! 当たった瞬間脆くも崩れ去る骸骨さん。しかし、喜んでもいられる暇もなく骸骨軍団が襲いかかってきた!
「任せたぜ」
「酷くない!?」
「私達は民家を探索してきますわ」
もう! たった一人で防衛戦とか、流石にしんどいのですが!
裏へと回り込もうとする骸骨の対処には、いくら神速通があると言っても限度があるってのに……。
あ、空から弾幕張ればいいのか。
ただ弾幕を放つのも退屈だからと、新しくカラフルなものを作って見たところ、結果的に目が痛くなるだけだった。
美しい弾幕を作るのも大変なんだね。
そんなことをしてる間に等身大の骸骨の殲滅は完了し、後は遠くの方に見えてきた巨大な骸骨だけ。
やっぱり、あの方が私達がイメージしやすいがしゃどくろだね。
戦況は落ち着いたものだし、二人の様子を見に民家へ降りてみると、其処に広がっていたのは信じられない光景。
縁側に接した部屋で、呑気に饅頭をお茶請けに緑茶を啜っている二人の姿だった。
「流石にそれはどうかと思う。憤慨なのです」
「まぁ、良いじゃねーか。適材適所だ」
「その代わり、あのデカ物は私達が受け持ちますわ。ゆっくりしてくださいまし」
はぁ、それならいいや。
それに加えて残っていたお茶請けは強奪するとして、あのがしゃどくろは歩くペースも遅いみたいだし、この間に気になってたことでも聞いておこうかな?
「南の大陸ってどんなとこだった?」
「一言で言えば、戦乱の地ですわね」
「それは物騒だな」
事実、物騒な所らしい。
上陸した際に現れたウィンドウによると、悪政をしく魔王を討伐し新たな王となるのが、この地での目的なんだとか。
ただし注意しなければならないのが、その大陸ではPvPが適用されているという点だそう。
「つまり、プレイヤー対プレイヤーの戦争か。血の気が多そうな奴が集まりそうだな」
「装備が奪われたりとかもあるの?」
「それは無いですわ。あくまで奪うのは王位ですもの」
王になれば、AI搭載のNPCを用いた国家運営まで行えるらしいし、新しい国を作る事も出来るみたい。
運営はこのゲーム内で、全てのゲームジャンルを行えるようにする気でいるのかな?
「そう言えば、お兄ちゃんは大陸たどり着いたのかな?」
そう言えば、あの人も新たな大陸を目指していたんだよね。
普段一人暮らししている人だし、特別連絡取ったりはしてないから今何しているかもよく分からないんだよなぁ。
「あの人は今、失恋で傷心中ですわよ」
「「嘘だっ!」」
全ての女性の執事を目指す、とか言っちゃうような人が、恋なんて無理ってもんでしょ。ヨーナも同じ考えみたいだし。
「でも、なんでサクラが知ってるの?」
「恋愛相談を受けましたの」
「人選ミスだな」
「失礼な。私はこれまで、多くの女性を落としてきましたのよ」
「テレビゲームでの話なら、お兄ちゃんの方が経験豊富だよ?」
無言でお茶を啜るって事は、適当なアドバイスでもしてたんだろうなぁ。
そんなお兄ちゃんはまだその人を諦められないらしく、普通になって振り向かせてみせると意気込んでいるらしい。
お兄ちゃんが普通とか、絶対無理な方にお年玉だって賭けられるよ。
「ちなみに、告白の言葉とか聞いた?」
「例えば君が傷ついたとしても、挫けそうになったとしても……」
「アウトだ! ほぼ丸パクリだし、それ告白の言葉でもねーだろ!」
でも、青春にはぴったりかもね。
さて、外を見ても巨大ながしゃどくろは近寄ってくる気配が見られないし、待っているよりこちらから行った方が早そうかな。
てな訳で、二人には頑張って貰おうか。
その後、二人が巨大ながしゃどくろ倒したタイミングで民家に宝箱が現れ、中身を確認してみると滑らかな石が五個入っていた。
意味不明すぎて逆に意味のある物かもしれないけど、知らないと反応に困る物だよね。




